神の一族

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ジェドの眼

王族と贈り物③

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 ファラオは、アイラインに縁どられているためにますます切れ長に見える目を室内に走らせ、アセトを目に留めたらしかった。

「お前もいたのか」
「ええ」
 無表情の王に、アセトはにっこりと笑顔で返したが、ジェドの目は、二人の間で火花が散ったのを見逃さなかった。
 恐らく、テティーシェリは気づいていないだろう。


 ファラオはつかつかとテティーシェリに歩み寄ると、すっと膝を折った。
 テティーシェリも、アセトも、なぜかそれを【普通のこと】と捉えてしまっているようでもはや驚きもしない。
 だが、ジェドとしては、王が・・膝を折ることの意味をもっとよく考えてほしいと思う。
 アセトはわかっていて、それを【普通のこと】と捉えているからまだいいのだが、問題はテティーシェリの方だ。


「先を越されたのは悔しいが…」
 ファラオは、そのように前置きすると、手にした布を広げて、テティーシェリに示す。


「君の誕生に、心から感謝する」


 布の中から現れたのは、細い金の鎖に、紅玉が幾重にも連なった首飾りだった。
 テティーシェリの視線はその首飾りに注がれているが、二・三度瞬きをしただけで、言葉も出ない。
 そんなテティーシェリの反応に、ファラオは少しだけ眉を下げた。
「可愛いキティ、私からの贈り物は気に入らないか?」

 テティーシェリはファラオのその表情にハッとしたようで、ふるふると首を振ると、布ごとその首飾りを受け取って、微笑んだ。
「いえ、そんな…。 嬉しいです、お兄様、ありがとうございます。 お姉様も、ありがとうございます。 大切に使います」
 テティーシェリの微笑みと言葉に、ファラオもアセトも嬉しそうに微笑んだ。


 それを、ジェドはジッと見る。


 ファラオは、テティーシェリへの贈り物に関しては、可能な限りテティーシェリの趣味趣向に沿ったものを選んできたはずだ。
 妙なものを選んだな、とは思ったが、そういえば先日、行商人が来ていたのではなかったか。
 そこでその品を気に入り、テティーシェリに、と思ったのかもしれない。
 あるいは、毎度毎度、高価なものをテティーシェリに贈るアセトに対して、対抗心を燃やしたか。

 ファラオもアセトも、普段は聡明なのだが、テティーシェリを前にすると途端に知能が低下するのが難点であると、ジェドは以前から問題視している。
 今のところ、それに気づいているのがごくわずかというのが救いだろう。
 因みに、当のテティーシェリは気づいていない。

 さて、話は戻るが、テティーシェリは、高価な品物を望まない。
 それならば、何か国民の利益に、と考えるような方だ。

 対して、ファラオとアセトは高価なもので着飾ることが、王族の義務とでも考えている風である。
 確かに、それも間違いではない。
 王族の暮らしが、国の威信や、権威を象徴すると言うこともできる。
 人間は、目に見えるものを信じたがるものだから。


 ファラオやアセトと、テティーシェリは、違う。


 それでも、テティーシェリは彼らの気持ちをおもんぱかることも忘れない。
 こうして、喜んでみせる。
 物、それ自体ではない、彼らの気持ちに、感謝を述べるのだ。


 それが、私の、主人かみなのだと、ジェドはいつも、微笑ましく、誇らしく思うのである。
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