「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人

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王宮の"慈善祭"が幕を開けた――。庭園に集まった貴族たちは、それぞれ洗練された衣装に身を包み、優雅に談笑していた。長机には孤児院や貧しい者たちへの支援物資が並び、王宮の侍女や騎士たちが忙しく働いている。しかし、この慈善祭が単なる善意の場ではないことは明白だった。貴族たちは"誰が最も影響力を持つか"を競い合い、自らの名声を高めるためにこの場を利用しているのだ。


「まぁ、ロザリー様も貴族としての慈善活動を経験するのは初めてですわよね?」


エレノア様が優雅に微笑みながら私を見つめる。


(……これは試されている)


王宮の妃候補として、貴族たちにふさわしい振る舞いを見せられるのか――それとも、"ただの聖女"としてしか振る舞えないのか。


「ええ、ですが"施しを与える"だけが慈善ではありませんわ」


私は微笑みながら、エレノア様の瞳をしっかりと見つめ返す。


「……ほう?」


エレノア様の表情に、一瞬だけ興味深そうな色が浮かぶ。


「では、ロザリー様はどのように慈善をなさるのかしら?」


貴族たちの視線が、一斉に私へと向けられた。


(ここで、私の"覚悟"を見せる――)


私は、支援物資が並ぶ机の前に立ち、袖をまくった。


「……!」


「まさか、自ら作業をなさるおつもり?」


「そんなこと、今までの慈善祭では誰も……」


ざわめきが広がる。


「ええ、私は"貴族の象徴"としてここにいるのではなく、"王宮と民をつなぐ者"としてここにおります」


私は微笑みながら、貧しい子供たちに直接パンを手渡した。


「はい、たくさん召し上がってね」


子供たちは目を輝かせながら、私の手からパンを受け取る。


「ありがとう、お姉ちゃん!」


「……っ」


その笑顔に、私は心が温かくなるのを感じた。しかし――


「まぁ、ロザリー様……!」


突然、貴族の夫人の一人が驚いた声を上げる。


「そんなことをなさるなんて……貴族としての品位を忘れてはなりませんわ!」


「貴族が直接手を動かすなんて、前例がありません!」


貴族たちの間に、再びざわめきが広がる。しかし――


「……面白い」


エレノア様が、ゆっくりとカップを置いた。


「確かに、貴族がここまで積極的に関わることは珍しいですわね」


彼女は微笑みながら、私をじっと見つめる。


「ですが……それも"新しい形の慈善"なのかもしれませんわ」


「……!」


(エレノア様が、認めた?)


「カトリーナ様、どう思われます?」


エレノア様が隣に座るカトリーナ様を見やる。すると、カトリーナ様は静かに微笑んだ。


「まぁ、私は悪くない考えだと思いますわ」


「……!」


「民に寄り添う姿を見せることも、王宮の新たな在り方として考えられるのではなくて?」


カトリーナ様の言葉に、貴族たちは驚いたように目を見開く。


「確かに、貴族の慈善活動は形式的になりがちでしたわね」


「これは……新たな時代の幕開けなのかもしれませんわね」


貴族たちの空気が、少しずつ変わっていくのを感じた。私は――"新しい王宮の在り方"を示せたのだ。アルヴィン王子が目指す"民と王宮のつながり"。私はそれを、自らの行動で証明できた。


「……ロザリー様」


エレノア様が私を見つめ、ふっと微笑む。


「貴女、本当に面白い方ですわね」


(……"面白い"というのは、認められたということかしら?)


私は静かに微笑みながら、そっと答えた。


「ええ、私は"王妃"になると決めましたから」


すると――


「ふっ……ははっ!」


低く、しかし楽しげな笑い声が響く。振り向くと、そこにはアルヴィン王子が立っていた。


「アルヴィン様……!」


彼は私をまっすぐに見つめ、満足そうに微笑む。


「お前はやはり、俺の選んだ妃だ」


彼はゆっくりと歩み寄ると、私の手を取り、そっと唇を寄せた。


「お前が王宮に来てくれて、本当に良かった」


貴族たちが息をのむ。


「アルヴィン殿下が、ここまで誰かを……」


「これで彼女の立場は、決定的なものになったわね……」


ざわめきの中、私はアルヴィン王子の瞳をじっと見つめた。


「……ありがとうございます、アルヴィン様」


「礼なんかいらない。これは俺の本音だ」


彼は微笑み、私の頬にそっと触れる。


「これからも、俺の隣にいろ」


その言葉に、私は静かに頷いた。――こうして、"慈善祭"という新たな試練を乗り越えた。
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