127 / 167
第6章
127.主夫か、それとも
しおりを挟む「俺が……マネージャー……ですか?」
あまりに突然の提案に辺りは静まり返る。
マネージャーだって?
俺が?何のために?
全員が黙りこくった空間ではあるものの、脳内ではけたたましく疑問の声が上がっている。
マネージャー業とは一体何をするんだ?何のために俺が選ばれたんだ?彼女たちに不利益はないのか?
イメージと言えばいつも側について時刻管理やスケジュール調整をすることしか出てこない。そんなこと、一介の高校生である俺に務まるものなのか?
夏の段階ではトップアイドルと言っても新進気鋭、という評価だった彼女たちも、今となっては名実ともにあらゆる場面で引っ張りだことなっている。そんな三人の管理を素人の俺に任せていいのだろうか。
幾つもの考えが頭に浮かんでは消えていく。
そんな大役を軽々しく提案し、気軽な気持ちで受け入れて良いのだろうか。
なぜ突然、こんな話が出てきたのだろう。まず聞くのはそこからだ。俺はとりあえずの方針を決めて顔を上げる。
「どうして俺なんですか? そんな大役、務まるとは思えないんですが……」
「ん?あぁ、大丈夫ダイジョブ! そんなに気負わなくたって良いよ! だってマネージャーといっても――――」
「ダメです!!!!」
神鳥さんの言葉を遮るように、今日一番の大声が上がった。
見ると、隣には手を胸元でギュッと握り、目をつむって叫び立つアイさん。
彼女はほんの少し肩で息をしながら神鳥さんを睨みつけ――――
「そんな…………そんなのダメです!! 慎也さんにはお仕事なんかせずにここで私に『おかえり』って言う役目があるんですから!マネージャーみたいに残業続きなんてさせられません!!」
精一杯抵抗するように間に立つアイさん。
アイさんは反対か。少しさみしい気もするけどこうも真剣に俺のことを考えてくれていると嬉しい気持ちにも――――
――――そこまで考えて彼女の言葉の違和感に気づく。
なんだか知らないうちに自分の将来が決まってしまった気がする。
たしか無職確定とかなんとか。専業主夫は魅力的だがさすがに高校生の段階で道を確定するにはまだ早い。俺にだっておそらく、たぶん様々な未来があるはずだ。
「はぁ……アイは筋金入りね……どこでこうなっちゃったのかしら……」
同じくエレナも俺と同じ読解をしたのだろう。1人呆れてしまっている。
そんなの俺が知りたい。秋からこうなのだから。
「でも……うん、悪くないね。慎也クンを働かせない案」
「リオまで…………」
「だってエレナ、考えてもみてよ。レッスンとか撮影でヘトヘトになりながら帰ると慎也クンの『おかえり』って出迎えと暖かな料理が待ってるんだよ。そういうの…………よくない?」
「…………悪くないわね」
「エレナまで!?」
思いもしなかったエレナの寝返りに思わず声を荒らげてしまう。
俺の意思はどこ行ったのとか、確かに悪くないかなぁとは若干思ってるけど。それでも未来を決めるには時期尚早ではないだろうか。
「ってわけでマネージャー、悪いわね。 慎也に仕事はさせてられないの。なんてったって私達の出迎えがあるんだから」
「こらこらこら。勝手に話を進めない。慎也君本人は何も言ってないでしょう?」
勝手に話を進めるエレナとなだめる神鳥さん。
どうやら今日の神鳥さんは随分とマトモみたいだ。普段自由人なところがあって四面楚歌になるのではないかと危惧したが、やっぱり評判通り仕事はちゃんとできる人らしい。
「そうね。ちゃんと本人に聞かなきゃ。……ってことで慎也!もちろん私達のヒモになるのよね!?」
「ヒモ!?主夫じゃなくて!?」
まさかの主夫ルートではなくヒモルートな選択肢に目を丸くする。
「そうですよ慎也さん!お金は私達が何とかしますので働かなくたっていいんです!」
「主夫ですらなく、ヒモはちょっと……」
「慎也クン、欲望に委ねちまいなよぉ。楽になるぜぃ」
「…………」
三者三様、思い思いのことを言って迫ってくる三人娘。
一歩一歩近づく彼女らから離れるように、こちらも少しずつ離れていくと、突然パン!となにかが弾けるような音がして全員の動きが停まった。
神鳥さんだ。彼女は思い切り手を叩いたようで全員の意識を自らに引き寄せる。
「はいはい、まずは詳しい説明を聞いてからでもいいんじゃない?」
「……そうね」
「むぅ、仕方ない」
「聞いても変わらないと思いますけど……」
どうやら今この場の支配権は神鳥さんにあるようだ。
3人共大人しく従ってくれる様子に問答無用のヒモコースじゃなくって心底ホッとする。
