2 / 11
テティーシェリ視点②
しおりを挟む
「でもわたし、王位になんて全く興味ありませんし…。 だから、早くお兄様とお姉様にご結婚していただきたいのですけれど」
現在、この国の王はテティーシェリの兄であるウェシル。
王位継承権第一位を所持しているのは、テティーシェリの姉であるアセトだ。
兄と姉の間に子どもが生まれれば、順次テティーシェリの王位継承権は繰り下がっていく。
だから、テティーシェリは兄と姉が早く婚姻してくれることを望んでいるのだ。 兄と姉が婚姻することは決定事項だが、明確な時期は決定していない。
お二人とももういい年なのに、何をずるずると先延ばしにしているのだろう。 …というのは、テティーシェリの意見だ。
「…そうですね」
ジェドが相槌めいた言葉を発するまでに、妙な間があった。
テティーシェリが自分のためだけに、兄と姉の婚姻を望んでいることを見透かしたのだろうか。
「今の間は何かしら?」
テティーシェリが問うと、ジェドはまた、妙な間を置いた後で答える。
「…王とアセト様は婚姻されるかもしれませんが、それと御子がお生まれになるかどうかは別かと存じます」
にこりともせず、かといって難しい顔をするわけでもなく、ジェドが真顔で淡々と告げた言葉の意味がわからずに、テティーシェリは首を傾げた。
ジェドが言わんとしていることが、全くわからない。
「どういうこと?」
「王とアセト様は、テティ様が思っていらっしゃるほど良好な関係とは言い難いと、私は思っておりますので」
あくまで、私の個人的な見解ですが、とジェドは付け足し、強調した。
ジェドが、テティーシェリの兄と姉を、どのような目で見ているかについては理解したが、ジェドの見解については納得できずに、テティーシェリは問いを重ねる。
「お兄様とお姉様の仲が悪い、とジェドは言いたいの?」
「そのように表現すると語弊がありますね。 お二人の関係は、危ういひとつの【点】で繋がっているに過ぎないと思っています。 ですので、その【点】次第では、どちらにも転びうるかと」
控えめな言い方で、明言を避けてはいるものの、ジェドはテティーシェリの兄と姉が簡単に良くも悪くもなると言っているのではないだろうか。
そのように、テティーシェリは捉えた。
というか、兄と姉を繋いでいる、危ういひとつの【点】とは一体何だろう。
そう考えて、テティーシェリは閃いた。
その【点】、とは、もしかすると王位継承権のことだろうか。
思いつくや否や、その考えはテティーシェリの唇から飛び出していく。
「お兄様は王だけれど、お姉様も王になりたいと思っているということ?」
まさか、テティーシェリの口からその言葉が出るとは思わなかった。
切れ長の目を軽く見開いたジェドの表情から、テティーシェリはそのようにジェドの心情を読み取る。
つまりは、テティーシェリが今口にしたことは、全くの見当違いということだろう。
少なくとも、ジェドが意図したことにかすりもしなかったに違いない。
挙句、ジェドが短く溜息をつくものだから、テティーシェリは思わず反応してしまった。
「あ、ひどい。 今、馬鹿にしたでしょう?」
「いいえ。 神の一族である貴女を、私如きが…なんて、恐ろしい」
目をそっと伏せて、ジェドは首を横に振る。
馬鹿にするなんてありえない、と言っているが、さっきの溜息からは、馬鹿にはしていなくても呆れていることが容易に読み取れる。
そして、ジェドはそれ以上その話題を続けるのは無益と考えたのか、強引な話題転換を図ったらしい。
「王とアセト様の件は別にしても、テティ様はセルト様とご結婚なさらないのですか?」
現在、この国の王はテティーシェリの兄であるウェシル。
王位継承権第一位を所持しているのは、テティーシェリの姉であるアセトだ。
