上 下
60 / 73
【5】重なる想い

4.最後の砦*

しおりを挟む
 ご主人様がキアラを抱きかかえて脱衣所を歩いている間に、身体が温かい風に包まれて一瞬で乾いた。
 ご主人様お得意の風の魔法だ、とすぐに気づく。

 お互いに、さらりと乾いた裸の肌が触れ合う感じが慣れなくて、キアラがどぎまぎしながらご主人様に抱きついている間に、ご主人様が階段を上り始める。
 どうして裸のままなのか、とか問う余裕もないままに、ご主人様に抱きかかえられたキアラが辿り着いたのは…。


 寝室、だった。


「…ご主人、様…?」
 問う、自分の声に表れていたのは、驚きか、動揺か。
 その、どちらもか。


 寝室に、自分が好きだと言っているひとと、自分を好きだと言ってくれるひとと、裸で共にいる意味を考えれば、混乱せずにもいられない。

 いつも二人で眠っているベッドに、キアラの身体がそっと下ろされる。
 何も身に着けていないことが恥ずかしくて、キアラは掛布にくるまろうとしたのだが、それよりも早く裸のご主人様がキアラの上に乗ってきた。


 微笑んだ、ご主人様が、キアラを見下ろしている。
 そう、認識した途端、キアラの心臓がドッと大きな音を立てて、体温が急上昇したように感じる。
 ぐるぐる、ぐるぐるしていて、なんだかわけがわからない。


 けれど、今、自分が、とてつもなく危ない状態だということは、わかる。
 ああ、だからきっと、キアラの身体はそのような諸症状を訴えて、頭がぐるぐる、ぐるぐると混乱しているのだろう。


 今まで、キアラは裸になっても、ご主人様が裸でキアラを抱きかかえる場面というのは、お風呂に入る以外にはなかったのだ。
 こうして、ベッドでご主人様に押し倒されている状況、というのは、非常にまずい、気がする。


 だって、ご主人様はとっても真摯で紳士だけれど、ご主人様だって健康な成人男性なのだ。
 加えて、キアラはお薬を飲んで症状が落ち着いているとはいえ、発情期。
 ご主人様が、発情期のキアラに(気持ち的な意味で)煽られない可能性がないとは言えない。


 いや、もう、煽られているのかもしれない、と思いながら、キアラは見下ろしてくるご主人様の瞳を見つめ返す。
 ご主人様のロイヤルブルーサファイアの瞳は熱で潤んで、溶けて、キアラの上に落ちてきそうだ。


「俺は、キアラが猫のままじゃなくてよかったと思ってる」
 微笑んだご主人様に告げられた、言葉。


 その言葉に、キアラの心がどんなに震えたか、ご主人様にはわからないだろう。
 伝わればいいのに、と思う。


 ご主人様に、そんな意図はなかったかもしれない。
 けれど、キアラは、キアラがキアラのままで生まれて来てくれてよかった、と。
 キアラがどんな姿であれ、キアラでいてくれてよかった、と告げてもらったような気になったのだ。


 嬉しくて、胸がぎゅっとなって、苦しくて、ご主人様をぎゅっとしたくなった。
 ご主人様の首に縋りついていると、ご主人様がキアラの首筋顔を埋めてくんくんとしたあとで、ちゅっちゅっと口づけてくる。
 するするなでなでと、浮いた背中を撫でられて、キアラはびくりとした。


「ご主人様…、あの、あの、ですから、交尾は、だめ、です」
「…赤ちゃん出来ちゃうから、キアラは俺とえっちするの、嫌なんだっけ」
 ふるふると首を横に振ったキアラに、ご主人様が頷いてくれたから、キアラはご主人様がわかってくれたのだと安堵した。
 だが、キアラがほっとしている間に、ご主人様の手はキアラの尻尾の付け根に伸びて、さわさわと撫でられる。
 顔をわずか傾けたご主人様が、キアラの唇に唇でそっと触れるので、キアラは目を見張ってご主人様の胸を押した。


「ぇ、えっ? ご主人様、話が違いま、っ…!」
 反論するキアラの唇を、ご主人様の唇が塞ぐ。
 塞ぐ、というほどではないが、ちゅっと啄むようにキアラに口づけてきたご主人様に、キアラは口を噤む格好になった。
 唇と唇を重ねるだけの、優しくてふわふわとした、気持ちのいいキスから始まるのは、いつものこと。
 それが、よくわからないけれど、いつの間にか唇と舌を使った、とろとろで気持ちのいいキスに変わっているのだ。


 上手く頭が回らないのは一緒でも、生まれたままの姿のご主人様に押し倒されたときの混乱とは違い、頭がふやふやになって上手に物が考えられなくなる。
 そんな状態でご主人様を見つめ返すと、ご主人様は人差し指と中指の間に、何か薄くて四角い袋を挟んでキアラに見せてきた。


 食べ物、だろうか、と思ってキアラがそれをじっと見つめていると、ご主人様がキアラに尋ねてくる。
「…キアラは避妊具というものを知らないの?」
「ひにん、ぐ? 美味しいですか?」
 耳慣れない単語に、キアラが問い返すと、ご主人様はふっと笑った。
「匂い付きのとか味付きのもあるらしいけど、美味しくはないんじゃないかな。 俺は、余計な匂いとか味がするのは嫌い」
「じゃあ、キアラも匂いや味がするのは嫌です」
 キアラがご主人様に告げると、ご主人様はキアラのことを褒めるときの顔で微笑んで、もう一度キアラの唇に、唇を合わせてくれる。


 そして、ご主人様はすっとキアラの上から離れた。
 その隙に、と思ってキアラは掛布を手繰り寄せたのだが…。
「!」


 ご主人様の脚の間のものが、キアラと一緒にお風呂に入っているときとは違う様子になっていることに気づいて、キアラは赤くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】

うすい
恋愛
【ストーリー】 幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。 そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。 3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。 さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。 【登場人物】 ・ななか 広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。 ・かつや 不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。 ・よしひこ 飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。 ・しんじ 工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。 【注意】 ※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。 そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。 フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。 ※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。 ※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

【R18】魔法使いの弟子が師匠に魔法のオナホで疑似挿入されちゃう話

紅茶丸
恋愛
魔法のオナホは、リンクさせた女性に快感だけを伝えます♡ 超高価な素材を使った魔法薬作りに失敗してしまったお弟子さん。強面で大柄な師匠に怒られ、罰としてオナホを使った実験に付き合わされることに───。というコメディ系の短編です。 ※エロシーンでは「♡」、濁音喘ぎを使用しています。処女のまま快楽を教え込まれるというシチュエーションです。挿入はありませんがエロはおそらく濃いめです。 キャラクター名がないタイプの小説です。人物描写もあえて少なくしているので、好きな姿で想像してみてください。Ci-enにて先行公開したものを修正して投稿しています。(Ci-enでは縦書きで公開しています。) ムーンライトノベルズ・pixivでも掲載しています。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

処理中です...