咲いても散らぬ、恋の花。

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エドゥアール、7歳→8歳 ③

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 【みおも】の意味がわかったエドゥアールは、ロワおじさまにお礼を言うのも忘れて、リシェーナに向き直る。
 椅子に腰かけたリシェーナのお腹。
 まだ平たいそこに、新しい命が宿っているのだ。
 それは、エドゥアールにはまるで、奇跡のように思えた。

「! そうか! おめでとう、リシェーナ」
「ありがとうございます、殿下」
 リシェーナは薄く頬を染めて、静かに微笑んだ。

 無意識の動作なのだろう。 リシェーナの手は、そっと自身の腹を撫でた。
 大切なものを、護るような動きだ、と思った。


「リシェーナの赤ちゃんなら、きっととてもかわいいと思う。 あとで、おなかをなでさせてほしい」
 リシェーナの大切なものを、エドゥアールも大切にしたい、と思ったのだ。
「…ありがとうございます」
 リシェーナは、じっとエドゥアールの話を聞いていたかと思うと、嬉しそうに微笑んでくれた。


 リシェーナが、僕の言葉で、喜んでくれた。


 それだけで、エドゥアールは認められたような気分になる。
 どうやらエドゥアールはやはり、誰に喜んでもらうよりも、リシェーナに喜んでもらえるのが嬉しいようだ。
 誰に認められるよりも、リシェーナに認められたいらしい。
 そう再確認するエドゥアールの目の前で、母の雄叫びが聞こえた。


「エドきゅんまじ尊いぃ…!!!」
 またもや母は両手で顔を覆って天を仰いだ。
 ロワおじさまはそれを予期していたのだろう。
 いつの間にか母の背後に回って、母の座る椅子をそっと押さえている。
「本当にいい子だ、エド…」
 父は目頭を左手で押さえながら、エドゥアールへと手を伸ばして頭を撫でてきた。
 父に褒められるのも嬉しいのだが、リシェーナの前でこういう風に褒められるのは少し恥ずかしいような気もする。


「姫、ナプキンは食べ物ではありませんよ。 ぺっ、です。 ぺっ」
 フレンティーナは飽きてしまったのか、ナプキンを口に含んでもちゃもちゃしているのだろう。
 ロワおじさまは、器用に母の座る椅子を押さえたままで、優しくフレンティーナに語りかけ、フレンティーナが口に含んだナプキンを軽く引っ張ったようだ。

 フレンティーナはそれを、遊んでもらえていると勘違いしたのだろう。
 笑顔で口に含んだナプキンに歯を立てて、ロワおじさまと引っ張りっこを楽しんでいる。

 ここで、無理矢理にナプキンを引っ張らないのがロワおじさまだ。
 壁際のハンナをちらと見て、エドゥアールがリシェーナからもらったプレゼントと、母のことをハンナに任せると、フレンティーナに近づいた。


「姫、失礼します」
 一応断りを入れて、ロワおじさまはフレンティーナのお腹をこしょこしょと手で擽った。
 フレンティーナが楽しそうに笑い声をあげた瞬間を見逃さずに、ロワおじさまはフレンティーナの口からナプキンを取り去る。
 その瞬間に、フレンティーナは、ナプキンのことなど忘れ去ったのだろう。


「きょ~~」
 と楽しそうに声を上げて、ロワおじさまの方に身を乗り出した。
 フレンティーナが呼ぶ、「きょー」は、【卿】の意味で、ロワおじさまのことだ。
 フレンティーナは、ロワおじさまのことが大好きで、父よりもロワおじさまに懐いている。

 父はそのことについて、「ティーナはアンネに似ているからねぇ。 野生の勘かなぁ…。 ああ、私は構わないよ。 エドは私を慕ってくれているから」と言っているが、やはり多少は寂しいのだろう。


「はいはい、姫、だっこですね」
 手を伸ばして抱っこをせがむフレンティーナを抱っこするロワおじさまを見ながら、うちの家族に賑やかで楽しいなぁ…と思っていると、リシェーナの声が聞こえた。


「家族が増えたら、きっと、明るくて楽しい、ね」
 エドゥアールの座っている位置からは、紅の獅子へと顔を向けたリシェーナの顔は見えない。
 けれども、紅の獅子の表情が優しいから、リシェーナもきっと嬉しそうに微笑んでいるのだろうと思った。

 そして、エドゥアールは気づく。
 リシェーナはいつでも綺麗だけれど、紅の獅子と一緒にいるときのリシェーナは、纏う空気からして違う。
 紅の獅子といるときのリシェーナが一番、嬉しそうで、幸せそうだ、と。
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