兄と姉の間に子どもが生まれれば、順次テティーシェリの王位継承権は繰り下がっていく。
だから、テティーシェリは兄と姉が早く婚姻してくれることを望んでいるのだ。 兄と姉が婚姻することは決定事項だが、明確な時期は決定していない。
お二人とももういい年なのに、何をずるずると先延ばしにしているのだろう。 …というのは、テティーシェリの意見だ。
「…そうですね」
ジェドが相槌めいた言葉を発するまでに、妙な間があった。
テティーシェリが自分のためだけに、兄と姉の婚姻を望んでいることを見透かしたのだろうか。
「今の間は何かしら?」
テティーシェリが問うと、ジェドはまた、妙な間を置いた後で答える。
「…王とアセト様は婚姻されるかもしれませんが、それと御子がお生まれになるかどうかは別かと存じます」
にこりともせず、かといって難しい顔をするわけでもなく、ジェドが真顔で淡々と告げた言葉の意味がわからずに、テティーシェリは首を傾げた。
ジェドが言わんとしていることが、全くわからない。
「どういうこと?」
「王とアセト様は、テティ様が思っていらっしゃるほど良好な関係とは言い難いと、私は思っておりますので」
あくまで、私の個人的な見解ですが、とジェドは付け足し、強調した。
ジェドが、テティーシェリの兄と姉を、どのような目で見ているかについては理解したが、ジェドの見解については納得できずに、テティーシェリは問いを重ねる。
「お兄様とお姉様の仲が悪い、とジェドは言いたいの?」
「そのように表現すると語弊がありますね。 お二人の関係は、危ういひとつの【点】で繋がっているに過ぎないと思っています。 ですので、その【点】次第では、どちらにも転びうるかと」
控えめな言い方で、明言を避けてはいるものの、ジェドはテティーシェリの兄と姉が簡単に良くも悪くもなると言っているのではないだろうか。
そのように、テティーシェリは捉えた。
というか、兄と姉を繋いでいる、危ういひとつの【点】とは一体何だろう。
そう考えて、テティーシェリは閃いた。
その【点】、とは、もしかすると王位継承権のことだろうか。
思いつくや否や、その考えはテティーシェリの唇から飛び出していく。
「お兄様は王だけれど、お姉様も王になりたいと思っているということ?」
まさか、テティーシェリの口からその言葉が出るとは思わなかった。
切れ長の目を軽く見開いたジェドの表情から、テティーシェリはそのようにジェドの心情を読み取る。
つまりは、テティーシェリが今口にしたことは、全くの見当違いということだろう。
少なくとも、ジェドが意図したことにかすりもしなかったに違いない。
挙句、ジェドが短く溜息をつくものだから、テティーシェリは思わず反応してしまった。
「あ、ひどい。 今、馬鹿にしたでしょう?」
「いいえ。 神の一族である貴女を、私如きが…なんて、恐ろしい」
目をそっと伏せて、ジェドは首を横に振る。
馬鹿にするなんてありえない、と言っているが、さっきの溜息からは、馬鹿にはしていなくても呆れていることが容易に読み取れる。
そして、ジェドはそれ以上その話題を続けるのは無益と考えたのか、強引な話題転換を図ったらしい。
「王とアセト様の件は別にしても、テティ様はセルト様とご結婚なさらないのですか?」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

明日、雪うさぎが泣いたら
中嶋 まゆき
歴史・時代
幼い頃に神隠しに遭った小雪は、その頃に出逢った少年との再会を信じていた。兄の恭一郎は反対するが、妙齢になるにつれ、小雪は彼のことを頻繁に夢に見るようになって…。
夢の少年と兄の間で揺れる恋の結末と、小雪が選んだ世界とは?
