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紅の獅子は白き花を抱く
「あなたに愛されて、幸せ」
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まずは、ジオークにお風呂に入ってもらって、その間に花を玄関に飾ってこよう。
そう思ったリシェーナは、忘れかけていた――きっとはぐらかされていたのだろう――一つの疑念を思い出す。
逃がさない、という気持ちを込めて、ジオークの腕に手を添えて、見上げた。
「本当に、けが、してない?」
「してないよ。 おれ、たぶん、リシェが思ってるよりずっと強いからね?」
だから大丈夫、と笑うジオークに、リシェーナは少しの疎外感を味わう。
ジオークにそんな意図はないのだろうけれど、リシェーナには関係のないことだよ、と言われているようで、寂しい。
「…あなたが危ないことするの、いやだもの。 あなたがわたしの身体、心配してくれるのと同じ。 わたしだって、あなたの身体の心配したい」
リシェーナがジオークの顔を真っ直ぐに見つめて訴えると、ジオークにぎゅっと抱きしめられた。
「ぇ、あっ?」
「…じゃあ、心配させてあげる。 おれの身体、怪我ないか調べていいよ」
リシェーナの身体を抱きしめたままで、ジオークはリシェーナの耳や首筋にキスをし始める。
何だか急展開で、リシェーナは混乱する。
これは何だか、そういうことをする感じではないだろうか。
「ベッドの中で、だけどね?」
色っぽい微笑みを浮かべて、リシェーナの顔を覗き込んでくるジオークが素敵でくらくらする。
本当は、ここで「うん」と言ってしまいたいけれど、手の中にあるアザレアが気になった。
「これ、飾ってくる。 から、そのあとで。 父に見られるのは、やっぱり、いや」
リシェーナは、恥ずかしいながらも真剣に告げたというのに、ジオークはそこでふっと笑った。
笑うところではないのに、とリシェーナがむっとしていると、リシェーナを抱きしめるジオークの腕が緩んだ。
「リシェ、おれね。 リシェが奥さんでいてくれて、家でおれの帰りを待っててくれて、本当に、本当に嬉しいし、本当に、本当に幸せなんだ」
緩んだだけで、ジオークは腕のなかにリシェーナを抱き閉じ込めるように囲っている。
真っすぐに見つめてくるジオークの言葉に、リシェーナは聞き入った。
よくわからないけれど、何か大切なことをジオークが伝えようとしてくれている、と感じたからだ。
「わたしも、あなたの奥さんで幸せ」
だから、リシェーナも、微笑んでリシェーナの気持ちをジオークに伝える。
気のせいだろうか。
ジオークの綺麗な柘榴石の瞳が、潤んで揺れた気がした。
「うん、だからね。 おれがリシェのこと、大好きで、リシェとずっと一緒にいたいって思ってるってことだけ、わかってほしい。 後悔なら、もう、いやっていうほどしたんだ。 だから、おれが後悔しないでいられるように、リシェにもずっと、おれの傍にいてほしい」
考えながら、だろうか。 もしくは、一番リシェーナに伝わりやすい言い方を選びながら話しているのかもしれない。
ジオークの言葉は、一語一語はっきりとしていたし、リシェーナに聞き取りやすい速度だった。
一度言葉を切ったジオークは、何をどう伝えるかを決めたのだろう。
真剣な表情でリシェーナを見つめて、口を開いた。
「どんなときも、おれはリシェを諦めないから、リシェにも絶対おれを、諦めないでいてほしいんだ」
その言葉で、不意に、思った。 否、思い知った。
きっと、ジオークは気づいていたのだろう。
信じたい。 信じている。
けれど、リシェーナがどこかで、諦めてもいたことを。
彼は、全部気づいていて、わかっていて、考えていてくれていたのだ。
そう思ったら、堪らなくなった。
「諦めない」
堪らなくなったリシェーナの唇からは、そんな言葉が零れていた。
気づいたときには、ぎゅっとジオークに抱きついていて、思いが溢れる。
けれど、涙は出なかった。 今は、悲しいときでも、嬉しいときでもない。
決意のときだと、思ったから。
「あなたと、ずっと、一緒にいたいから、諦めない」
彼は、リシェーナに、「信じてほしい」とは言わなかった。
彼らしい、と思う。
【信じる】というのは、難しい言葉だし、難しいことなのだと思う。
だから彼はきっと、リシェーナに「諦めないで」と言ったのだ。
リシェーナにとって身近で、リシェーナが続けられるところから始めてくれようとしている。
この先ずっと変わらない、ジオークの愛情を【信じる】ことはまだ少し、難しい。
けれど、この先ずっと、ジオークを好きで、【諦めない】自分を【信じる】ことはできる。
そして、不思議なことに、リシェーナを【諦めない】と言ってくれたジオークを【信じる】ことはできるような気がしたのだ。
綺麗な紅緋の髪、石榴石の瞳。
