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043.主従逆転デート
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「ご主人さまっ!これっ!これ見てください! 可愛くないですか!?」
「どれどれ……? うん、なかなかいいね。シエルに似合いそう」
その声の高さも、声量も。
いつもより一段と高くなった彼女の声が俺を呼ぶ。
雑踏の中にいてもまっすぐクリアに聞こえるシエルの美声。すぐ隣にいてもなんのその、彼女はここ一番のテンションの高さで駆け寄ってくる。
腕いっぱいに抱えた中から見せつけてきたのは一着のスカート。
この夏にピッタリな黄色でアコーディオンタイプのミニスカートだ。
同意を求めるその声に応えると、自らの腰回りにスカートを当てて鏡を眺めながら楽しそうに身体を動かす。
シエルの誕生日、そしてエクレールに隣国まで拉致されてから数日の時が経過した。
今日は振り替えのシエルに傅く日。つまり再び俺が執事へとなる日だ。
以前の誕生日。俺はあの日着ていた執事服ではなくいつもの着回している服を着用していた。
そしてシエルも俺のシャツとパンツセット。つまりお互い私服のペアルック。
今日はあのコーヒーが届いて数日後。シエルと再びの約束を果たす日だ。
私服のストックがなさすぎる彼女へのお買い物。いうなればデート。このためにお金も貯めてきた。
天気もいいし放出日和だということでともに来た両親は別行動で街を満喫中。以前の反省から防犯魔石は持ったし、どこかで護衛も控えているという。つまり同じ轍を踏むことはない。
「これとこれ、どちらがいいとおもいます!?」
「それなら……こっちかな?」
「こっち……。ありがとうございます!次をお持ちしますね!」
朝から上機嫌のシエルは両手いっぱいに服を抱えながら店のあらゆるところを行き来している。
言うなれば彼女主催のファッションショー。どちらがいいかをもう何回も聞かれている。
女の子のファッション好きは幼くとも万国共通なのだろうか。
今日までずっと給餌服ばかりを来ていたシエル。だから洋服などには欠片も興味ないと思っていたから意外だった。もしかしたら先日行ったというマティとの買い物で一気に開花したのかもしれない。
「ご主人さま!おまたせしましたっ!」
「おかえり。さて、次は何と何を……ってあれっ?」
ファッションショーを再開させるように戻ってきたシエルはまた両手いっぱいの服を抱え…………そう思ったが、その猟の手は空っぽになっていた。
既に買ったのかと思いきやそういった形跡もない。もはやこの店に来たときと同じ状態に俺は思わず疑問の声を上げる。
「シエル、服はもういいの?」
「はいっ!ここのお洋服もよかったですけど、他にもたっくさんお店はありますので!見てからです!」
「み……見てからなんだ……」
「お店の方もキープしてくださるようですからお言葉に甘えちゃいました!」
店の奥を見ると物腰柔らかそうなお婆さんが数着の服を脇に手を振っているのが見えた。
そこで悟った。まだまだこの店は前座だと。
店全ての商品をひっくり返すかにのような勢い。ようやく終わって一息つけるかと思いきや、次の店が待っているようだ。
ここは大通り。マティに案内してもらったときも『あれは服屋、あそこのも服屋』などとガンガンスキップされた覚えがある。
それらを全部見るとなると……
「さ、ご主人さま行きますよっ!」
「う……うん……」
これから待っているであろうショッピングの長旅にタラリと冷や汗が流れ出る。
いつもよりアグレッシブな彼女。きっとちょっとやそっとじゃ満足しないだろう。しかしデートすると行ったのは自分だ。従者として主人の希望には目一杯応えようと店の外に向かおうとすると引っ張られて店を後にしようとすると、ふと腕に暖かな何かが包まれる感触に気づいた。
「シエル?」
「……えへへっ、今日はこのままです!」
視線をさげれば俺の腕にシエルが抱きつくようにギュッと手を回している姿が目に入った。
柔らかくて暖かな感触。今日という日を満喫しようと輝かしいお目々でこちらを見上げている。
「シエル、このまま歩くと転けちゃうから手を繋ぐくらいにしようか」