浮雲の譜
神尾 宥人
歴史・時代
時は天正。織田の侵攻によって落城した高遠城にて、武田家家臣・飯島善十郎は蔦と名乗る透波の手によって九死に一生を得る。主家を失って流浪の身となったふたりは、流れ着くように訪れた富山の城下で、ひょんなことから長瀬小太郎という若侍、そして尾上備前守氏綱という男と出会う。そして善十郎は氏綱の誘いにより、かの者の主家である飛州帰雲城主・内ヶ島兵庫頭氏理のもとに仕官することとする。
峻厳な山々に守られ、四代百二十年の歴史を築いてきた内ヶ島家。その元で善十郎は、若武者たちに槍を指南しながら、穏やかな日々を過ごす。しかしそんな辺境の小国にも、乱世の荒波はひたひたと忍び寄ってきていた……
死は悪さえも魅了する
春瀬由衣
歴史・時代
バケモノと罵られた盗賊団の頭がいた。
都も安全とはいえない末法において。
町はずれは、なおのこと。
旅が命がけなのは、
道中無事でいられる保証がないから。
けれどーー盗みをはたらく者にも、逃れられない苦しみがあった。
【完結】月よりきれい
悠井すみれ
歴史・時代
職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。
清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。
純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。
嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。
第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。
表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。
北武の寅 <幕末さいたま志士伝>
海野 次朗
歴史・時代
タイトルは『北武の寅』(ほくぶのとら)と読みます。
幕末の埼玉人にスポットをあてた作品です。主人公は熊谷北郊出身の吉田寅之助という青年です。他に渋沢栄一(尾高兄弟含む)、根岸友山、清水卯三郎、斎藤健次郎などが登場します。さらにベルギー系フランス人のモンブランやフランスお政、五代才助(友厚)、松木弘安(寺島宗則)、伊藤俊輔(博文)なども登場します。
根岸友山が出る関係から新選組や清河八郎の話もあります。また、渋沢栄一やモンブランが出る関係からパリ万博などパリを舞台とした場面が何回かあります。
前作の『伊藤とサトウ』と違って今作は史実重視というよりも、より「小説」に近い形になっているはずです。ただしキャラクターや時代背景はかなり重複しております。『伊藤とサトウ』でやれなかった事件を深掘りしているつもりですので、その点はご了承ください。
(※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます)
開国横浜・弁天堂奇譚
山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船!
幕末の神奈川・横濵。
黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。
港が開かれ異人さんがやって来る。
商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。
弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。
物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。
日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ!
変わりゆく町をながめる!
そして人々は暮らしてゆく!
そんな感じのお話です。
※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。
※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。
※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。
※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。
※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。
※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。
幕末任侠伝 甲斐の黒駒勝蔵
海野 次朗
歴史・時代
三作目です。今回は甲州・山梨県のお話です。
前の二作『伊藤とサトウ』と『北武の寅』では幕末外交の物語を書きましたが、今回は趣向を変えて幕末の博徒たちの物語を書きました。
主人公は甲州を代表する幕末博徒「黒駒の勝蔵」です。
むろん勝蔵のライバル「清水の次郎長」も出ます。序盤には江川英龍や坂本龍馬も登場。
そして後半には新選組の伊東甲子太郎が作った御陵衛士、さらに相楽総三たち赤報隊も登場します。
(※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます)
参考史料は主要なものだけ、ここにあげておきます。それ以外の細かな参考資料は最終回のあと、巻末に掲載する予定です。
『黒駒勝蔵』(新人物往来社、加川英一)、『博徒の幕末維新』(ちくま新書、高橋敏)、『清水次郎長 幕末維新と博徒の世界』(岩波新書、高橋敏)、『清水次郎長と明治維新』(新人物往来社、田口英爾)、『万延水滸伝』(毎日新聞社、今川徳三)、『新・日本侠客100選』(秋田書店、今川徳三)、『江戸やくざ研究』(雄山閣、田村栄太郎)、『江川坦庵』(吉川弘文館、仲田正之)、『新選組高台寺党』(新人物往来社、市居浩一)、『偽勅使事件』(青弓社、藤野順)、『相楽総三とその同志』(講談社文庫、長谷川伸)、『江戸時代 人づくり風土記 19巻 山梨』(農山漁村文化協会)、『明治維新草莽運動史』(勁草書房、高木俊輔)、『結城昌治作品集』より『斬に処す』(朝日新聞社、結城昌治)、『子母沢寛全集』より『駿河遊侠伝』『富岳二景』(講談社、子母沢寛)など。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる