126 / 167
第6章
126.作戦の失敗
しおりを挟む
「ダメねぇ……何がいけないのかしら……」
日も傾きかけた夕方の休日。
ソファーに腰掛けアイさんを隣にはべらせた俺は、腕を組んで考え込むエレナを見上げる。
「何って全部じゃない?」
「全部ってどこがよ!」
「……人の欲は恐ろしいってことだよ」
そう苦笑しながら眼下で気持ちよさそうに横になっているアイさんを目に収める。
作戦――――エレナ立案の『慎也が全部受け入れる作戦』は失敗だった。
やっぱりというべきか結果は見ての通り。1時間もすれば幸せそうに膝枕されるアイさん。これはコレで可愛いのだが恥ずかしいし、セーターのおかげでスタイルの良さを惜しげもなく晒しているものだから俺の理性もマズイ。
人の欲とは恐ろしいものだ。一つ目標が達成されれば次のものを、それも達成すれば次を……と人の望みには際限がない。きっとアイさんにとってもいくら受け入れようとも際限はないだろうそれこそ人の欲のように。
そんなことを考えながら、なんとか理性を抑え込みつつ再び見上げると今度はエレナが俺の逆サイドの三人がけソファーに腰を下ろしてくる。
「まぁ、仕方ないわ。次の作戦を考えることとしましょうかね。……それにしてもまぁ、幸せそうな顔しちゃって……喜ばしいことだけど複雑ねぇ」
俺の肩に身体を預けながら横になっているアイさんを見る。
どうやらアイさんは一方的に母性を発揮するタイプではないみたいだ。基本的には発揮するが、たまにこうやって甘えることもしばしばある。
甘えて、甘えられ。それはまるで麻薬のよう。一歩間違えれば共依存待ったなしの状況を打破しようとした今回の計画だが、流石に一朝一夕では難しそうだ。
「そういえばリオの姿が見えないけど?」
「えぇ、慎也が作戦遂行中私達は買い物行ってたんだけどね、あの子ったらマネージャーに呼ばれちゃって。お陰で荷物は全部私持ちよ。ぶぅ」
「あはは……お疲れ様」
この1時間ちょっとどこ行ったのかと思えば買い物だったらしい。
チラリと見た袋から顔をのぞかせているのは赤や緑を基調とした品々。もうじき訪れるクリスマスの飾りつけを買ってきたらしい。
重くはなさそうだが随分とかさばっている。持って帰るのは大変だっただろう。
「ほらアイ!早く起き上がって!クリスマスの飾りつけをするって昨日言ったでしょ!!」
「ん~~!! や~~~!!」
エレナの呼びかけに対抗して、まるで駄々をこねるかのように俺の腹回りに抱きつくアイさん。
これはこれで可愛いのだが、その平均よりもある胸の感触が迫ってきてだいぶ理性がまずい。
「こまったわねぇ。 慎也、説得お願いできる?」
「俺?」
「他に誰がいるっていうの?それとも、胸の感触でずっと鼻伸ばしてるの、失望されたい?」
「っ……!説得させていただきます」
どうやらエレナには全てお見通しのようだ。彼女の言葉に思わず背筋がピンと伸び、俺の手はアイさんの肩へ伸びる。
「アイさん」
「……なぁに?」
一時的な退行したように駄々をこねてこちらを見上げてくるアイさん。
完全なるギャップ。いつもカワイイがベクトルが違うあまりの可愛さに何でも受け入れたくなるが、今回ばかりは心を鬼にする。
「そろそろ飾り付けしよっか? ほら、俺も手伝うからさ」
「……や、です」
「そっかぁ。じゃあ、アイがやらないなら私と慎也で全部働いて飾り付けしましょうか。もちろん、邪魔者抜きの二人きりで、ね?」
「……!! い、いえ!私も手伝います!慎也さんはそこでじっとしていてください!私が全部やりますので!!」
俺の言葉にも嫌がっていたアイさんだったが、挑発するようなエレナの言いようによりさっきとは一転、どこかスイッチが入ったように立ち上がってくれた。
「さぁエレナ!どこからやるの!?」
「まったく、現金な子ねぇ」
さっきとはあまりの変わりようにエレナも呆れ顔。
もしかして俺を働かせたくないのだろうかとさえ思ってしまう。
「やぁやぁごめんねエレナ。 そしてただいま慎也クン。今帰ったよ」
アイさんが甘えモードを解除、一転いつものやる気満々で働こうとしていると、ふと部屋の奥からリオが表れた。
マネージャーに呼ばれていたらしいのだが大した用事じゃなかったのだろうか。
「あらリオ、案外早かったのね」
「ん、思ったよりね。それよりもアイがやる気十分ってことは、作戦は成功したの?」
「いえ、失敗よ。これはあくまで"慎也"という人参を前にぶら下げてるだけ」
どうやら俺は人参らしい。
袋から飾りを仕分けしているアイさんを見て「そうだと思った」と肩を竦めるリオ。