はっきりした綺麗な顔立ちで、派手な印象のこのひとが、本当は優しくて素敵なひとなのをリシェーナは知っている。
このひとの腕の中で、護られて、愛されて、幸せだ。
そう思ったリシェーナは、忘れかけていた――きっとはぐらかされていたのだろう――一つの疑念を思い出す。
逃がさない、という気持ちを込めて、ジオークの腕に手を添えて、見上げた。
「本当に、けが、してない?」
「してないよ。 おれ、たぶん、リシェが思ってるよりずっと強いからね?」
だから大丈夫、と笑うジオークに、リシェーナは少しの疎外感を味わう。
ジオークにそんな意図はないのだろうけれど、リシェーナには関係のないことだよ、と言われているようで、寂しい。
「…あなたが危ないことするの、いやだもの。 あなたがわたしの身体、心配してくれるのと同じ。 わたしだって、あなたの身体の心配したい」
リシェーナがジオークの顔を真っ直ぐに見つめて訴えると、ジオークにぎゅっと抱きしめられた。
「ぇ、あっ?」
「…じゃあ、心配させてあげる。 おれの身体、怪我ないか調べていいよ」
リシェーナの身体を抱きしめたままで、ジオークはリシェーナの耳や首筋にキスをし始める。
何だか急展開で、リシェーナは混乱する。
これは何だか、そういうことをする感じではないだろうか。
「ベッドの中で、だけどね?」
色っぽい微笑みを浮かべて、リシェーナの顔を覗き込んでくるジオークが素敵でくらくらする。
本当は、ここで「うん」と言ってしまいたいけれど、手の中にあるアザレアが気になった。
「これ、飾ってくる。 から、そのあとで。 父に見られるのは、やっぱり、いや」
リシェーナは、恥ずかしいながらも真剣に告げたというのに、ジオークはそこでふっと笑った。
笑うところではないのに、とリシェーナがむっとしていると、リシェーナを抱きしめるジオークの腕が緩んだ。
「リシェ、おれね。 リシェが奥さんでいてくれて、家でおれの帰りを待っててくれて、本当に、本当に嬉しいし、本当に、本当に幸せなんだ」
緩んだだけで、ジオークは腕のなかにリシェーナを抱き閉じ込めるように囲っている。
真っすぐに見つめてくるジオークの言葉に、リシェーナは聞き入った。
よくわからないけれど、何か大切なことをジオークが伝えようとしてくれている、と感じたからだ。
「わたしも、あなたの奥さんで幸せ」
だから、リシェーナも、微笑んでリシェーナの気持ちをジオークに伝える。
気のせいだろうか。
ジオークの綺麗な柘榴石の瞳が、潤んで揺れた気がした。
「うん、だからね。 おれがリシェのこと、大好きで、リシェとずっと一緒にいたいって思ってるってことだけ、わかってほしい。 後悔なら、もう、いやっていうほどしたんだ。 だから、おれが後悔しないでいられるように、リシェにもずっと、おれの傍にいてほしい」
考えながら、だろうか。 もしくは、一番リシェーナに伝わりやすい言い方を選びながら話しているのかもしれない。
ジオークの言葉は、一語一語はっきりとしていたし、リシェーナに聞き取りやすい速度だった。
一度言葉を切ったジオークは、何をどう伝えるかを決めたのだろう。
真剣な表情でリシェーナを見つめて、口を開いた。
「どんなときも、おれはリシェを諦めないから、リシェにも絶対おれを、諦めないでいてほしいんだ」
その言葉で、不意に、思った。 否、思い知った。
きっと、ジオークは気づいていたのだろう。
信じたい。 信じている。
けれど、リシェーナがどこかで、諦めてもいたことを。
彼は、全部気づいていて、わかっていて、考えていてくれていたのだ。
そう思ったら、堪らなくなった。
「諦めない」
堪らなくなったリシェーナの唇からは、そんな言葉が零れていた。
気づいたときには、ぎゅっとジオークに抱きついていて、思いが溢れる。
けれど、涙は出なかった。 今は、悲しいときでも、嬉しいときでもない。
決意のときだと、思ったから。
「あなたと、ずっと、一緒にいたいから、諦めない」
彼は、リシェーナに、「信じてほしい」とは言わなかった。
彼らしい、と思う。
【信じる】というのは、難しい言葉だし、難しいことなのだと思う。
だから彼はきっと、リシェーナに「諦めないで」と言ったのだ。
リシェーナにとって身近で、リシェーナが続けられるところから始めてくれようとしている。
この先ずっと変わらない、ジオークの愛情を【信じる】ことはまだ少し、難しい。
けれど、この先ずっと、ジオークを好きで、【諦めない】自分を【信じる】ことはできる。
そして、不思議なことに、リシェーナを【諦めない】と言ってくれたジオークを【信じる】ことはできるような気がしたのだ。
綺麗な紅緋の髪、石榴石の瞳。
はっきりした綺麗な顔立ちで、派手な印象のこのひとが、本当は優しくて素敵なひとなのをリシェーナは知っている。
このひとの腕の中で、護られて、愛されて、幸せだ。
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