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【4】過去から現在へ
5.再確認①
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「おいで」
伸ばされたご主人様の手に、キアラはそっと手を重ねる。
恥ずかしいので、キアラは一息にぽちゃんと湯に浸かった。
ご主人様から離れようとしたキアラだが、ご主人様の手がキアラのお腹に回って、ご主人様の方に抱き寄せられる。
そうすれば、あっという間にご主人様の腕の中だ。
ご主人様は、その日もまた、キアラの為にキアラに付き添って早退してくれた。
ご主人様だけでなく、うさぎさんもだ。
ご主人様は魔法騎士の特権をフルに活用して、人獣族が保護されている区画まで付き添ってくれた。
キアラの首の噛み傷を診てもらうためだ。
そうして、くまのお医者さんと初対面を果たしたご主人様は、キアラの言う【くまのお医者さん】の意味をようやく理解してくれたらしかった。
ご主人様に髪と身体を洗ってもらって、キアラは今湯船の中でご主人様という椅子に座ってご主人様に抱きかかえてもらっている。
ご主人様の腕の中は、どきどきするけれども、安心する。
そう思って寄り掛かっていると、ふに、と首の付け根に柔らかい感触が触れて、キアラはびくりとした。
「あ、ごめん。 痛かった?」
ご主人様の、慌てた声が、キアラの後ろで揺れる。
だから、キアラはふるふると首を横に振った。
「いえ、お薬、効いているから、大丈夫です」
「…でも、痛かったよね。 ごめん」
ごめん、と言いながら、ご主人様はキアラの首にある噛み傷に口づけてくれる。
水が入ってこない塗薬を塗ってもらったし、やはりキアラは薬が効きやすい体質のようで、痛みもほとんどない。
それなのに、ご主人様が心配するから、キアラは笑ってしまった。
「痛くないです」
「うん、じゃあ、怖かったね。 ごめん」
ぎゅうっと後ろから抱きしめられて、ご主人様の交差した腕が、それぞれの肩をぽんぽんと叩いてくれる。
そうしたら、なぜか、もう大丈夫だと思っていたはずなのに、じわりと涙が滲む。
猫のときのキアラは、一度も泣いたことなんてなかったはずなのに。
人猫族のキアラは、泣き虫で情けない。
キアラが泣いたら、優しいご主人様はキアラの心配をされるはずなのだ。
それから、どうしてキアラを守れなかったのかと、気に病まれるに決まっている。
それは、キアラの自意識過剰ではないという、自信もある。
だから、キアラは懸命に涙を堪えるのだ。
ご主人様が、キアラは悪くないと言ってくれたように、ご主人様だって何にも、これっぽっちも悪くないのだから。
「いい子、いい子、よく守ったね、キアラ、頑張ったね、ありがとう」
謝罪の言葉の後は、惜しげなくキアラを褒める言葉をくれる。
繰り返し、噛み跡に降る口づけ。
でも、キアラは、そこではなく、唇にキスをしてほしい。
だから、ぱしゃぱしゃとお湯で顔を洗って、滲んだ涙を誤魔化して、ご主人様に向き直る。
「ご主人様…ちゅう、します…」
控えめにキアラがおねだりすると、真実、水も滴るいい男になっているご主人様が、甘く微笑んでくれる。
「いいよ」
その表情も、声も、言い方も素敵で、キアラの胸はきゅううううんとなる。
胸が、いっぱいになって堪らなくて、キアラはご主人様の唇に、ちゅっとキスをした。
軽く触れるだけでは足りなくて、少し長めにキスをする。
でも、それでもまだ足りなくて、舌を出すと、ご主人様も舌を出してくれて、舌と舌、唇と唇で触れ合う。
気持ちはいいのだけれど、なぜだか、それでもまだ足りない。
唇が離れた後もやっぱり胸がいっぱいで、それなのに、なぜか物足りない。
この胸がいっぱいで苦しい感じは、どうしたら治まるのだろう。
この物足りなさは、どうしたら埋まるのだろう。
そんなことを考えながら、じっとご主人様の目を見つめていると、ご主人様が微笑んで促してくれる。
「何か言いたいことがある?」
「すき、です…」
その言葉は、息をするように自然に、口をついて出た。
でも、今まで、伝えたどの【すき】という言葉よりも重くて、覚悟の伴った言葉だったと、思う。
「迷惑なのは、わかってます。 本当は、同じ人猫族と番になった方がいいことも、わかっています。 でも、それでも」
キアラは一度言葉を切って、真っ直ぐにご主人様の目を見つめる。
「キアラはご主人様がいい」
キアラには、これが精一杯の言葉だった。
だって、結婚、なんて言葉は、想像がつかない。
でも、人間のご主人様に、キアラと番になってほしい、なんて言えない。
ご主人様の口にされた、【結婚】という言葉を否定しておいて、都合のいいことだと思われるかもしれない。
でも、それでも、キアラはご主人様がいいのだ。
ご主人様の口にされる、どんな言葉でも、キアラは受け止めるつもりでいた。
番でなくてもいい。
例えば、ペットでもいい。
ご主人様のお傍に、置いていただけるのならば。
それを、許していただけるなら。
そう、覚悟をして、ご主人様の言葉を待つ。
