前世で抑圧されてきた俺がドラ息子に転生したので、やりたい放題の生活をしていたらハーレムができました

春野 安芸

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032.秘密の報告会

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「いいっ!絶対よ!次回必ず持ってくるから絶対に手伝ってよね!」
「分かってるよマティ。ほら、危ないから身体乗り出さないで」
「絶対よ!絶対だからねぇ~~!!」

 まるで捨て台詞のような叫び声とともにマティを乗せた馬車が森の奥へ向かって遠ざかっていく。
 馬車が小さくなっても窓から顔を出し叫び続けるその姿はまさに今生の別れのよう。

 どれだけ未練があるんだと思いながらも心中察しつつ、俺は黄色いハンカチを振りながら馬車が消えるまで見送っていく。

「マティ様……随分とお辛そうでしたね」
「仕方ないよ。最後の最後で課題やってないの思い出すんだもの」

 夕焼け輝く夏の逢魔が時。
 門限という名の制限時間に達してしまったマティは心残りいっぱいで自宅へと送還されてしまった。
 アレだけ叫ぶのも無理はない。最後の最後で入学前の課題を一つもやっていないと気づいたのだから。
 高校生相当の知識を持つ俺ならばある程度簡単に解けつつ時間を要した課題だが、マティにとっては相当難航するであろう。それが3ヶ月も手つかずとなれば必死になるのも当然である。

「私も終わった身として、しっかりマティナール様をお手伝いしますね!」
「あんまり厳しくしないであげてね。泣いちゃうから」
「はいっ!……善処します!」

 シエルはシエルでさっき終わったばかりにも関わらず、疲れ知らずの教える気満々のようだ。

 あの時のマティを見ればやる気を出すのも仕方ないかも知れない。やってなかったと気付いた時半分くらい泣いていた。
 こちらにすがりつく姿を見て何度丸々見せてやりたいと思ったことか。
 しかしやっていなかったのは彼女の責任。写すことはさせないがフォローは十全を尽くすと約束して帰ってくれた。

 ちなみにエクレールもマティの数分前に帰宅済みである。その時の馬車の数は大名行列のようだったと今思い返しても苦笑がこぼれる。

「さぁボクたちはお夕食の時間だ。ずっとここに居たら風邪引いちゃうよ」
「あ、はいっ!」

 いつまでも見送っているシエルに屋敷に入るよう促す。
 夏とはいえここらは寒暖差が大きい。昼暑くとも太陽が沈めばあっという間に寒くなり、夏着のままだと寒暖差で風邪引いてしまう。

 俺を追いかけるようにパタパタと駆けるシエルとともに屋敷へ入っていく。
 玄関の扉をくぐり道を曲がろうとしたその時、俺はふと思い出すかのように「あっ!」と声を上げた。

「そうそう、ちょっと食事前にお手洗い寄っておきたいから先行っててもらえる?」
「かしこまりました。今日はスープの予定ですが温めはしておきますか?」
「ううん、戻ってからお願いしようかな」
「ではお待ちしておりますね。行ってらっしゃいませ」

 扉を抜けたエントランスでシエルは食事処方面へと曲がり、俺は逆方向へと曲がっていく。
 お手洗いは曲がった先の突き当たり。メイドさんたちは食事に入浴準備と逆方面で慌ただしく動く一方、物置の多いこちらは人の気配がない。
 俺は今一度辺りを見渡しながら誰も近くに居ないことを確認し、お手洗い一つ手前の扉へ音も立てず入っていく。

「……ふぅ」

 誰にもバレず入れたことに安堵の息が漏れた。

 扉を開けた先は小さめの倉庫。
 毛布やシーツ、タオルなどが置かれたリネン室。
 6畳ほどのスペースに自分の背丈以上の棚が並べられ、見渡す限り布製品で埋め尽くされている。
 そんな部屋の奥に立って俺は天へ声をかけるように、外に漏れない程度の声量で呼びかけた。

「レイコさん」

 それはここに居るはずのない人物の名前。
 辺りには誰も居ない自分だけが存在する部屋。しかし俺が声を上げた瞬間、背を向けていた出口方面から何かが降り立った音が聞こえてきた。

「お呼びでしょうか、スタン様」

 誰も居ないはずのこの部屋。聞こえてきた声に振り返ればそ一人の女性が立っていた。
 ピシッと高そうなスーツを着こなす白髮の女性。背筋を伸ばしながらこちらを見下ろす人物はエクレールの従者、レイコさん。本当に来るかどうか少し不安の中呼びかけたところ、無事その姿を目に収めて俺もホッと安堵する。

「相変わらず何処にでも現れますね。レイコさんは」
「それはもちろん忍者ですから」
「……ウソでしょ?」
「はい、ウソです」

 なんのためらいなく嘘を言ってのける彼女に、ジトッとせめてもの抵抗の視線を向ける。
 誰もいないはずなのに呼びかければ駆けつける彼女。本当に忍者として天井裏に忍んでいたのではないかとさえ思っていたから期待が裏切られた気分だ。

「ちょっとした冗談じゃないですか。そんなに睨みつけなくても」
「……じゃあ、その謎の技能は何なんです?祝福?」
「いえ、祝福は一人一つなので。私のこれは30年この世界で過ごしたちょっとした特技ですよ」

 そう言って何処からともなく折り紙を取り出してきて一瞬のうちに折り鶴を作ってみせる様はまるで手品。
 忍者ではなく手品師。この世界で大道芸師としても食べていけそうだと思いつつ、ふと気になったことを問いかける。

「そういえばエクレールは帰りましたけど、大丈夫なんです?」
「えぇ、護衛は他にも居ますしどうせ馬車。”車”でもない限りは余裕で追いつけますよ」
「忍者でも車に追いつくのは至難の業だと思うんですが……」
「私は忍者ではなく従者ですので」
「…………」

 いくら忍者が人間離れしていても人は人。時速50,60出す車に対抗する事ができるのだろうか。従者ならなおさら、祝福持ちとはいえ本当に人間なのかと疑ってしまう。
 しかしそれを口に出したところでまた冗談とか適当な事を言われるのは目に見えている。彼女の言葉に無言で答えて見せると、コホンと咳払いをしてみせた彼女は真っ直ぐ俺を見据え、口を開いた。

『それよりも本題を。今回の”報告”を行ってもよろしいでしょうか』
『……お願いします』

 踵を合わせてまるで騎士然とした凛とした声に、弛緩していた空気が一瞬のうちに引き締まった。
 聞こえてきたのはこの世界の言語ではない別の言葉。”日本語”を告げたことでこれから本題に入るのだと俺も背筋を伸ばして同様に返す。

『では……。先日西の村へ調査に入りましたが特筆するものはなし。またその村より北に行った洞窟で未登録の魔道具を発見しましたが自立浮遊する程度でめぼしいものではなく……』
『空振り、でしたか』
『はい。これで”協力体制”を構築し3ヶ月……めぼしいものは見つかりませんね』
『これまで30年間も探してきたのでしょう?そう簡単に見つかりませんよ』

 ”協力体制”。
 俺は3ヶ月前、彼女と初めて会った際日本人だと看破され、結果協力体勢を結んだ。
 内容は互いに日本へと帰還する方法等見つかれば情報の共有をするというもの。
 そのためこうしてエクレールが遊びに来る日など定期的に”報告”と称し二人で密談を交わしている。

 しかし現状目立った成果はない。レイコさんが30年探して無理だったのだ。そう簡単に見つかるわけもないだろう。それに――――

『――――レイコさんばかりに調査させて心苦しいですね』
『スタン様の精神は成熟してますが身体はまだ幼児、仕方のないことですよ』

 そう、現状彼女の”報告”を俺が聞いているだけ。情報共有といっても俺が報告できる成果など何一つとしてないのだ。
 まだ入学すらしていない子供。活動範囲も全てが狭い。そこらじゅうを飛び回れる彼女に比べたら移動範囲が段違いである。

『でも、何かしら役に立つことを示さないと……』
『見限られると思ってます?』
『……正直』

 降って湧いた日本への数少ない手がかり。見限られるのはできる限り避けたい。
 だが役に立とうと示そうとするもできることなんてほとんどない。そんな歯がゆい思いに駆られていると、ふと彼女が俺の背丈に合わせるようにしゃがみ込んだ。

『大丈夫ですスタン様、十分役立ってますよ?』
『どこがです?なんにも情報を仕入れられてないの―――わぷっ!』
『それはもちろん、スタン様が此処に居て話し相手になってくれること自体がです。日本語を話せる人なんて私たち二人だけ。同郷の人が居てくれるというだけで私からしたら役に立ってますよ』

 俺の言葉を遮るように頭を撫でてきた彼女は笑顔を浮かべていた。
 こちらの精神は高校生。見た目高校生のレイコさんに頭を撫でられている事実に恥ずかしくなりながら頭を抑えると、彼女はこれで終わりだと言うように立ち上がった。

「それでは”報告”は以上となります」
「は、はい……」

 この世界の言語になったのは終わりの合図。彼女は再び鉄面皮に戻りながらこちらを見下ろす。

「そろそろエクレール様が私を呼びそうな頃合いですのでこのあたりで…………そうだ」
「……?」

 これにて退散。そう背を向けた彼女だったが、最後になにか思い出したかのように再びこちらへと振り返った。

「一つ噂を。先日お城で聞いたのですが隣国にて見知らぬ漂流者が出たという話を耳にしたので、そちらもお伝えしておきます」
「漂流者……日本人でしょうか?」
「さぁ……。あくまで噂、隣国には私も簡単には手が出せませんので」

 どうやら彼女もそれ以上の情報を持っていないようだ。
 気にはなるが隣国ともなると色々難しいところがあるのだろう。

「……わかりました。頭の片隅にでもおいておきます」
「お願いします。……それと最後に一つだけ」
「なんでしょう?」
「――――スタン様のメイド服姿、楽しみにしてますね」

 最後の最後になんてことを―――。
 それはきっと昼に話した従者についての会話からだろう。
 従者になるとは言ったがメイドになるとは言っていない。そう声を大にしようとした瞬間、彼女の瞳がキラリと光った。

「っ……!い、いえっ!だからボクはメイドじゃなくって執事を――――!!」

 ビュウッ――――!!
 俺が抗議しようとした瞬間、風が吹くはずもないリネン室に一陣の風が吹き付けた。
 それは目を開けていられないほどの強風。数秒で収まってゆっくりと瞼を開けると、まるでさっきの存在は幻かのようにレイコさんの姿が綺麗に消え去っていた。
 しかし眼の前に置かれていたのは、綺麗に折りたたまれたメイド服。拾い上げてみると明らかに子供サイズで俺の背丈とピッタリ合致している。

「……絶対に着ませんからね!」

 さっきまで確実になかった服。間違いなく彼女が去り際に置いていったのだろう。
 絶対にメイド服なんて着るものか。そう宣言すると遠くから彼女の笑い声が聞こえたような気がした。
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