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【2】猫ではないキアラの新生活
12.初めての花
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ご主人様が言っていたように、ご主人様が連絡をすると、うさぎさんはすぐに来てくれた。
ご主人様からあらかたのことは聞いていたのだろう。
うさぎさんとご主人様が簡単に話を済ませると、口に手を当てて、によによとした含み笑いをご主人様に向ける。
「交尾、したの?」
あからさまな単語がうさぎさんの口から出たので、キアラはぼんっと頭が爆発するかと思った。
「な、な、な」
キアラは顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせて、同じ単語を三回繰り返すのが精一杯だったのだが、ご主人様はけろりとしていた。
「指入れただけだよ」
「ご、ごしゅじんさま!」
恥ずかしげもなくご主人様が言うものだから、キアラは思わず声を上げる。
だが、ご主人様の答えは、うさぎさんにとっては満足のいくものではなかったらしい。
不満げに、少しだけ唇を尖らせた。
「なぁんだ、指だけなの。 人兎族もそうだけど、人猫族も、排卵誘発性だから、交尾して妊娠しないと花が落ちるのよ。 病気じゃないから安心して」
何となく、最後の部分だけがキアラに向けられていて、ほかの部分はご主人様に向けられているように感じた。
キアラの身体のことなのに、うさぎさんがご主人様に伝えるのが不思議で、キアラは問う。
「…花が、落ちる、ですか?」
「今、出血してることをいうの。 身体が、大人の女性になる準備が整ったの」
大人の女性になる準備が整った、ということは、キアラは今日から大人なのだろうか。
よくわからないままに、うさぎさんに、処理の仕方を教えてもらった。
うさぎさんとキアラだけで、処理の仕方を教えてもらっているときに、ほかのこともうさぎさんは教えてくれた。
どうやらこの出血は、一か月に一度程度やって来るものらしい。
そして、妊娠すると、その出血がなくなるということ。
逆に言えば、一か月に一度それがやって来なければ、妊娠を疑うということになる。
けれど、それでキアラは納得した。
うさぎさんが、ご主人様に対してキアラの身体の説明をしたのは、ご主人様にキアラを気にかけてほしい、という、うさぎさんなりの気遣いだったのだ。
お腹が痛くなったときのために、とお薬もわけてもらった。
個体差によってだが、気持ちが不安定になることもあるらしい。 急に寂しくなったり、悲しくなったり、逆に、イライラしたり、ムカムカしたりもするとのことだ。
今日は温かくして休んでいる方がいい、と言われたので、キアラはリビングで待っていて、ご主人様がうさぎさんのお見送りに出てくれた。
◇◆o*゜゜*o*゜゜*o◇◆o*゜゜*o*゜゜*o◇◆
「悪かったな、マリン」
「別にいいわよ」
さっさと玄関から出ていこうとするマリンに、ヒヴェルディアはひとつ、気になっていたことを訊くことにした。
「…排卵誘発性、って言ったが、それは、する度に花が落ちるって事か?」
キアラの前でマリンに訊かなかったのは、キアラには聞かせたくなかったから、そのことに尽きる。
「周期はひとに近いから、避妊している限りは、多くても月に一度ね。 安心しなさい」
「わかった」
マリンは、研究職だからか、その辺の話をするにも、あっさりしていて助かる、と思いながらヒヴェルディアは頷いた。
ドアノブに手をかけたマリンだったが、じっとヒヴェルディアを見つめている。
睨まれている、まではいかないが、凝視とも違う。
じと目、あたりが一番近いだろうか。
そんな視線をマリンはヒヴェルディアに向けて、牽制した。
「…キアラちゃんのこと泣かせたら承知しないわよ」
その発言に、ヒヴェルディアは面食らう。
意味が解らない。
ヒヴェルディアが可愛いキアラを――悲しませるという意味で――泣かせるなんてことはあり得ない。
それ以前に、どうしてそれをマリンが気にするのか。
「…マリン、キアラに過保護だよな」
多少、呆れを含みつつ言ったのだが、マリンはヒヴェルディアの発言を否定しなかった。
どうやら、過保護な自覚はあるらしい。
「うち、あたしが長女で、妹弟がたくさんいるから、面倒見はいいの」
そのように、認めた。
マリンは、一度ドアノブから手を離してヒヴェルディアに向き直ると、真っ直ぐにヒヴェルディアを見つめる。
「ヒヴェル、気をつけてね」
いきなり、話が飛躍した。
「何を?」
全く見当がつかないので、緩く首を傾げて問う。
そうすれば、マリンは当たり前のことをヒヴェルディアに確認してくる。
「キアラちゃん、初咲きでしょ」
「そうだな」
マリンが言った、【初咲き】というのは、初めての生理のことだ。
キアラは猫のときに花が落ちたこともなかった。
猫も、人猫族も、排卵誘発性。
つまりは、交尾することにより、排卵が促進される。
猫の場合は、避妊なんて方法は手術以外にないのだから、交尾をすればそれが即妊娠に繋がり、花が落ちることなどない。
人猫族だと発覚したてのキアラが、ヒヴェルディア以外の男にあれやこれやをされたということは、ありえない。
だから、キアラは今回が初めての花の巡りで、初咲きだ。
そう、ヒヴェルディアは断言できる。
だが、それが一体、何だというのだろう。
意味がわからないままに、ヒヴェルディアがマリンの視線を受け止めていると、マリンは静かに告げた。
「近々、初めての発情期が来るわよ」
ご主人様からあらかたのことは聞いていたのだろう。
うさぎさんとご主人様が簡単に話を済ませると、口に手を当てて、によによとした含み笑いをご主人様に向ける。
「交尾、したの?」
あからさまな単語がうさぎさんの口から出たので、キアラはぼんっと頭が爆発するかと思った。
「な、な、な」
キアラは顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせて、同じ単語を三回繰り返すのが精一杯だったのだが、ご主人様はけろりとしていた。
「指入れただけだよ」
「ご、ごしゅじんさま!」
恥ずかしげもなくご主人様が言うものだから、キアラは思わず声を上げる。
だが、ご主人様の答えは、うさぎさんにとっては満足のいくものではなかったらしい。
不満げに、少しだけ唇を尖らせた。
「なぁんだ、指だけなの。 人兎族もそうだけど、人猫族も、排卵誘発性だから、交尾して妊娠しないと花が落ちるのよ。 病気じゃないから安心して」
何となく、最後の部分だけがキアラに向けられていて、ほかの部分はご主人様に向けられているように感じた。
キアラの身体のことなのに、うさぎさんがご主人様に伝えるのが不思議で、キアラは問う。
「…花が、落ちる、ですか?」
「今、出血してることをいうの。 身体が、大人の女性になる準備が整ったの」
大人の女性になる準備が整った、ということは、キアラは今日から大人なのだろうか。
よくわからないままに、うさぎさんに、処理の仕方を教えてもらった。
うさぎさんとキアラだけで、処理の仕方を教えてもらっているときに、ほかのこともうさぎさんは教えてくれた。
どうやらこの出血は、一か月に一度程度やって来るものらしい。
そして、妊娠すると、その出血がなくなるということ。
逆に言えば、一か月に一度それがやって来なければ、妊娠を疑うということになる。
けれど、それでキアラは納得した。
うさぎさんが、ご主人様に対してキアラの身体の説明をしたのは、ご主人様にキアラを気にかけてほしい、という、うさぎさんなりの気遣いだったのだ。
お腹が痛くなったときのために、とお薬もわけてもらった。
個体差によってだが、気持ちが不安定になることもあるらしい。 急に寂しくなったり、悲しくなったり、逆に、イライラしたり、ムカムカしたりもするとのことだ。
今日は温かくして休んでいる方がいい、と言われたので、キアラはリビングで待っていて、ご主人様がうさぎさんのお見送りに出てくれた。
◇◆o*゜゜*o*゜゜*o◇◆o*゜゜*o*゜゜*o◇◆
「悪かったな、マリン」
「別にいいわよ」
さっさと玄関から出ていこうとするマリンに、ヒヴェルディアはひとつ、気になっていたことを訊くことにした。
「…排卵誘発性、って言ったが、それは、する度に花が落ちるって事か?」
キアラの前でマリンに訊かなかったのは、キアラには聞かせたくなかったから、そのことに尽きる。
「周期はひとに近いから、避妊している限りは、多くても月に一度ね。 安心しなさい」
「わかった」
マリンは、研究職だからか、その辺の話をするにも、あっさりしていて助かる、と思いながらヒヴェルディアは頷いた。
ドアノブに手をかけたマリンだったが、じっとヒヴェルディアを見つめている。
睨まれている、まではいかないが、凝視とも違う。
じと目、あたりが一番近いだろうか。
そんな視線をマリンはヒヴェルディアに向けて、牽制した。
「…キアラちゃんのこと泣かせたら承知しないわよ」
その発言に、ヒヴェルディアは面食らう。
意味が解らない。
ヒヴェルディアが可愛いキアラを――悲しませるという意味で――泣かせるなんてことはあり得ない。
それ以前に、どうしてそれをマリンが気にするのか。
「…マリン、キアラに過保護だよな」
多少、呆れを含みつつ言ったのだが、マリンはヒヴェルディアの発言を否定しなかった。
どうやら、過保護な自覚はあるらしい。
「うち、あたしが長女で、妹弟がたくさんいるから、面倒見はいいの」
そのように、認めた。
マリンは、一度ドアノブから手を離してヒヴェルディアに向き直ると、真っ直ぐにヒヴェルディアを見つめる。
「ヒヴェル、気をつけてね」
いきなり、話が飛躍した。
「何を?」
全く見当がつかないので、緩く首を傾げて問う。
そうすれば、マリンは当たり前のことをヒヴェルディアに確認してくる。
「キアラちゃん、初咲きでしょ」
「そうだな」
マリンが言った、【初咲き】というのは、初めての生理のことだ。
キアラは猫のときに花が落ちたこともなかった。
猫も、人猫族も、排卵誘発性。
つまりは、交尾することにより、排卵が促進される。
猫の場合は、避妊なんて方法は手術以外にないのだから、交尾をすればそれが即妊娠に繋がり、花が落ちることなどない。
人猫族だと発覚したてのキアラが、ヒヴェルディア以外の男にあれやこれやをされたということは、ありえない。
だから、キアラは今回が初めての花の巡りで、初咲きだ。
そう、ヒヴェルディアは断言できる。
だが、それが一体、何だというのだろう。
意味がわからないままに、ヒヴェルディアがマリンの視線を受け止めていると、マリンは静かに告げた。
「近々、初めての発情期が来るわよ」
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