ご主人様は、目を細めて、とても嬉しそうに微笑んでくれた。
「うん、俺も、キアラがいい」
伸ばされたご主人様の手に、キアラはそっと手を重ねる。
恥ずかしいので、キアラは一息にぽちゃんと湯に浸かった。
ご主人様から離れようとしたキアラだが、ご主人様の手がキアラのお腹に回って、ご主人様の方に抱き寄せられる。
そうすれば、あっという間にご主人様の腕の中だ。
ご主人様は、その日もまた、キアラの為にキアラに付き添って早退してくれた。
ご主人様だけでなく、うさぎさんもだ。
ご主人様は魔法騎士の特権をフルに活用して、人獣族が保護されている区画まで付き添ってくれた。
キアラの首の噛み傷を診てもらうためだ。
そうして、くまのお医者さんと初対面を果たしたご主人様は、キアラの言う【くまのお医者さん】の意味をようやく理解してくれたらしかった。
ご主人様に髪と身体を洗ってもらって、キアラは今湯船の中でご主人様という椅子に座ってご主人様に抱きかかえてもらっている。
ご主人様の腕の中は、どきどきするけれども、安心する。
そう思って寄り掛かっていると、ふに、と首の付け根に柔らかい感触が触れて、キアラはびくりとした。
「あ、ごめん。 痛かった?」
ご主人様の、慌てた声が、キアラの後ろで揺れる。
だから、キアラはふるふると首を横に振った。
「いえ、お薬、効いているから、大丈夫です」
「…でも、痛かったよね。 ごめん」
ごめん、と言いながら、ご主人様はキアラの首にある噛み傷に口づけてくれる。
水が入ってこない塗薬を塗ってもらったし、やはりキアラは薬が効きやすい体質のようで、痛みもほとんどない。
それなのに、ご主人様が心配するから、キアラは笑ってしまった。
「痛くないです」
「うん、じゃあ、怖かったね。 ごめん」
ぎゅうっと後ろから抱きしめられて、ご主人様の交差した腕が、それぞれの肩をぽんぽんと叩いてくれる。
そうしたら、なぜか、もう大丈夫だと思っていたはずなのに、じわりと涙が滲む。
猫のときのキアラは、一度も泣いたことなんてなかったはずなのに。
人猫族のキアラは、泣き虫で情けない。
キアラが泣いたら、優しいご主人様はキアラの心配をされるはずなのだ。
それから、どうしてキアラを守れなかったのかと、気に病まれるに決まっている。
それは、キアラの自意識過剰ではないという、自信もある。
だから、キアラは懸命に涙を堪えるのだ。
ご主人様が、キアラは悪くないと言ってくれたように、ご主人様だって何にも、これっぽっちも悪くないのだから。
「いい子、いい子、よく守ったね、キアラ、頑張ったね、ありがとう」
謝罪の言葉の後は、惜しげなくキアラを褒める言葉をくれる。
繰り返し、噛み跡に降る口づけ。
でも、キアラは、そこではなく、唇にキスをしてほしい。
だから、ぱしゃぱしゃとお湯で顔を洗って、滲んだ涙を誤魔化して、ご主人様に向き直る。
「ご主人様…ちゅう、します…」
控えめにキアラがおねだりすると、真実、水も滴るいい男になっているご主人様が、甘く微笑んでくれる。
「いいよ」
その表情も、声も、言い方も素敵で、キアラの胸はきゅううううんとなる。
胸が、いっぱいになって堪らなくて、キアラはご主人様の唇に、ちゅっとキスをした。
軽く触れるだけでは足りなくて、少し長めにキスをする。
でも、それでもまだ足りなくて、舌を出すと、ご主人様も舌を出してくれて、舌と舌、唇と唇で触れ合う。
気持ちはいいのだけれど、なぜだか、それでもまだ足りない。
唇が離れた後もやっぱり胸がいっぱいで、それなのに、なぜか物足りない。
この胸がいっぱいで苦しい感じは、どうしたら治まるのだろう。
この物足りなさは、どうしたら埋まるのだろう。
そんなことを考えながら、じっとご主人様の目を見つめていると、ご主人様が微笑んで促してくれる。
「何か言いたいことがある?」
「すき、です…」
その言葉は、息をするように自然に、口をついて出た。
でも、今まで、伝えたどの【すき】という言葉よりも重くて、覚悟の伴った言葉だったと、思う。
「迷惑なのは、わかってます。 本当は、同じ人猫族と番になった方がいいことも、わかっています。 でも、それでも」
キアラは一度言葉を切って、真っ直ぐにご主人様の目を見つめる。
「キアラはご主人様がいい」
キアラには、これが精一杯の言葉だった。
だって、結婚、なんて言葉は、想像がつかない。
でも、人間のご主人様に、キアラと番になってほしい、なんて言えない。
ご主人様の口にされた、【結婚】という言葉を否定しておいて、都合のいいことだと思われるかもしれない。
でも、それでも、キアラはご主人様がいいのだ。
ご主人様の口にされる、どんな言葉でも、キアラは受け止めるつもりでいた。
番でなくてもいい。
例えば、ペットでもいい。
ご主人様のお傍に、置いていただけるのならば。
それを、許していただけるなら。
そう、覚悟をして、ご主人様の言葉を待つ。
ご主人様は、目を細めて、とても嬉しそうに微笑んでくれた。
「うん、俺も、キアラがいい」
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