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紅の獅子は白き花を抱く
ジオークの思案②
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いつもより早く帰ってきたジオークの様子がおかしい。
いつもと変わりないように見えるけれど、よく観察していればわかる。
何がいつもと違うのかはっきりさせたくて、リシェーナはジッと、ジオークを見つめる。
ふとした瞬間に翳りが落ちるというか、元気がない感じがする。
どこか、そわそわとしている気がする。
それが、良いことではなく良くないことだという予感もしている。
聞こうかどうか、迷って食べたお夕飯の味はよくわからなかった。
お風呂に入っている間も、考えていたし、ベッドに入ってからも考えていた。
ジオークは、「先に寝てていいよ」と言ってくれたが、このもやもやを抱えて眠れるとも思えない。
そんなことを考えてベッドに座っていれば、き、と静かに扉が開いた。
入浴を終えて寝室にやって来たジオークは、軽く目を見張っていたが、すぐにそれを笑みにすり替える。
「起きてたんだ?」
寝ていて良かったのに、とは言わなかったが、きっと同義だ。
彼は、リシェーナに眠っていて欲しかったのだろう。
ジオークはベッドに入ってきて、リシェーナの頬にいつものようにキスをくれる。
「おやすみ、ダーリン」
リシェーナは再びジッとジオークを見つめた。
これは、ジオークの癖、だと思う。
最近気づいたのだが、ベッドに入ったジオークが、「おやすみ」を言って頬や瞼、額にキスをくれる日は、何もない。 「おやすみ」を言わずに唇にキスをくれる日は、リシェーナとそういうことをしたい日なのだということ。
「何かあった?」
リシェーナの唇から零れた問いに、ジオークは一度動きを止めたように見えた。
けれど、やはり何気ない風を装って、微笑む。
「どうして?」
「なんとなく」
そう応じながらも、リシェーナはジオークに何かあったという確信を強くする。
ジオークは基本的に真摯で真面目だ。 善良と言っていい。
隠し事はしても、嘘はつかない。
だから、質問への質問返しはほとんどの場合、【是】という返答と同じ事だと、学んだ。
彼は、違うことなら違うと、はっきり言ってくれるひとだから。
リシェーナがジッとジオークを見つめ続けていると、ジオークはふっと息をついて、がしがしとその紅緋の綺麗な髪を掻いた。
「そっかぁ」
呟いて、ジオークは枕代わりにしているクッションにもたれる。
そして、沈黙。
リシェーナでは、ジオークの悩みを聞く相手にはなれないのだろうか。
たくさん、ジオークには助けてもらっているけれど、リシェーナではジオークの助けになれないのだろうか。 そう考えると、寂しい。
リシェーナがぎゅっとジオークの上に上体を被せるようにして抱きつくと、リシェーナの髪をジオークの指が梳き始めた。
ジオークの指の動きは、いつだって優しい。
繰り返されるその指の動きを心地よく感じる。
彼が聞かれたくないことなら、聞かない方がいいのかもしれない。
リシェーナの頭にそんな思いが過ぎったときだ。
リシェーナの頭上で、ジオークの声が揺れた。
「ねぇ、リシェは、おれが仕事辞めたいって言ったらどうする?」
リシェーナが顔を上げると、表情を消したジオークの顔があった。
いつもの余裕が見られないその顔は、緊張しているようにも見える。
ジオークが、仕事を辞めたい、と言ったら?
今日、ジオークがいつもと違った様子なのは、それが原因なのだろうか。
お仕事で何か困ったことがあって、お仕事を辞めたいと思っている。
それならば。
リシェーナは手を伸ばして、ジオークのさらさらとした髪を撫でた。
「頑張ったね、って言う」
ジオークは耳を疑ったような顔になって、リシェーナの顔を凝視していた。
リシェーナがそんな風に言うとは思わなかった。
そんな表情だった。
「今まで、ずっと、大変なこと、頑張ったから、あなたの好きにしたらいい」
リシェーナは微笑んだのだけれど、それでもジオークはリシェーナを凝視したままだ。
そして、ジオークはそっと疑問を口に載せる。
「…困らない?」
あまりにも真剣な表情で問われるから、リシェーナはきょとんとしてしまった。
そして、じわじわと嬉しくなる。
ジオークはやっぱり優しいし、リシェーナのことを大切にしてくれている。 リシェーナがここで「困る」と一言言えば、ジオークは自分の嫌な気持ちなど押し殺して、我慢をしてくれるのだろう。
リシェーナを困らせないためだけに。
本当に、できた旦那様だと思う。
「父も、仕事を辞めた。 けど、わたしも母も、大丈夫だった。 だから、きっと大丈夫」
もう一度、ジオークの髪をリシェーナが撫でてあげると、ジオークは少しだけ頬を染めて溜息をついた。
呆れているわけではなくて、照れ隠しの溜息なのだと思う。
ついでに言えば、照れているジオークは可愛い。
もっとその顔を見ていたくて、リシェーナはじぃ~っとジオークを見つめていたのだけれど、見られていることに気づいたジオークはぎゅうっとリシェーナを抱きしめてきた。
「あー、おれ、リシェに甘えてるなぁ。 こんなおれ、嫌じゃない?」
抱きしめてくれるぬくもりにほっとしながら、リシェーナはジオークの胸に甘えて擦り寄る。
「そう?いつも、あなたがわたしを甘やかしてくれるから、甘えてもらえるの、わたしは嬉しい」
ジオークの胸に、ぴったりと寄り添っていたリシェーナは、気づく。
薄い寝着ごしに伝わる鼓動が、少しだけ速まって大きくなったような?
顔を上げてジオークの顔を見ようとしたら、ジオークの唇が唇に触れた。
ジオークにキスをされると、軽く唇を開くようになってしまったのは、条件反射なのだと思う。 すぐに深いキスに変わって、とろとろになっていると唇が離れて、間近でジオークが尋ねてきた。
「ねぇ、リシェ。 おやすみ、なしにしていい?」
尋ねながらも、背筋を撫で始めている悪戯な指先に、身体が反応してしまった。
身体の奥で燻り始めた熱が、心が、ジオークを欲している。
リシェーナは、ごそごそと動いてジオークの太腿を跨ぐようにして向き合って、照れながらも微笑んだ。
「ん、いいよ」
いつもと変わりないように見えるけれど、よく観察していればわかる。
何がいつもと違うのかはっきりさせたくて、リシェーナはジッと、ジオークを見つめる。
ふとした瞬間に翳りが落ちるというか、元気がない感じがする。
どこか、そわそわとしている気がする。
それが、良いことではなく良くないことだという予感もしている。
聞こうかどうか、迷って食べたお夕飯の味はよくわからなかった。
お風呂に入っている間も、考えていたし、ベッドに入ってからも考えていた。
ジオークは、「先に寝てていいよ」と言ってくれたが、このもやもやを抱えて眠れるとも思えない。
そんなことを考えてベッドに座っていれば、き、と静かに扉が開いた。
入浴を終えて寝室にやって来たジオークは、軽く目を見張っていたが、すぐにそれを笑みにすり替える。
「起きてたんだ?」
寝ていて良かったのに、とは言わなかったが、きっと同義だ。
彼は、リシェーナに眠っていて欲しかったのだろう。
ジオークはベッドに入ってきて、リシェーナの頬にいつものようにキスをくれる。
「おやすみ、ダーリン」
リシェーナは再びジッとジオークを見つめた。
これは、ジオークの癖、だと思う。
最近気づいたのだが、ベッドに入ったジオークが、「おやすみ」を言って頬や瞼、額にキスをくれる日は、何もない。 「おやすみ」を言わずに唇にキスをくれる日は、リシェーナとそういうことをしたい日なのだということ。
「何かあった?」
リシェーナの唇から零れた問いに、ジオークは一度動きを止めたように見えた。
けれど、やはり何気ない風を装って、微笑む。
「どうして?」
「なんとなく」
そう応じながらも、リシェーナはジオークに何かあったという確信を強くする。
ジオークは基本的に真摯で真面目だ。 善良と言っていい。
隠し事はしても、嘘はつかない。
だから、質問への質問返しはほとんどの場合、【是】という返答と同じ事だと、学んだ。
彼は、違うことなら違うと、はっきり言ってくれるひとだから。
リシェーナがジッとジオークを見つめ続けていると、ジオークはふっと息をついて、がしがしとその紅緋の綺麗な髪を掻いた。
「そっかぁ」
呟いて、ジオークは枕代わりにしているクッションにもたれる。
そして、沈黙。
リシェーナでは、ジオークの悩みを聞く相手にはなれないのだろうか。
たくさん、ジオークには助けてもらっているけれど、リシェーナではジオークの助けになれないのだろうか。 そう考えると、寂しい。
リシェーナがぎゅっとジオークの上に上体を被せるようにして抱きつくと、リシェーナの髪をジオークの指が梳き始めた。
ジオークの指の動きは、いつだって優しい。
繰り返されるその指の動きを心地よく感じる。
彼が聞かれたくないことなら、聞かない方がいいのかもしれない。
リシェーナの頭にそんな思いが過ぎったときだ。
リシェーナの頭上で、ジオークの声が揺れた。
「ねぇ、リシェは、おれが仕事辞めたいって言ったらどうする?」
リシェーナが顔を上げると、表情を消したジオークの顔があった。
いつもの余裕が見られないその顔は、緊張しているようにも見える。
ジオークが、仕事を辞めたい、と言ったら?
今日、ジオークがいつもと違った様子なのは、それが原因なのだろうか。
お仕事で何か困ったことがあって、お仕事を辞めたいと思っている。
それならば。
リシェーナは手を伸ばして、ジオークのさらさらとした髪を撫でた。
「頑張ったね、って言う」
ジオークは耳を疑ったような顔になって、リシェーナの顔を凝視していた。
リシェーナがそんな風に言うとは思わなかった。
そんな表情だった。
「今まで、ずっと、大変なこと、頑張ったから、あなたの好きにしたらいい」
リシェーナは微笑んだのだけれど、それでもジオークはリシェーナを凝視したままだ。
そして、ジオークはそっと疑問を口に載せる。
「…困らない?」
あまりにも真剣な表情で問われるから、リシェーナはきょとんとしてしまった。
そして、じわじわと嬉しくなる。
ジオークはやっぱり優しいし、リシェーナのことを大切にしてくれている。 リシェーナがここで「困る」と一言言えば、ジオークは自分の嫌な気持ちなど押し殺して、我慢をしてくれるのだろう。
リシェーナを困らせないためだけに。
本当に、できた旦那様だと思う。
「父も、仕事を辞めた。 けど、わたしも母も、大丈夫だった。 だから、きっと大丈夫」
もう一度、ジオークの髪をリシェーナが撫でてあげると、ジオークは少しだけ頬を染めて溜息をついた。
呆れているわけではなくて、照れ隠しの溜息なのだと思う。
ついでに言えば、照れているジオークは可愛い。
もっとその顔を見ていたくて、リシェーナはじぃ~っとジオークを見つめていたのだけれど、見られていることに気づいたジオークはぎゅうっとリシェーナを抱きしめてきた。
「あー、おれ、リシェに甘えてるなぁ。 こんなおれ、嫌じゃない?」
抱きしめてくれるぬくもりにほっとしながら、リシェーナはジオークの胸に甘えて擦り寄る。
「そう?いつも、あなたがわたしを甘やかしてくれるから、甘えてもらえるの、わたしは嬉しい」
ジオークの胸に、ぴったりと寄り添っていたリシェーナは、気づく。
薄い寝着ごしに伝わる鼓動が、少しだけ速まって大きくなったような?
顔を上げてジオークの顔を見ようとしたら、ジオークの唇が唇に触れた。
ジオークにキスをされると、軽く唇を開くようになってしまったのは、条件反射なのだと思う。 すぐに深いキスに変わって、とろとろになっていると唇が離れて、間近でジオークが尋ねてきた。
「ねぇ、リシェ。 おやすみ、なしにしていい?」
尋ねながらも、背筋を撫で始めている悪戯な指先に、身体が反応してしまった。
身体の奥で燻り始めた熱が、心が、ジオークを欲している。
リシェーナは、ごそごそと動いてジオークの太腿を跨ぐようにして向き合って、照れながらも微笑んだ。
「ん、いいよ」
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