「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人

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夜の静寂に包まれた王宮の廊下を、私は一人で歩いていた。眠れずに、自分の気持ちを整理したかった。


(明日、私はアルヴィン王子の妃として認められる……)


その決意を再確認しながら歩いていると――


「ロザリー様、こんな夜更けにお散歩ですか?」


「――っ!?」


私は驚き、声の方向を振り向く。そこには、月明かりの下で微笑むヴェルナー王子がいた。


「ヴェルナー王子……」


私は警戒しながら立ち止まる。


「まさか、明日の婚約発表を前に、迷いが生じたのですか?」


彼は穏やかに微笑みながら近づいてくる。


「そんなことはありません」


私ははっきりと答えた。


「私はアルヴィン王子の妃になると決めました」


「……そうですか」


ヴェルナー王子はゆっくりと目を細める。


「それは……残念ですね」


「え?」


「本当なら、貴女には別の道もあったはずです」


彼の言葉が、まるで誘惑のように響く。


「ロザリー様、私の国ルクセンブルクでは、"知性ある王妃"が求められています」


「……」


「貴女のような女性こそ、ふさわしいのではないかと、私はずっと思っていましたよ」


(……っ!)


彼の琥珀色の瞳が、静かに私を射抜く。


「貴女がアルヴィン殿下を選ぶのは自由です」


「ですが――もし貴女が"別の未来"を考えたくなったら、いつでも私の元へ来てください」


彼の手が、そっと私の指先に触れようとする。しかし――


「――それ以上、ロザリーに触れるな」


低く鋭い声が響いた。次の瞬間、ヴェルナー王子の手を払いのけるように、アルヴィン王子が間に入る。


「アルヴィン様……!」


彼の表情は怒りに満ちていた。


「ヴェルナー、貴様……!」


「おや、こんな夜更けにお邪魔でしたか?」


ヴェルナー王子は余裕の笑みを浮かべる。


「ですが、私はただ"未来の王妃"と話していただけですよ?」


「貴様の"未来"にロザリーは含まれない」


アルヴィン王子は強く言い放ち、私の手をしっかりと握る。


「ロザリー、お前は俺のものだ」


私は静かに頷いた。


「はい……!」


「ふふ……では、明日の婚約発表、楽しみにしていますよ」


ヴェルナー王子は優雅に一礼し、月明かりの中へと去っていった。――こうして、婚約発表の前夜に新たな火種が生まれたのだった。
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