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【1】猫ではなかったらしい

4.ご主人様のお家へ

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「うさぎさんは尻尾、ありますか?」
 トイレを終えたキアラは、ご主人様とレノーのところへ戻ってから、うさぎさんに訊いた。
「あるわよ」
 うさぎさんは、白衣をぺらっとめくって、ぴったりとしたパンツに包まれたお尻を見せてくれる。
 パンツに穴でも開いているのか、小麦色の可愛い尻尾がそこから出ていて、キアラは一瞬にして気持ちを鷲掴みにされる。

「ぅにゃぁぁぁ、触ってもいいですか? ふわふわ、ゆらゆら」
 手をわきわきさせながら、声を上げてしまった。


「え、え、キアラちゃんどうしたの?」
 豹変したキアラの様子に驚いたのだろう。
 うさぎさんは白衣でぱっと可愛い尻尾を隠してしまった。
 とてつもなく残念だ。

 がっかりするキアラの顔を、ご主人様が覗き込みながら優しい苦笑いを浮かべている。
「キアラ。 マリンの尻尾はボールでもないし、猫じゃらしでもない。 お前の玩具おもちゃじゃないぞ」
 言われて、キアラはハッと気づいた。
 あの、心が沸き立つ感じ。

 そうか、キアラはうさぎさんの尻尾を、キアラのお気に入りの玩具おもちゃと重ねて見ていたのか。
 ふわふわ、ゆらゆらで、どうにも気になるわけだ。
 納得したキアラの後ろに回り込んだうさぎさんが、ぐるりと一周回ってきて、キアラの前で首を傾げる。
「キアラちゃんの尻尾は?」
「ズボンの中にあります。 窮屈です」

 そもそも、人獣族というのは珍しい。
 例えば、何か呪いや魔法にかかっているのだとしても、耳や尻尾のついた人間が歩いていたら人目を引く、ということで、ご主人様に隠すようにと言われたのだ。
 けれど、ズボンに押し込まれた尻尾は窮屈で、ズボンに押し込んだままの形になってしまったら大変だと思う。


 すると、今まで黙っていたレノーの鼻息というか呼吸が、急に荒くなり出す。
 丸眼鏡の向こうの目の輝きも少し怖い。
「ねぇ、ねぇ、キアラ姫の尻尾、見てみたいなぁ。 尻尾、出してくれる?」


「? はい」
 尻尾を見せるのは別にいいが、キアラのズボンには兎さんのパンツのように穴は開いていない。
 ということは、尻尾を見せるには、ズボンを脱がなければならない。
 ごそごそと、お腹のベルトを緩めようとすれば、腕を横からがっと掴まれた。


 痛くはなかったが驚いて視線を上げると、少しだけ怖い顔をしたご主人様がいて、キアラは目をぱちぱちさせる。
「こら、人前で脱ぐんじゃない。 …レノーも、変なことをキアラに求めるな」


 キアラに言うよりも、レノーに向けた声の方が、低く、怖い。
 とりあえず、人前で脱ぐことはよくないことらしいと、キアラはひとつ学んだのだが、その後ろでレノーが何か騒いでいる。
「!? 変!!? ひーくんは医者が患者にお尻出してって言うのが変なことだって言うの!?」
「患部がお尻でないなら十分に変なことだと思う。 キアラ、送る。 帰ろう」
 ご主人様が、キアラの腕を掴んだままで軽く引くので、キアラは立ち上がる。


 キアラが手に例のファイルを抱えていて、両手が自由にならなかったために、ご主人様がキアラに帽子を被せてくれた。
 ひとまずは、ご主人様のお家に帰れるらしい。
 そのことに、キアラはとても、安堵した。
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