「ダメ、ですか?」
「ダメです。怪我したらデートどころじゃなくなるでしょう?」
「むぅ……たしかにそうです……」
なんだかんだテンションが高くても聞き分けはいい。少し心残りがあるようだが俺の説得に納得するように腕をほどいて手を繋ぐ彼女。
しかし、心のままに動いて抱きついて来る姿はいつかの妹を彷彿とさせた。
素直に聞いてくれた彼女の頭を優しく撫でると『えへへ』と笑みをこぼしながら受け入れてくれる。
「ご主人様の手、安心します……」
「それはよかった。ほら、次のお店に行こう?」
「はいっ!今日は一杯楽しみましょうね!」
それはシエルが心から楽しんでくれているのだと確信する笑み。
俺はショッピングという選択は間違って田舎んだなと、そして今日初めて女の子のショッピングにかける情熱というものを知るのであった。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
二人楽しげにショッピングをする城下町。
そんな店の外の木陰からは、2つの影が遠くより二人の姿を見つめていた。
「ふふっ、シエル様ったらあんなに楽しそうに……。よっぽどスタン様とお買い物したかったのですね」
「ねぇエクレール、本当にアイツたちを追ってくの?」
「何を言いますマティナール様!こんな楽しそうなこと、内緒にする方こそズルいですよ!そして今日の私は"オリヴィエ"です!」
「それを言うならあたしのことも今日は"アンジェリカ"と呼ぶって言ってたじゃない。設定はどうしたのよ設定は」
木陰よりコソコソと会話をする二人の少女。その端ではいつものスーツ姿の女性が周りに睨みをきかせるという異様な状況に道行く人は怪訝な顔で通り過ぎていく。
「夫失礼いたしました。アンジェリカ様、こんな大変面白そうなイベントですよ!先日お邪魔した分今回は表に出ることは許されませんが、遠くより見守る義務があります!」
「どんな義務よ。……それよりいいの?あの二人、仲良く次の店に行こうとしてるけど」
「!! 今行きます!待っててくださいね!スタン様~~!」
店からでていく二人にあわてて追いかけていく不審な人影。
もはやいつバレてもおかしくないようなエクレールの奔放さにマティナールは1人ため息を吐くのであった。
「どれどれ……? うん、なかなかいいね。シエルに似合いそう」
その声の高さも、声量も。
いつもより一段と高くなった彼女の声が俺を呼ぶ。
雑踏の中にいてもまっすぐクリアに聞こえるシエルの美声。すぐ隣にいてもなんのその、彼女はここ一番のテンションの高さで駆け寄ってくる。
腕いっぱいに抱えた中から見せつけてきたのは一着のスカート。
この夏にピッタリな黄色でアコーディオンタイプのミニスカートだ。
同意を求めるその声に応えると、自らの腰回りにスカートを当てて鏡を眺めながら楽しそうに身体を動かす。
シエルの誕生日、そしてエクレールに隣国まで拉致されてから数日の時が経過した。
今日は振り替えのシエルに傅く日。つまり再び俺が執事へとなる日だ。
以前の誕生日。俺はあの日着ていた執事服ではなくいつもの着回している服を着用していた。
そしてシエルも俺のシャツとパンツセット。つまりお互い私服のペアルック。
今日はあのコーヒーが届いて数日後。シエルと再びの約束を果たす日だ。
私服のストックがなさすぎる彼女へのお買い物。いうなればデート。このためにお金も貯めてきた。
天気もいいし放出日和だということでともに来た両親は別行動で街を満喫中。以前の反省から防犯魔石は持ったし、どこかで護衛も控えているという。つまり同じ轍を踏むことはない。
「これとこれ、どちらがいいとおもいます!?」
「それなら……こっちかな?」
「こっち……。ありがとうございます!次をお持ちしますね!」
朝から上機嫌のシエルは両手いっぱいに服を抱えながら店のあらゆるところを行き来している。
言うなれば彼女主催のファッションショー。どちらがいいかをもう何回も聞かれている。
女の子のファッション好きは幼くとも万国共通なのだろうか。
今日までずっと給餌服ばかりを来ていたシエル。だから洋服などには欠片も興味ないと思っていたから意外だった。もしかしたら先日行ったというマティとの買い物で一気に開花したのかもしれない。
