「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人

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会談当日――王宮の一室にて。ヴェルナー王子との会談の場は、王宮の中央棟にある応接室で行われることとなった。私は、アルヴィン王子に付き添われながら部屋へ向かう。


「ロザリー様」


扉の前で待っていたのは、エレノア様だった。


「準備はよろしいですか?」


「はい……」


私は深呼吸をし、気を引き締める。エレノア様がゆっくりと扉を開く。すると、そこには――


ヴェルナー王子が、微笑を浮かべながら待っていた。


「ようこそ、ロザリー様」


彼は琥珀色の瞳で私をじっと見つめる。


「お招きいただき、ありがとうございます」


私は優雅に微笑みながら、一礼する。


「では、さっそくお話を始めましょうか」


応接室に入ると、ヴェルナー王子が優雅に微笑みながら席を勧める。


「どうぞ、お掛けください」


「ありがとうございます」


私は慎重に彼の向かいに座った。その横にはアルヴィン王子。彼は腕を組み、警戒するようにヴェルナー王子を睨んでいる。


(アルヴィン様……)


彼の視線は、"お前にロザリーを渡すつもりはない"と語っているようだった。一方、ヴェルナー王子はそんなアルヴィン王子の態度に微笑みながら、ゆっくりと紅茶を口にする。


「さて……ロザリー様」


彼は琥珀色の瞳で私をじっと見つめる。


「本日はわざわざお時間をいただき、ありがとうございます」


「いいえ、私もお話しする機会をいただき、感謝しております」


私は優雅に微笑みながら、紅茶に手を伸ばした。ヴェルナー王子は、しばらく私を観察するように眺めた後、静かに口を開いた。


「ロザリー様……王宮での噂については、すでにお聞きですか?」


「はい」


私は毅然とした態度で答える。


「"ヴェルナー王子が私を自国へ招くつもりだ"という噂が流れていると」


「ふむ、さすがに情報が早いですね」


ヴェルナー王子は微笑みながら頷く。


「では、貴女はどう思われますか?」


「どう……と仰いますと?」


「貴女がアルヴィン殿下の妃として、この王宮に留まることが本当に正しい選択なのか、ということです」


「……!」


私は一瞬、息をのんだ。


(これは……私の立場を揺さぶろうとしている?)


アルヴィン王子がすぐに反論する。


「ヴェルナー、くだらん詮索はやめろ」


「くだらない? いいえ、これは純粋な疑問です」


ヴェルナー王子は、落ち着いた口調で続ける。


「貴女は確かにアルヴィン殿下の妃候補として王宮に迎えられました。しかし、まだ正式な婚約には至っていませんね?」


「……」


「そんな状況で"ヴェルナー王子がロザリー様に興味を持っている"という噂が流れれば、周囲はどう思うでしょう?」


私は唇をかみしめた。


(それはつまり……私が"アルヴィン王子にふさわしくない"と疑われるということ?)


ヴェルナー王子は静かに続ける。


「ロザリー様、貴女は本当にこの王宮で"王妃"になれるとお思いですか?」


(……!)


私は息を整え、彼の瞳をしっかりと見つめた。


「もちろんですわ」


「ほう?」


「私はアルヴィン王子の妃として、この王宮での務めを果たす覚悟があります」


私はゆっくりと紅茶を口にし、優雅に続ける。


「それに……王宮に流れる噂を、私は気にしません」


「……?」


ヴェルナー王子が興味深そうに眉を上げる。


「王宮とは、常にさまざまな噂が飛び交う場所です。ですが、大切なのは"噂に流されること"ではなく"自らの意思を貫くこと"だと思っております」


私は静かに微笑んだ。


「ですから、ヴェルナー王子――私はアルヴィン王子の妃です。どんな噂が流れようとも、それが変わることはありません」


ヴェルナー王子が目を細める。


「……ふふ、なるほど」


彼はゆっくりと紅茶を置き、静かに微笑んだ。


「やはり、貴女は"ただの聖女"ではありませんね」


「……!」


「ますます貴女に興味が湧きました」


ヴェルナー王子の琥珀色の瞳が、じっと私を見つめる。


「ですが――この王宮が本当に貴女を王妃として認めるかどうか……それは、まだ分かりませんね」


(……!)


彼の言葉の意味を理解する前に、アルヴィン王子が苛立ったように立ち上がる。


「ヴェルナー……お前は何が言いたい?」


「私はただ"貴女の未来には、他の選択肢もある"と伝えたかっただけですよ」


ヴェルナー王子は優雅に微笑む。


「例えば――貴女がルクセンブルクの王妃になるという選択肢もある、ということです」


「……っ!!?」


私の心臓が大きく跳ねた。


(ルクセンブルクの……王妃?)


「ヴェルナー!!」


アルヴィン王子が低く怒鳴る。


「お前、最初からそれが目的だったのか?」


「さて……どうでしょう?」


ヴェルナー王子は余裕の笑みを浮かべながら立ち上がる。


「私はただ"可能性を提示しただけ"です」


彼はゆっくりと私に近づき、低く囁いた。


「ロザリー様……貴女の運命は、本当にこの国にあるのですか?」


「……っ!」


その言葉に、私は一瞬だけ動揺した。すると――


「……いい加減にしろ」


アルヴィン王子が私を引き寄せるようにして、強く抱き寄せた。


「ロザリーは、俺の妃だ。どこにも行かせない」


彼の声は低く、そして深く響くものだった。ヴェルナー王子はくすっと笑いながら、一歩下がる。


「ふふ……では、またお会いしましょう」


そう言い残し、彼はゆっくりと部屋を後にした。ヴェルナー王子が去った後も、私の心は落ち着かなかった。


(ヴェルナー王子は、本気で私を……?)


「ロザリー」


アルヴィン王子が、私の手を強く握る。


「お前は、何があっても俺の隣にいろ」


「……はい」


私はしっかりと頷いた。こうして――ヴェルナー王子との会談は、さらなる波乱を生むこととなった。
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