【R18】紅の獅子は白き花を抱く

環名

文字の大きさ
上 下
94 / 97
紅の獅子は白き花を抱く

「あなたに愛されて、幸せ」

しおりを挟む
 まずは、ジオークにお風呂に入ってもらって、その間に花を玄関に飾ってこよう。
 そう思ったリシェーナは、忘れかけていた――きっとはぐらかされていたのだろう――一つの疑念を思い出す。
 逃がさない、という気持ちを込めて、ジオークの腕に手を添えて、見上げた。

「本当に、けが、してない?」
「してないよ。 おれ、たぶん、リシェが思ってるよりずっと強いからね?」
 だから大丈夫、と笑うジオークに、リシェーナは少しの疎外感を味わう。
 ジオークにそんな意図はないのだろうけれど、リシェーナには関係のないことだよ、と言われているようで、寂しい。


「…あなたが危ないことするの、いやだもの。 あなたがわたしの身体、心配してくれるのと同じ。 わたしだって、あなたの身体の心配したい」
 リシェーナがジオークの顔を真っ直ぐに見つめて訴えると、ジオークにぎゅっと抱きしめられた。
「ぇ、あっ?」


「…じゃあ、心配させてあげる。 おれの身体、怪我ないか調べていいよ」


 リシェーナの身体を抱きしめたままで、ジオークはリシェーナの耳や首筋にキスをし始める。
 何だか急展開で、リシェーナは混乱する。
 これは何だか、そういうことをする感じではないだろうか。

「ベッドの中で、だけどね?」
 色っぽい微笑みを浮かべて、リシェーナの顔を覗き込んでくるジオークが素敵でくらくらする。

 本当は、ここで「うん」と言ってしまいたいけれど、手の中にあるアザレアが気になった。
「これ、飾ってくる。 から、そのあとで。 父に見られるのは、やっぱり、いや」
 リシェーナは、恥ずかしいながらも真剣に告げたというのに、ジオークはそこでふっと笑った。
 笑うところではないのに、とリシェーナがむっとしていると、リシェーナを抱きしめるジオークの腕が緩んだ。


「リシェ、おれね。 リシェが奥さんでいてくれて、家でおれの帰りを待っててくれて、本当に、本当に嬉しいし、本当に、本当に幸せなんだ」
 緩んだだけで、ジオークは腕のなかにリシェーナを抱き閉じ込めるように囲っている。
 真っすぐに見つめてくるジオークの言葉に、リシェーナは聞き入った。
 よくわからないけれど、何か大切なことをジオークが伝えようとしてくれている、と感じたからだ。

「わたしも、あなたの奥さんで幸せ」
 だから、リシェーナも、微笑んでリシェーナの気持ちをジオークに伝える。
 気のせいだろうか。
 ジオークの綺麗な柘榴石の瞳が、潤んで揺れた気がした。
「うん、だからね。 おれがリシェのこと、大好きで、リシェとずっと一緒にいたいって思ってるってことだけ、わかってほしい。 後悔なら、もう、いやっていうほどしたんだ。 だから、おれが後悔しないでいられるように、リシェにもずっと、おれの傍にいてほしい」


 考えながら、だろうか。 もしくは、一番リシェーナに伝わりやすい言い方を選びながら話しているのかもしれない。
 ジオークの言葉は、一語一語はっきりとしていたし、リシェーナに聞き取りやすい速度だった。


 一度言葉を切ったジオークは、何をどう伝えるかを決めたのだろう。
 真剣な表情でリシェーナを見つめて、口を開いた。


「どんなときも、おれはリシェを諦めないから、リシェにも絶対おれを、諦めないでいてほしいんだ」


 その言葉で、不意に、思った。 否、思い知った。
 きっと、ジオークは気づいていたのだろう。


 信じたい。 信じている。
 けれど、リシェーナがどこかで、諦めてもいたことを。


 彼は、全部気づいていて、わかっていて、考えていてくれていたのだ。
 そう思ったら、堪らなくなった。


「諦めない」


 堪らなくなったリシェーナの唇からは、そんな言葉が零れていた。
 気づいたときには、ぎゅっとジオークに抱きついていて、思いが溢れる。
 けれど、涙は出なかった。 今は、悲しいときでも、嬉しいときでもない。
 決意のときだと、思ったから。


「あなたと、ずっと、一緒にいたいから、諦めない」


 彼は、リシェーナに、「信じてほしい」とは言わなかった。
 彼らしい、と思う。
 【信じる】というのは、難しい言葉だし、難しいことなのだと思う。
 だから彼はきっと、リシェーナに「諦めないで」と言ったのだ。
 リシェーナにとって身近で、リシェーナが続けられるところから始めてくれようとしている。

 この先ずっと変わらない、ジオークの愛情を【信じる】ことはまだ少し、難しい。
 けれど、この先ずっと、ジオークを好きで、【諦めない】自分を【信じる】ことはできる。
 そして、不思議なことに、リシェーナを【諦めない】と言ってくれたジオークを【信じる】ことはできるような気がしたのだ。


 綺麗な紅緋の髪、石榴石の瞳。
 はっきりした綺麗な顔立ちで、派手な印象のこのひとが、本当は優しくて素敵なひとなのをリシェーナは知っている。


 このひとの腕の中で、護られて、愛されて、幸せだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...