「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

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朝の陽光が柔らかく降り注ぎ、豪華な花々が咲き誇る美しい庭園。その中心にある噴水の周囲には、精巧な刺繍が施されたテーブルクロスと、繊細な磁器のティーカップが並べられていた。


（これが……王宮の茶会）


私は深呼吸し、優雅な所作で席に座る。今日の茶会は、王宮の貴婦人たちとの正式な顔合わせ。昨夜の舞踏会で踊りは認められたかもしれない。だけど、それだけでは終わらない。言葉と振る舞いで、彼女たちの信頼を得る必要がある。


「まぁ、これがアルヴィン様の新しい妃候補……？」


「聖女というから、もっと素朴な方かと思いましたわ」


貴婦人たちの視線が、一斉に私に注がれる。私は微笑みながら、静かに紅茶を口に運んだ。


「ご紹介にあずかりました、ロザリー・エルヴェールと申します」


できる限り丁寧に、しかし毅然とした態度で言葉を紡ぐ。


（怯えてはだめ。王妃としてふさわしい振る舞いを――）


「まぁ、落ち着いた物腰ですこと」


「ええ……でも、王宮の作法に慣れているのかしら？」


試すような視線と言葉。


（やはり、そう簡単には受け入れられないわね）


そんな中、カップを置く音が響いた。


「皆様、ごきげんよう」


静かでありながら、どこか威厳を感じさせる声――。その声の主を見て、私は息をのんだ。


「エレノア様……」


彼女が来た――！ 深紅のドレスに身を包み、銀色の髪を風に揺らしながら、エレノア様は優雅に席につく。


「ロザリー様、舞踏会では見事な踊りでしたわ」


「ありがとうございます、エレノア様」


私は微笑みながら答える。


「ですが……宮廷において最も重要なのは、言葉と知性ですのよ？」


「……」


挑戦的な瞳が、私を射抜く。


「ロザリー様が本当に王妃としてふさわしいか――お話を交わして確認させていただきますわね？」


エレノア様の微笑みは美しく、それでいて鋭い刃のようだった。


（これは、試されている……）


彼女は宮廷の貴婦人たちの間で絶大な影響力を持つ人物。その彼女が私を認めなければ、他の貴婦人たちも私を受け入れようとはしないだろう。私は静かにカップを置き、彼女の視線をしっかりと受け止める。


「もちろんですわ、エレノア様」


毅然とした声で答えると、彼女の瞳がわずかに細められた。


（さあ、ここからが本当の勝負――）


王宮の茶会という名の"言葉の戦場"が幕を開けた。


「では、ロザリー様にお聞きしますわ」


エレノア様が優雅に紅茶を口に運んだ後、ふと微笑む。


「アルヴィン様の妃として、王宮の政治にどのように関わっていくおつもりかしら？」


「っ……！」


その場にいた貴婦人たちの目が、一斉に私へと注がれる。


（……来たわね）


単なる挨拶ではなく、政治的な見解を求める質問。ここで曖昧な返答をすれば、「王妃としての知性がない」と判断されるだろう。私はカップを持ち上げ、ゆっくりと紅茶を口に運びながら、心を落ち着かせる。


（聖女として、人々を癒し導いてきた……その経験を活かせば、答えられるはず）


私は微笑みながら口を開いた。


「アルヴィン王子の妃として、民と王宮の橋渡しとなる存在を目指します」


「橋渡し？」


「ええ。私は聖女として、多くの人々と触れ合い、彼らの悩みや願いに耳を傾けてまいりました。その経験を生かし、民の声を王宮に伝え、王宮の決定を民に分かりやすく伝える役割を果たしたいと考えております」


広間が、静まり返る。


「……」


一瞬の沈黙の後、貴婦人の一人が驚いたように呟いた。


「まぁ……民と王宮の橋渡しですって？」


「確かに、聖女としての経験を活かすなら、理にかなっているわね……」


ざわめきが広がる。私は静かにエレノア様を見つめた。彼女は紅茶を一口飲んだ後、微かに微笑む。


「なるほど。確かに、面白い考え方ですわね」


「……！」


私は息をのみ、彼女の言葉を待った。エレノア様はしばらく私を見つめていたが――


「ですが、王宮の橋渡しをするには、貴族社会のしきたりや政治に対する深い理解が必要になりますわね？」


「ええ。ですから、これから学んでいく所存です」


「……」


私の言葉に、エレノア様はじっと私を見つめ――やがて、くすりと微笑んだ。


「ふふ……ロザリー様、あなたなかなか面白い方ですわね」


「……！」


「確かに、アルヴィン様が選ばれたのも頷けますわ」


その瞬間、周囲の貴婦人たちの空気が変わる。


「エレノア様がそうおっしゃるなら……」


「確かに、彼女の考えは興味深いわね」


（……勝った）


エレノア様が"認めた"わけではない。でも、彼女の一言で、貴婦人たちの態度が軟化した。


（少なくとも、今この場では"失敗"にはならなかった……）


私は静かに息を吐く。エレノア様は私を見つめながら、意味深に微笑んだ。


「今後のご活躍、楽しみにしておりますわ」


「ありがとうございます、エレノア様」


私が優雅に微笑み返したその瞬間――私はこの王宮で、確かに一歩を踏み出したのだった。