「ご主人さま!おまたせしましたっ!」
「おかえり。さて、次は何と何を……ってあれっ?」
ファッションショーを再開させるように戻ってきたシエルはまた両手いっぱいの服を抱え…………そう思ったが、その猟の手は空っぽになっていた。
既に買ったのかと思いきやそういった形跡もない。もはやこの店に来たときと同じ状態に俺は思わず疑問の声を上げる。
「シエル、服はもういいの?」
「はいっ!ここのお洋服もよかったですけど、他にもたっくさんお店はありますので!見てからです!」
「み……見てからなんだ……」
「お店の方もキープしてくださるようですからお言葉に甘えちゃいました!」
店の奥を見ると物腰柔らかそうなお婆さんが数着の服を脇に手を振っているのが見えた。
そこで悟った。まだまだこの店は前座だと。
店全ての商品をひっくり返すかにのような勢い。ようやく終わって一息つけるかと思いきや、次の店が待っているようだ。
ここは大通り。マティに案内してもらったときも『あれは服屋、あそこのも服屋』などとガンガンスキップされた覚えがある。
それらを全部見るとなると……
「さ、ご主人さま行きますよっ!」
「う……うん……」
これから待っているであろうショッピングの長旅にタラリと冷や汗が流れ出る。
いつもよりアグレッシブな彼女。きっとちょっとやそっとじゃ満足しないだろう。しかしデートすると行ったのは自分だ。従者として主人の希望には目一杯応えようと店の外に向かおうとすると引っ張られて店を後にしようとすると、ふと腕に暖かな何かが包まれる感触に気づいた。
「シエル?」
「……えへへっ、今日はこのままです!」
視線をさげれば俺の腕にシエルが抱きつくようにギュッと手を回している姿が目に入った。
柔らかくて暖かな感触。今日という日を満喫しようと輝かしいお目々でこちらを見上げている。
「シエル、このまま歩くと転けちゃうから手を繋ぐくらいにしようか」
「ダメ、ですか?」
「ダメです。怪我したらデートどころじゃなくなるでしょう?」
「むぅ……たしかにそうです……」
なんだかんだテンションが高くても聞き分けはいい。少し心残りがあるようだが俺の説得に納得するように腕をほどいて手を繋ぐ彼女。
しかし、心のままに動いて抱きついて来る姿はいつかの妹を彷彿とさせた。
素直に聞いてくれた彼女の頭を優しく撫でると『えへへ』と笑みをこぼしながら受け入れてくれる。
「ご主人様の手、安心します……」
「それはよかった。ほら、次のお店に行こう?」
「はいっ!今日は一杯楽しみましょうね!」
それはシエルが心から楽しんでくれているのだと確信する笑み。
俺はショッピングという選択は間違って田舎んだなと、そして今日初めて女の子のショッピングにかける情熱というものを知るのであった。
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二人楽しげにショッピングをする城下町。
そんな店の外の木陰からは、2つの影が遠くより二人の姿を見つめていた。
「ふふっ、シエル様ったらあんなに楽しそうに……。よっぽどスタン様とお買い物したかったのですね」
「ねぇエクレール、本当にアイツたちを追ってくの?」
「何を言いますマティナール様!こんな楽しそうなこと、内緒にする方こそズルいですよ!そして今日の私は"オリヴィエ"です!」
「それを言うならあたしのことも今日は"アンジェリカ"と呼ぶって言ってたじゃない。設定はどうしたのよ設定は」
木陰よりコソコソと会話をする二人の少女。その端ではいつものスーツ姿の女性が周りに睨みをきかせるという異様な状況に道行く人は怪訝な顔で通り過ぎていく。
「夫失礼いたしました。アンジェリカ様、こんな大変面白そうなイベントですよ!先日お邪魔した分今回は表に出ることは許されませんが、遠くより見守る義務があります!」
「どんな義務よ。……それよりいいの?あの二人、仲良く次の店に行こうとしてるけど」
「!! 今行きます!待っててくださいね!スタン様~~!」
店からでていく二人にあわてて追いかけていく不審な人影。
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