「で、リオ。マネージャーはなんだって?新しい仕事?」
「いや、エレナには……間接的には関係するけど今回は違うかな」
「そう?じゃあアイ?」
「ううん、今回は……」
チラリと、リオの目線がこちらに向けられた。
話の流れは聞いていた。察するに、リオが呼ばれた原因であるマネージャーの用事は…………
「……ま、とりあえず詳しいことが本人に聞いてもらったほうが良さそうだね。おーい!マネージャー!!」
きっとどこか近くで待機していたのだろう。リオの呼びかけによって廊下の方から『はーい!』と聞き慣れた声が聞こえてくる。
ほんの少しの床を叩く音。そして扉を開かれるやいなや、姿を現したのはスーツ姿の女性。
「久しぶりだねぇ慎也君! どう?皆とラブラブしてる!?」
「ラブラブって……俺たちはまだ…………」
「なんだよぅ。もういっそ認めちゃえばいいのにぃ」
表れたのは当然、彼女たちの所属する事務所の社長、神鳥さんだった。彼女は煮え切らない返事につまらなそうな顔をする。
「マネージャー。もしかしてそれだけを言いにここへ来たの?私に荷物を押し付けて」
買い物を邪魔されたエレナは少しつまらなそうに問いかける。
きっと荷物持ちが一人になった恨みだろう。随分しんどそうだった。
「違う違う! そんなつまらないことじゃないよ!」
「じゃあなにかしら? 仕事の話なら会社でいいんじゃない?」
「そうともいかないんだよねぇ……今回は慎也君に"仕事"を持ってきたんだから」
「俺?」
ここにいる全員の顔が一斉にこちらへ向けられる。
間違いなく"仕事"と言った。またCMの撮影とか考えられるが、何やら普段とは違う真面目な雰囲気をまとっている。
「そうそう!ちょぉっとした簡単なお願いなんだけどねぇ」
「はぁ……何でしょう?」
彼女は封筒から一枚の紙を取り出しながら、コホンと一つ咳払いをする。
「悪いんだけどさぁ…………私の代わりに、3人のマネージャー業、やってみない?」
「…………へぁ?」
「「えっ……………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
神鳥さんの突然の提案に呆けた声を出す俺。
そして、俺以上に驚きの声を上げるのは金髪と黒髪の二人の少女だった――――。
日も傾きかけた夕方の休日。
ソファーに腰掛けアイさんを隣にはべらせた俺は、腕を組んで考え込むエレナを見上げる。
「何って全部じゃない?」
「全部ってどこがよ!」
「……人の欲は恐ろしいってことだよ」
そう苦笑しながら眼下で気持ちよさそうに横になっているアイさんを目に収める。
作戦――――エレナ立案の『慎也が全部受け入れる作戦』は失敗だった。
やっぱりというべきか結果は見ての通り。1時間もすれば幸せそうに膝枕されるアイさん。これはコレで可愛いのだが恥ずかしいし、セーターのおかげでスタイルの良さを惜しげもなく晒しているものだから俺の理性もマズイ。
人の欲とは恐ろしいものだ。一つ目標が達成されれば次のものを、それも達成すれば次を……と人の望みには際限がない。きっとアイさんにとってもいくら受け入れようとも際限はないだろうそれこそ人の欲のように。
そんなことを考えながら、なんとか理性を抑え込みつつ再び見上げると今度はエレナが俺の逆サイドの三人がけソファーに腰を下ろしてくる。
「まぁ、仕方ないわ。次の作戦を考えることとしましょうかね。……それにしてもまぁ、幸せそうな顔しちゃって……喜ばしいことだけど複雑ねぇ」
俺の肩に身体を預けながら横になっているアイさんを見る。
どうやらアイさんは一方的に母性を発揮するタイプではないみたいだ。基本的には発揮するが、たまにこうやって甘えることもしばしばある。
甘えて、甘えられ。それはまるで麻薬のよう。一歩間違えれば共依存待ったなしの状況を打破しようとした今回の計画だが、流石に一朝一夕では難しそうだ。
「そういえばリオの姿が見えないけど?」
「えぇ、慎也が作戦遂行中私達は買い物行ってたんだけどね、あの子ったらマネージャーに呼ばれちゃって。お陰で荷物は全部私持ちよ。ぶぅ」
「あはは……お疲れ様」
この1時間ちょっとどこ行ったのかと思えば買い物だったらしい。
チラリと見た袋から顔をのぞかせているのは赤や緑を基調とした品々。もうじき訪れるクリスマスの飾りつけを買ってきたらしい。
重くはなさそうだが随分とかさばっている。持って帰るのは大変だっただろう。
「ほらアイ!早く起き上がって!クリスマスの飾りつけをするって昨日言ったでしょ!!」
「ん~~!! や~~~!!」
