【R18】お猫様のお気に召すまま

環名

文字の大きさ
上 下
48 / 73
【4】過去から現在へ

2.味方

しおりを挟む
 キアラは今日も、うさぎさんのところでお手伝いをしていた。

 キアラが恐れていたほど、初めての発情期は怖いものではなかった。
 けれど、それはキアラがひとりではなくて、ご主人様が傍にいてくれたから。
 人兎族で、人獣族のことをよく理解しているうさぎさんが傍で手助けしてくれたおかげだと思う。


 人獣族が、人獣族だけのコミュニティを作って生活する理由も、なんとなくわかった。


 ご主人様は、キアラのことを大切にしてくれるけれど、人獣族のことにはあまり詳しくない。
 気持ちがあっても、気持ちだけにはどうにもならないことは確かにあるのだ。


 猫のキアラが、ご主人様のお役に立ちたいという気持ちだけでは、ご主人様の何にもならないと気づいて、ご主人様の後をついて回って使い魔になったのだってそのためだ。
 誰かの力になるためには、思うだけではなく、そのときに適した行動を取る必要がある。
 それにはきっと、経験や知識も必要なのだ。
 ご主人様もキアラも、その経験や知識が不足している。
 だから、うさぎさんやくまのお医者さんが、キアラの体調のことをあれこれと心配してくれるのが、本当に有り難い。


 キアラは幸い、お薬全般が効きやすい体質だったらしい。
 発情期のお薬さえ飲んでいれば、発情期特有の症状にも悩まされずに済んだ。
 発情期のフェロモンの分泌も抑えられているらしく、通常値ぎりぎりの範囲内だとくまのお医者さんは言っていた。


 それでも、密室などでは空気の流れがないためにフェロモンが停滞しやすいからと、フェロモンを分解するスプレーをくれたのも、くまのお医者さんだ。
 キアラの腰のポーチには、お薬のケースとフェロモン分解スプレーが入っていて、何だかキアラはそれだけで無敵になったような気さえしている。


 キアラは、小さく笑った。
 どうやらキアラは、形から入るタイプだったらしい。
 それから、味方がいることが、こんなにも心強い。


 朝は、ご主人様がうさぎさんの研究室まで送ってくれて、研究室ではうさぎさんがほとんどの時間をキアラと過ごしてくれて、周囲に目を光らせてくれている。
 そうしてお手伝いが終わると、ご主人様がキアラを迎えに来てくれて、朝までご主人様と一緒に過ごす。


 そのためか、レナトというあのいやなひとからの接触は、今のところ、ない。


 こんこん、とノックの音がしたので、キアラはハッとしてポーチからフェロモン分解スプレーを取り出して、貴重な資料や本にかからないようにと気をつけて吹きかける。
「はい、どうぞ」
 キアラが返事をすると、うさぎさんの顔が覗いた。
「キアラちゃん、わたし、所長に呼ばれたからちょっと行ってくるわ」
「はい、わかりました」


 こうやって、声をかけてもらえるのも、本当に有り難い。
 例えば、キアラにお姉さんがいたとしたら、こんな感じなのだろうか。
 うさぎさんのようなお姉さんなら嬉しいと思う。


 キアラが気を取り直して書類の整理を始めると、キィ…と扉が開く音がした。
 必ずノックをするようにと張り紙がしてあるのに、と思いつつ、キアラは振り返る。


「ノック、してくだ」


 言葉は、最後まで続かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...