「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人

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突然、食堂の扉が勢いよく開かれた。


「兄上! やっと戻ったんですね!」


勢いよく入ってきたのは、一人の青年だった。栗色の髪に、鮮やかな琥珀色の瞳。そして、アルヴィン王子とどこか似た面影――。


「……ルークか」


アルヴィン王子が渋い顔をする。


「はじめまして! 私はルーク・フォン・アルカディア、アルヴィン兄上の弟です!」


「えっ……?」


弟……?


「お、お初にお目にかかります、ルーク殿下」


私が慌てて礼をすると、ルーク殿下はニコニコと笑って私の前に立った。


「へぇ~、兄上の妃候補ですか! なるほどなるほど……確かに綺麗な人ですね!」


「えっ……あ、ありがとうございます……?」


「でも、兄上みたいな強引な男についていくの、大変じゃないですか?」


「え……?」


ルーク殿下がいたずらっぽく微笑み、私に顔を近づける。


「もし兄上が嫌になったら、僕のところに来てもいいですよ?」


「……っ!?」


冗談めかしたその言葉に、私は思わず目を瞬かせた。しかし――


「ルーク、お前は黙っていろ」


低く響く声とともに、アルヴィン王子がルーク殿下の肩を掴んだ。


「痛い痛い! 冗談ですってば、兄上!」


「……お前はいつもそうだ」


アルヴィン王子がため息をつきながら手を離すと、ルーク殿下は肩をすりながら私に微笑んだ。


「まあまあ、兄上がロザリーさんを大事にしてるのは分かりましたよ」


「当たり前だ」


アルヴィン王子が即答すると、ルーク殿下は肩をすくめた。


「それにしても、僕の知らない間にこんな美しい人が城に来るなんて。面白くなりそうですね!」


「……お前は余計なことをするな」


アルヴィン王子が鋭く睨むが、ルーク殿下はまるで気にした様子もなく、ニコニコと笑っていた。


「そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃないですか、兄上。僕はただ、新しくお迎えした未来の王妃に興味があるだけですよ」


「……」


アルヴィン王子はため息をつきながら椅子に座り直し、ワインの入ったグラスを傾けた。


「ルーク、あまりふざけるな。ロザリーをからかうなら、今すぐ出て行け」


「からかうなんて、とんでもない」


ルーク殿下は私の方を向き、屈託のない笑顔を見せる。


「ロザリーさん、改めてよろしくお願いしますね! 兄上の弟として、何か困ったことがあれば、僕が相談に乗りますよ」


「え、ええ……ありがとうございます」


彼の明るい雰囲気に、私は少し安心した。アルヴィン王子は強引で支配的なところがあるけれど、ルーク殿下は社交的で、どこか人懐っこい印象を受ける。


「ところで、ロザリーさんは兄上のどこに惹かれたんですか?」


「えっ!?」


唐突な質問に、思わずスプーンを落としそうになる。


「な、何をおっしゃって……」


「いやいや、兄上はこう見えて結構一途ですし、気に入った相手にはとことん尽くすタイプですよ?」


「ルーク」


アルヴィン王子が低い声で名を呼ぶ。


「……ん?」


「黙れ」


その一言に、ルーク殿下は苦笑しながら両手を上げた。


「はいはい、分かりましたよ。でも、僕はロザリーさんのこと、もっと知りたいですからね!」


「勝手にしろ」


「じゃあ、またお会いしましょうね、ロザリーさん」


ルーク殿下は軽くウインクをしながら、軽やかに食堂を出て行った。――明るく人懐っこい第二王子、ルーク・フォン・アルカディア。この王宮での生活は、きっと彼によってさらに騒がしくなっていくのだろう。


(……でも、それが悪いことではない気がする)


私はそんなことを考えながら、ふとアルヴィン王子の方を見る。


「……ルークには、あまり気を許すな」


彼は、ワインを飲みながらぽつりと呟いた。


「え?」


「お前を狙うつもりはないだろうが……あいつは、何を考えているか分からない時がある」


「……弟君のことを、そんな風に?」


「俺は昔からアイツの"気まぐれ"に振り回されているんだ。お前が巻き込まれないように、忠告しておく」


アルヴィン王子の言葉には、どこか含みがあった。


(……ルーク殿下には、何か秘密があるのかしら?)


少し気になりながらも、私は静かに頷いた。


「分かりました。気をつけます」


「それでいい」


アルヴィン王子は満足そうに微笑み、再び私の手を取る。


「……さて、朝食も終わった。今日から本格的に妃としての教育を始める」


「……はい」


私は彼の手の温もりを感じながら、この城での新たな生活が本格的に始まることを実感した。そして、まだ知らないルーク殿下の"気まぐれ"が、この先どんな波乱をもたらすのか――私には、まだ知る由もなかった。
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