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宮廷楽団の奏でる優雅な旋律が、舞踏の始まりを告げる。私の手を取ったアルヴィン王子は、堂々とした足取りで舞踏の中央へと進む。
(深呼吸して……今までの練習通りに)
エレノア様からの突然の申し出に、貴族たちの視線が集まっているのを感じる。
「ロザリー様は、妃としてふさわしい振る舞いができるのかしら?」
「アルヴィン殿下の隣に立つなら、それ相応の実力を見せてもらわないと」
彼らの囁きが耳に入るが、私は気にせず視線を前に向けた。
(今夜、私は王宮の人々に認めてもらわなければならない)
アルヴィン王子が私の腰にそっと手を添え、ゆっくりと囁く。
「……大丈夫だ、ロザリー。俺が導く」
彼の言葉に、私の緊張が少し和らぐ。
「はい、アルヴィン様」
楽団の音楽が高まり、舞踏が始まる。アルヴィン王子のリードは完璧だった。彼の手のひらが優しく、しかししっかりと私を支え、私の足は自然と動いていく。一歩、二歩――回転。優雅に。広間の空気が変わるのが分かった。最初は私を試すように見つめていた貴族たちの表情が、徐々に驚きへと変わっていく。
「……見事だ」
「彼女、本当に聖女なのか? まるで生粋の貴族のような踊りだ」
「ロザリー様、ここまでの舞踏ができるとは……」
練習の成果を、今こそ発揮する時。クラリス様の厳しい指導を思い出しながら、私はできる限り優雅に、完璧に舞う。アルヴィン王子と視線が合うと、彼はわずかに微笑んだ。
「……素晴らしい」
「アルヴィン様のリードが素晴らしいからですわ」
「違うな。お前が俺の隣にふさわしいからだ」
彼の低い声が、私の耳元で甘く囁く。その瞬間、音楽が盛り上がり、アルヴィン王子は私の手を引き、一気に回転させた。白いドレスの裾がふわりと広がる。私たちは優雅なポーズのまま静止する。広間に、一瞬の静寂が訪れた。
「素晴らしい……!」
貴族たちの拍手が響き渡った。
「まさか、ここまで踊れるとは……」
「アルヴィン殿下の妃として、相応しいのでは?」
驚きと賞賛の声が次々に上がる。私は静かに息を整えながら、アルヴィン王子の手を握る。
(やり遂げた……)
すると、エレノア様がゆっくりとグラスを持ち上げ、微笑んだ。
「まあ……見事な舞でしたわ、ロザリー様」
「ありがとうございます、エレノア様」
私は優雅に微笑み、軽く会釈する。彼女は一瞬だけ私を見つめ、それからゆっくりと微笑んだ。
(――どういう意味?)
一瞬、彼女の瞳に何かがよぎった気がした。しかし、その真意を探る暇もなく、アルヴィン王子が私の手を取り、囁く。
「お前はもう、俺の隣に立つ資格を示した」
「アルヴィン様……」
「誇れ、ロザリー。お前は俺の妃だ」
その言葉が、今夜の舞踏会の成功を確信させるものだった。しかし――この舞踏会は、王宮での私の新たな戦いの始まりに過ぎなかった。
(深呼吸して……今までの練習通りに)
エレノア様からの突然の申し出に、貴族たちの視線が集まっているのを感じる。
「ロザリー様は、妃としてふさわしい振る舞いができるのかしら?」
「アルヴィン殿下の隣に立つなら、それ相応の実力を見せてもらわないと」
彼らの囁きが耳に入るが、私は気にせず視線を前に向けた。
(今夜、私は王宮の人々に認めてもらわなければならない)
アルヴィン王子が私の腰にそっと手を添え、ゆっくりと囁く。
「……大丈夫だ、ロザリー。俺が導く」
彼の言葉に、私の緊張が少し和らぐ。
「はい、アルヴィン様」
楽団の音楽が高まり、舞踏が始まる。アルヴィン王子のリードは完璧だった。彼の手のひらが優しく、しかししっかりと私を支え、私の足は自然と動いていく。一歩、二歩――回転。優雅に。広間の空気が変わるのが分かった。最初は私を試すように見つめていた貴族たちの表情が、徐々に驚きへと変わっていく。
「……見事だ」
「彼女、本当に聖女なのか? まるで生粋の貴族のような踊りだ」
「ロザリー様、ここまでの舞踏ができるとは……」
練習の成果を、今こそ発揮する時。クラリス様の厳しい指導を思い出しながら、私はできる限り優雅に、完璧に舞う。アルヴィン王子と視線が合うと、彼はわずかに微笑んだ。
「……素晴らしい」
「アルヴィン様のリードが素晴らしいからですわ」
「違うな。お前が俺の隣にふさわしいからだ」
彼の低い声が、私の耳元で甘く囁く。その瞬間、音楽が盛り上がり、アルヴィン王子は私の手を引き、一気に回転させた。白いドレスの裾がふわりと広がる。私たちは優雅なポーズのまま静止する。広間に、一瞬の静寂が訪れた。
「素晴らしい……!」
貴族たちの拍手が響き渡った。
「まさか、ここまで踊れるとは……」
「アルヴィン殿下の妃として、相応しいのでは?」
驚きと賞賛の声が次々に上がる。私は静かに息を整えながら、アルヴィン王子の手を握る。
(やり遂げた……)
すると、エレノア様がゆっくりとグラスを持ち上げ、微笑んだ。
「まあ……見事な舞でしたわ、ロザリー様」
「ありがとうございます、エレノア様」
私は優雅に微笑み、軽く会釈する。彼女は一瞬だけ私を見つめ、それからゆっくりと微笑んだ。
(――どういう意味?)
一瞬、彼女の瞳に何かがよぎった気がした。しかし、その真意を探る暇もなく、アルヴィン王子が私の手を取り、囁く。
「お前はもう、俺の隣に立つ資格を示した」
「アルヴィン様……」
「誇れ、ロザリー。お前は俺の妃だ」
その言葉が、今夜の舞踏会の成功を確信させるものだった。しかし――この舞踏会は、王宮での私の新たな戦いの始まりに過ぎなかった。
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