「コホンッ! まずマネージャーっていってもアルバイトみたいなものだよ。業務内容は私の補佐みたいな感じで、スケジュール調整はこちらがやるし運営周りもちょっとした雑用だけ」
「ほっ……」
第一に出た説明にとりあえず最悪の事態は回避できたと胸をなでおろす。
どんな重い重責を担わされるかと思ったが、やることと言えばアルバイトみたいらしい。
よくよく考えたらそのとおりだ。いくら仲いいって言ったって高校生に大事なところを任せるわけない。
「それって結局何も変わらないじゃない。じゃあ、慎也に何を任せるの?」
「うん、それは簡単。こっちで調整したスケジュールの遂行と…………応援だよ」
「「応援?」」
聞き慣れぬ言葉にアイさんと同時に復唱する。
応援……そういう業務でもあるのだろうか。
神鳥さんはそんな返しを予想していたのか、大きくうなずいてからエレナの肩をポンと叩く。
「そ、応援。話は変わるけど三人とも……最近レッスンに身が入ってないでしょ?」
「うっ…………」
「え、そうなの?」
誰かの苦々しい声が聞こえた。
思わず確認するようにそれぞれの顔を覗き込むと見事に視線を逸らされる。
「暇を見つけては三人で慎也君慎也君って喋ってて気もそぞろで……さすがに私もこれはなぁって思ったわけ」
「…………」
どうやら身が入っていない原因は俺のようだった。
さっきまで狂犬の如く噛みついていたのに一切反論しないのを見るに本当なのだろう。
「で、私は考えたわけよ。そんな話に夢中ならいっそ慎也君も見守る形で来てもらおうってね。そしたらみんなレッスンにも身が入るでしょ?」
「だから応援なんですね……」
そこまで言ってくれてようやく俺にも得心がいった。
俺が居ないところで話題がでて仕事に集中できないなら、いっそ引き込もうという作戦みたいだ。
「どう?慎也君。もちろんお給金は出すし、出てくるのも暇な時でいいよ。 先輩から一人暮らしの条件は聞いてるから特にテスト中は勉学に集中してもらうし、悪い話じゃないんじゃない?」
一人暮らしの条件……それは今の成績を保つこと。
多少は融通が聞くとはいえ著しく落ちたら俺まで海外行き待ったなしだ。
けれど神鳥さんの案なら多少勉強時間は減るものの出る日もこちらで決められるとなればデメリットなどあってないようなものだ。
むしろ都合が自由に効くバイトと考えたらこれ以上良いものはないだろう。
「やってみたいけど……みんなはどう思う?」
「私は……今以上に慎也さんと一緒に居られるなら願ったり叶ったりですけど……」
「そうね。あんまり無茶なことはなさそうだし、あれば私がどうにかすればいいしね」
「エレナと同じく~」
どうやら先程とは一転、みんな乗り気のようだ。
俺もゆっくりとうなずいてから神鳥さんと視線を合わせる。
「俺で、いいのなら」
「よしっ!決まり!! ありがとね慎也君!悪いようにはしないからさ!」
「よ……よろしくお願いします」
了承の返事に高笑いをして大振りな動きで俺の肩を叩く神鳥さん。
バイトの面接ってこんな感じなのかな……やったことないから知らないけど。
「あ、マネージャー。私もいい?」
一気に上機嫌になった神鳥さんが封筒から紙を取り出してなにやら書き込んでいると、リオが一人近づいてきて問いかける。
「ん? なんだい愛しの姪よ。 今は気分がいいからある程度のことは聞くよ?」
「ん。 そのバイト枠なんだけど、慎也クンのフォローに一人頼めないかな?」
突然のリオの交渉に俺も神鳥さんも疑問符が浮かぶ。
俺にフォロー役?聞く限りはいらなさそうだけど、そんなに大変なのかな?
「それってなんだかフォローのフォローって感じがするけど…………いる?その役」
「欲しい。お金の問題なら私のから持っていっていいから」
「ん~……まぁ、一人くらいならいっか。 お金については問題ないよ。なに?誰かアテがあるの?」
「ありがと……。 うん。大事な、私達の友達でありライバル」
ホッと安心した様子のリオがちらりと俺の方へと視線を向ける。
友達……あぁ、あの人か。彼女と同様に理解のできた俺は深くリオに頷いた――――。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ある日突然妹ができて俺は毎日愛でてます!
カプ
青春
なにもない普通の日常をおくっていた俺にある日、昔からほしかった『妹』が沢山できた。
わんぱく八重歯妹、萌(8歳)
変態ブラコン妹、桜(14歳)
同級生妹、薫(16歳)
そんな妹に俺は毎日こき使われているがかわいい妹のためなら何でもやる!
それが兄貴だ!
今日も妹を愛でまくり
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる