「ババアはいらねぇんだよ」と婚約破棄されたアラサー聖女はイケメン王子に溺愛されます

平山和人

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それから馬車で城まで送られるまでの間、私たちはずっと手を繋ぎ続けた。馬車に乗り込んでからも、アルヴィン王子は私の手を離そうとしなかった。


「あの、殿下……?」


さすがに恥ずかしくなって問いかけると、彼は私の目をまっすぐに見つめながら答えた。


「俺と結婚すれば、お前は俺のものになる」


「……え?」


「お前を手放したくない。だからお前も覚悟を決めろ」


まるで狩りを始めるかのような鋭い視線に射抜かれて、私は思わず息を吞んだ。けれど同時に、胸の奥が熱くなる。


「お前は俺のものだ」


彼の言葉は、まるで呪いのようだった。でもそれは、私の心に甘い疼きをもたらすものでもあった。私は思わず頬が緩んでしまうのを感じ、慌てて表情を引き締めた。そんな私の様子を目の端で捉えて、アルヴィン王子はふっと微笑んだ。


「……可愛いな」


「え?」


聞き間違いかと思って聞き返すと、彼はさらに続けた。


「お前が好きだ」


「……っ!」


突然の告白に、心臓が大きく跳ね上がる。アルヴィン王子は私をまっすぐに見つめたまま、揺るがぬ視線を向けてくる。その真剣さに、私の顔はみるみる熱くなった。


「え、あの……」


「お前が好きだといったんだ」


「……っ」


なんて、まっすぐで、強引で、それでいて甘い言葉。こんなに堂々と愛を告げられたことなんて、今まで一度もなかった。


「な、なぜそんなに簡単に……」


「簡単なんかじゃない」


アルヴィン王子は私の手をぎゅっと握りしめる。


「俺は王子だ。すべての行動に責任が伴う。だからこそ、自分の気持ちには嘘をつかない」


彼の手の温もりが、私の不安をじわじわと溶かしていく。


「お前が欲しい。お前が必要だ。……それ以上の理由なんて、要るのか?」


「……っ!」


私は何も言えなかった。彼の言葉は、理屈ではなく心に直接響いてくる。私のような者が、王子に愛される価値があるのか。そんな不安も、彼の言葉を前にすると霞んでしまう。


「ロザリー」


彼が私の名前を呼ぶ。


「俺に、お前のすべてを預けろ」


「……っ」


その言葉はまるで求婚の誓いのようだった。私のすべてを、彼に?


「……私は」


声が震える。でも、アルヴィン王子は静かに私の返事を待っている。


(私は……本当に、この人のものになってもいいの?)


ラインハルト侯爵に捨てられ、価値がないと言われた私。でも、アルヴィン王子は何度も言ってくれる。


「俺が決める」「お前は俺の妃だ」「お前が好きだ」


何度も、何度も。まるで、私の心を縛る鎖を解きほぐすように。


「……私は」


息を整え、震える手をそっと彼の手の上に重ねる。


「アルヴィン様と生きる未来を、信じてもいいですか?」


「――ああ」


彼は微笑んだ。


「俺はお前を裏切らない。絶対に」


その瞬間、涙がこぼれそうになった。今まで、誰かにこんな風に求められたことなんてなかった。だから――


「……はい」


私は、彼に手を預けた。アルヴィン王子は満足そうに微笑み、私の手をそっと唇に押し当てる。


「いい子だ」


そのまま、彼は私を引き寄せた。


「――っ!」


驚いて見上げると、彼の顔が近い。


「覚悟しろよ、ロザリー」


彼の低い声が耳元で囁かれる。


「これから先、お前は俺のものだ。俺だけの、たった一人の妃だ」


そう言った彼の瞳には、獲物を捉えた猛獣のような情熱が宿っていた――。


「……本当に、私でいいのですか?」


恐る恐る問いかけると、アルヴィン王子は微かに目を細めた。


「またそんなことを言うのか?」


彼は私の頬にそっと手を添え、親指で優しく撫でる。


「ロザリー、俺の目を見ろ」


促されるまま、私は彼の碧い瞳を見つめた。


「……お前が欲しい。俺の隣には、お前しかいらない」


その言葉には、一点の迷いもなかった。


「お前が過去にどう傷ついたかなんて関係ない。お前が誰に捨てられたかなんてどうでもいい」


アルヴィン王子の手が、私の指を絡めるように握りしめる。


「俺がお前を選んだ。俺が、お前を愛すると決めた」


「……っ!」


心臓が大きく跳ねる。


こんなにも、誰かに強く求められたことがあっただろうか。


「だから、お前も覚悟を決めろ」


「覚悟……?」


「そうだ。俺はお前を決して手放さない。それだけは、覚えておけ」


彼の言葉はまるで呪いのように甘く、私の心を縛りつける。


でも――不思議と、嫌ではなかった。


むしろ、その言葉に安心している自分がいることに気づいてしまう。


「……はい」


私はそっと頷いた。


すると、アルヴィン王子の唇が微かに綻び、満足げに微笑んだ。


「いい子だ」


そう囁いた瞬間――彼の顔が、さらに近づく。


「――っ!?」


私は思わず目を閉じた。だが、アルヴィン王子の唇は私の唇には触れず、額にそっと押し当てられた。


「……お前の覚悟が固まるまでは、ここまでにしておこう」


低く囁かれ、再び目を開けると、アルヴィン王子は静かに私を見つめていた。その瞳には、抑えきれないほどの熱が宿っている。


「でも、時間の問題だな」


彼はそう言って、満足そうに微笑んだ。私は、恥ずかしさと戸惑いの中で、ただ馬車の揺れに身を任せることしかできなかった――。
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