エレナの呼びかけに対抗して、まるで駄々をこねるかのように俺の腹回りに抱きつくアイさん。
これはこれで可愛いのだが、その平均よりもある胸の感触が迫ってきてだいぶ理性がまずい。
「こまったわねぇ。 慎也、説得お願いできる?」
「俺?」
「他に誰がいるっていうの?それとも、胸の感触でずっと鼻伸ばしてるの、失望されたい?」
「っ……!説得させていただきます」
どうやらエレナには全てお見通しのようだ。彼女の言葉に思わず背筋がピンと伸び、俺の手はアイさんの肩へ伸びる。
「アイさん」
「……なぁに?」
一時的な退行したように駄々をこねてこちらを見上げてくるアイさん。
完全なるギャップ。いつもカワイイがベクトルが違うあまりの可愛さに何でも受け入れたくなるが、今回ばかりは心を鬼にする。
「そろそろ飾り付けしよっか? ほら、俺も手伝うからさ」
「……や、です」
「そっかぁ。じゃあ、アイがやらないなら私と慎也で全部働いて飾り付けしましょうか。もちろん、邪魔者抜きの二人きりで、ね?」
「……!! い、いえ!私も手伝います!慎也さんはそこでじっとしていてください!私が全部やりますので!!」
俺の言葉にも嫌がっていたアイさんだったが、挑発するようなエレナの言いようによりさっきとは一転、どこかスイッチが入ったように立ち上がってくれた。
「さぁエレナ!どこからやるの!?」
「まったく、現金な子ねぇ」
さっきとはあまりの変わりようにエレナも呆れ顔。
もしかして俺を働かせたくないのだろうかとさえ思ってしまう。
「やぁやぁごめんねエレナ。 そしてただいま慎也クン。今帰ったよ」
アイさんが甘えモードを解除、一転いつものやる気満々で働こうとしていると、ふと部屋の奥からリオが表れた。
マネージャーに呼ばれていたらしいのだが大した用事じゃなかったのだろうか。
「あらリオ、案外早かったのね」
「ん、思ったよりね。それよりもアイがやる気十分ってことは、作戦は成功したの?」
「いえ、失敗よ。これはあくまで"慎也"という人参を前にぶら下げてるだけ」
どうやら俺は人参らしい。
袋から飾りを仕分けしているアイさんを見て「そうだと思った」と肩を竦めるリオ。
「で、リオ。マネージャーはなんだって?新しい仕事?」
「いや、エレナには……間接的には関係するけど今回は違うかな」
「そう?じゃあアイ?」
「ううん、今回は……」
チラリと、リオの目線がこちらに向けられた。
話の流れは聞いていた。察するに、リオが呼ばれた原因であるマネージャーの用事は…………
「……ま、とりあえず詳しいことが本人に聞いてもらったほうが良さそうだね。おーい!マネージャー!!」
きっとどこか近くで待機していたのだろう。リオの呼びかけによって廊下の方から『はーい!』と聞き慣れた声が聞こえてくる。
ほんの少しの床を叩く音。そして扉を開かれるやいなや、姿を現したのはスーツ姿の女性。
「久しぶりだねぇ慎也君! どう?皆とラブラブしてる!?」
「ラブラブって……俺たちはまだ…………」
「なんだよぅ。もういっそ認めちゃえばいいのにぃ」
表れたのは当然、彼女たちの所属する事務所の社長、神鳥さんだった。彼女は煮え切らない返事につまらなそうな顔をする。
「マネージャー。もしかしてそれだけを言いにここへ来たの?私に荷物を押し付けて」
買い物を邪魔されたエレナは少しつまらなそうに問いかける。
きっと荷物持ちが一人になった恨みだろう。随分しんどそうだった。
「違う違う! そんなつまらないことじゃないよ!」
「じゃあなにかしら? 仕事の話なら会社でいいんじゃない?」
「そうともいかないんだよねぇ……今回は慎也君に"仕事"を持ってきたんだから」
「俺?」
ここにいる全員の顔が一斉にこちらへ向けられる。
間違いなく"仕事"と言った。またCMの撮影とか考えられるが、何やら普段とは違う真面目な雰囲気をまとっている。
「そうそう!ちょぉっとした簡単なお願いなんだけどねぇ」
「はぁ……何でしょう?」
彼女は封筒から一枚の紙を取り出しながら、コホンと一つ咳払いをする。
「悪いんだけどさぁ…………私の代わりに、3人のマネージャー業、やってみない?」
「…………へぁ?」
「「えっ……………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
神鳥さんの突然の提案に呆けた声を出す俺。
そして、俺以上に驚きの声を上げるのは金髪と黒髪の二人の少女だった――――。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる