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第1章 サンドリヨンが王子様に捕まるまで
23.王子様は過去に思いを馳せています。
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愕然とした表情の、クレイディオ最愛の【雲英雪の妖精】が、クレイディオを見つめている。
クレイディオは、その表情の愛らしさにただただ微笑む。
明確な答えは返さない。
君が男でも何でも構わなかった。
どこの誰とも知れない女との結婚を渋り続け、拒み続けたのだって、君という存在しかないと心に決めていたから。 それ以外に、周囲に知らしめるためだ。
らしくはないが、一目惚れだった。
クレイディオは、異質な子どもだった。
その日は、久々に体調がよかった。
クレイディオは、幼い頃から魔力に恵まれていた。 恵まれ、すぎていた。
幼い身は大きすぎる魔力に耐えられず、体調を崩すことが度々だったのだ。
周囲はクレイディオの身体が弱く、長生きできないのではないかと懸念し、長い間王太子を定めなかったほどだ。
寝ていても、勉強はできた。
その日は、前述したとおり体調がよかったので、武術や剣術、魔法の実技を教師から教えてもらった。
そして、自分の部屋へと戻るところで、足を止めた。木々の間にぼんやりと立っている、弟と同じくらいの年ごろの女の子。
その子を見た瞬間に、クレイディオの中で鐘が鳴り響いた。
その子が、自分の運命だ、と思ったのは直感だった。
次の瞬間には、目の前にその子がいた。
クレイディオが、初めて移動魔法を使ったのがそのときだ。
淡い、淡い、限りなく白に近い金の髪。
光を弾く、光の加減で部分的に色が違って見えるその色を、何と呼ぶのか、クレイディオは知らない。
瞳は、天空の空の色。
可愛らしいのに、清らかで…。 そう、その子の周りだけ、空気が澄んでいるように見えた。 不思議な感覚だった。
一目で、気に入った。
この子以外、ありえないと思った。
その子は、驚いた表情で、クレイディオを見つめている。
それは、目の前にいきなり、人が現れたら驚くだろう。
「君、ひとり?」
緊張しながら尋ねたのだが、その子は小さくひとつ、頷いた。
言葉が話せないとは思えないから恐らく、その子は人見知りで恥ずかしがり屋なのだろう。
緊張しているのが、自分だけではないと知って、クレイディオはだいぶ気が楽になった。
「でも、ひとりで来たんじゃないよね? お父さんかお母さんと、はぐれたの?」
もう一度問うと、同じようにその子は頷いた。
親とはぐれたということはきっと、不安だったり、悲しかったり、寂しかったりしているだろう。
その子は泣いてはいなかったけれど、ずっと心細そうな顔をしている気がした。
だから、クレイディオはその子を安心させたくて、笑って見せたのだ。
「そう、安心して。 僕と一緒にいたら、お父さんとお母さんに会えるよ。 僕と一緒にお茶をして待っていよう」
クレイディオが誘うと、じっとクレイディオの顔を見つめていたその子は、こくりとひとつ頷いてくれた。 手を差し出せば、握り返してくれる。
その子の手を引いて歩くクレイディオは、自分がまるで、物語の勇者か英雄にでもなったかのような、晴れやかで誇らしい気分だったのだ。
神秘的な空気の可憐なその子は、まるでどこか異界の住人のようでもあって、クレイディオは直感的に妖精をイメージした。
その子を連れて、クレイディオは自分の部屋へと向かった。
だが、その階段の途中でその子が疲れて階段を上れなくなったので、クレイディオはその日初めて自分以外の誰かを連れて、移動魔法を使った。
そして、そこでクレイディオは、あることに気づいたのである。
移動魔法を使うごとに、身体が軽くなるのだ。
ここからはクレイディオの仮定だが、クレイディオは今まで所謂【飽和状態】だったのだと思う。
魔力が身体に蓄積されすぎて、体調に変調を来していた。
それを解消するためには、魔力を使えばいい。 火を点ともす程度の微少な魔法では焼け石に水だ。
何か、大きな術式に常に一定の魔力が流れるようにすれば、この体調不良は改善されるだろう。 確証はないけれど、確信はあった。
それから、クレイディオは、父に頼んで城全体の守護結界にクレイディオの魔力を流すように設計をしてもらった。 王太子になった当時からは、オキデンシアの領土全体を守護する結界に魔力を流している。
それでも、クレイディオの魔力は、宮廷の第一位魔法使い相当だ。
これも、この出逢いがなければ、わからなかったこと。
「ここが僕の部屋なんだ、座って待っていて」
その子がソファに座ってくれるので、クレイディオは勉強机の上に置かれている鈴を手に取って振った。
チリンチリン、と軽やかな音が鳴れば、使用人のヘルガがすぐにキッチンワゴンを押して現れる。
「クレイ殿下、お呼びですね」
ヘルガは優秀な使用人だ。
時間的に、お茶の時間と重なることにも気づいたのだろう。
彼女が押してきたキッチンワゴンには、クッキーと飲み物が載っていた。
彼女はすぐにソファに座る女の子に気づいたようで、微笑む。
「あら、まあ、可愛らしい。 こんにちは。 クレイ殿下、ガールフレンドですか?」
ヘルガがクッキーの載ったお皿をテーブルに置いている間に、クレイディオはレモンとミントの蜂蜜水をその子の目の前に置いてあげた。
「! お友達だよ。 迷子になったみたいだ。 誰かこの子くらいのお子さんを連れた訪問者はいなかった?」
「では、城内の者に当たってみます。 それと、殿下にお飲み物をお持ちします」
にこにことヘルガが微笑んでいるのが何だか妙に恥ずかしくて、ヘルガが室内から出て行ったときにはなんだか妙にほっとしたものだ。
クレイディオは、その表情の愛らしさにただただ微笑む。
明確な答えは返さない。
君が男でも何でも構わなかった。
どこの誰とも知れない女との結婚を渋り続け、拒み続けたのだって、君という存在しかないと心に決めていたから。 それ以外に、周囲に知らしめるためだ。
らしくはないが、一目惚れだった。
クレイディオは、異質な子どもだった。
その日は、久々に体調がよかった。
クレイディオは、幼い頃から魔力に恵まれていた。 恵まれ、すぎていた。
幼い身は大きすぎる魔力に耐えられず、体調を崩すことが度々だったのだ。
周囲はクレイディオの身体が弱く、長生きできないのではないかと懸念し、長い間王太子を定めなかったほどだ。
寝ていても、勉強はできた。
その日は、前述したとおり体調がよかったので、武術や剣術、魔法の実技を教師から教えてもらった。
そして、自分の部屋へと戻るところで、足を止めた。木々の間にぼんやりと立っている、弟と同じくらいの年ごろの女の子。
その子を見た瞬間に、クレイディオの中で鐘が鳴り響いた。
その子が、自分の運命だ、と思ったのは直感だった。
次の瞬間には、目の前にその子がいた。
クレイディオが、初めて移動魔法を使ったのがそのときだ。
淡い、淡い、限りなく白に近い金の髪。
光を弾く、光の加減で部分的に色が違って見えるその色を、何と呼ぶのか、クレイディオは知らない。
瞳は、天空の空の色。
可愛らしいのに、清らかで…。 そう、その子の周りだけ、空気が澄んでいるように見えた。 不思議な感覚だった。
一目で、気に入った。
この子以外、ありえないと思った。
その子は、驚いた表情で、クレイディオを見つめている。
それは、目の前にいきなり、人が現れたら驚くだろう。
「君、ひとり?」
緊張しながら尋ねたのだが、その子は小さくひとつ、頷いた。
言葉が話せないとは思えないから恐らく、その子は人見知りで恥ずかしがり屋なのだろう。
緊張しているのが、自分だけではないと知って、クレイディオはだいぶ気が楽になった。
「でも、ひとりで来たんじゃないよね? お父さんかお母さんと、はぐれたの?」
もう一度問うと、同じようにその子は頷いた。
親とはぐれたということはきっと、不安だったり、悲しかったり、寂しかったりしているだろう。
その子は泣いてはいなかったけれど、ずっと心細そうな顔をしている気がした。
だから、クレイディオはその子を安心させたくて、笑って見せたのだ。
「そう、安心して。 僕と一緒にいたら、お父さんとお母さんに会えるよ。 僕と一緒にお茶をして待っていよう」
クレイディオが誘うと、じっとクレイディオの顔を見つめていたその子は、こくりとひとつ頷いてくれた。 手を差し出せば、握り返してくれる。
その子の手を引いて歩くクレイディオは、自分がまるで、物語の勇者か英雄にでもなったかのような、晴れやかで誇らしい気分だったのだ。
神秘的な空気の可憐なその子は、まるでどこか異界の住人のようでもあって、クレイディオは直感的に妖精をイメージした。
その子を連れて、クレイディオは自分の部屋へと向かった。
だが、その階段の途中でその子が疲れて階段を上れなくなったので、クレイディオはその日初めて自分以外の誰かを連れて、移動魔法を使った。
そして、そこでクレイディオは、あることに気づいたのである。
移動魔法を使うごとに、身体が軽くなるのだ。
ここからはクレイディオの仮定だが、クレイディオは今まで所謂【飽和状態】だったのだと思う。
魔力が身体に蓄積されすぎて、体調に変調を来していた。
それを解消するためには、魔力を使えばいい。 火を点ともす程度の微少な魔法では焼け石に水だ。
何か、大きな術式に常に一定の魔力が流れるようにすれば、この体調不良は改善されるだろう。 確証はないけれど、確信はあった。
それから、クレイディオは、父に頼んで城全体の守護結界にクレイディオの魔力を流すように設計をしてもらった。 王太子になった当時からは、オキデンシアの領土全体を守護する結界に魔力を流している。
それでも、クレイディオの魔力は、宮廷の第一位魔法使い相当だ。
これも、この出逢いがなければ、わからなかったこと。
「ここが僕の部屋なんだ、座って待っていて」
その子がソファに座ってくれるので、クレイディオは勉強机の上に置かれている鈴を手に取って振った。
チリンチリン、と軽やかな音が鳴れば、使用人のヘルガがすぐにキッチンワゴンを押して現れる。
「クレイ殿下、お呼びですね」
ヘルガは優秀な使用人だ。
時間的に、お茶の時間と重なることにも気づいたのだろう。
彼女が押してきたキッチンワゴンには、クッキーと飲み物が載っていた。
彼女はすぐにソファに座る女の子に気づいたようで、微笑む。
「あら、まあ、可愛らしい。 こんにちは。 クレイ殿下、ガールフレンドですか?」
ヘルガがクッキーの載ったお皿をテーブルに置いている間に、クレイディオはレモンとミントの蜂蜜水をその子の目の前に置いてあげた。
「! お友達だよ。 迷子になったみたいだ。 誰かこの子くらいのお子さんを連れた訪問者はいなかった?」
「では、城内の者に当たってみます。 それと、殿下にお飲み物をお持ちします」
にこにことヘルガが微笑んでいるのが何だか妙に恥ずかしくて、ヘルガが室内から出て行ったときにはなんだか妙にほっとしたものだ。
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