【R18】紅の獅子は白き花を抱く

環名

文字の大きさ
上 下
83 / 97
紅の獅子は白き花を抱く

リシェーナの誤算

しおりを挟む
 どうしてこうなったのだかは、よく覚えていない。

 今日はリシェーナがジオークに尽くす日だと設定していたのだが、どうして、なぜ、いつものようにジオークに尽くされてしまっているのだろう。
「ぁ、あ、じぉっ…!」
 後ろからゆっくりと揺さぶられながら、もうわけがわからなくなってジオークの名を呼べば、耳を柔らかく食まれる。

「ん? 辛い?」
 優しく、甘く問いかけてくれる声。
 いつだって、ジオークはリシェーナを案じながら愛してくれる。 だから、辛いなんて思ったことは、一度もない。
 リシェーナは小さく首を横に振って、ジオークの頬に、身体に擦り寄るように重心を後ろに傾けた。

「すき、すきぃ…」
「ん、おれも、すき」
 耳の下、その付け根の辺りを強く吸われたかと思えば、ジオークがリシェーナを後ろから抱きしめる腕に力が込められた。
 ジオークはベッドの上に膝をついていて、リシェーナはその太腿を跨いで膝立ちになるような格好で繋がっている。 後ろから抱きしめてくれるジオークに、完全に身体を預けているような状態だ。

 リシェーナは、ジオークのことはもちろん好きだが、ジオークと肌を重ねるのも好きだ。
 正確には、ジオークがぴったりとリシェーナに肌を寄り添わせて愛してくれるのが好きなのだと思う。
 今日だって、リシェーナの背中にジオークの胸や腹が当たっていて、全身でジオークを感じて、ふわふわするし、ぞわぞわする。


 大好きなひとと一つになる、気持ちが良くて、幸せな行為。
 なのに、繋がっている場所は身体の一部分だけ、というのが不思議な感じでもある。


 それを補うかのように全身を密着させてくれる、ジオークの愛が嬉しい。
 きっと、こういう風にくっつかないほうが、ジオークは動きやすいだろうに、いつだってリシェーナの気持ちを優先してくれて、リシェーナの望むようにしてくれる。

「じお、じお、すき、…っだいすきっ…」
「うん、知ってる。 でも、おれのほうが好きだよ、きっと」
 この空間を誰かが覗くことはないが、誰かに見られたら「頭悪いなぁ…」と思われるような会話をしている自覚もある。
 けれど、好きなものは好きだし、伝えたいのだ。

 それから、キスもしたい。
 そう思って、揺さぶられながらジオークを振り返ると、間近にジオークの石榴石の目と目が合う。
 どうしてだろう。
 いつだってジオークはリシェーナの望みを汲み取って、それを与えてくれるのだ。
 今も、そっと唇を重ねられた。

 もっと深いキスがしたくて、リシェーナがジオークの唇を吸うと、ジオークが小さく笑う感じがした。
 唇に当たった呼吸でそのように思ったのだが、もしかすると、ただ単に呼吸をしただけかもしれない。 それでも、ジオークはリシェーナが望むように深いキスを与えてくれる。

「ん、んぅ」
 鼻から、声が抜ける。
 けれど、キスを止めたくない。 絡み合う舌から、お腹の方へと痺れが走るような感じがする。
 お腹というか、ジオークと繋がっているところが、きゅうきゅうし始めて、リシェーナはまた達してしまうような予感がする。

 キスをしたままで、ジオークの腰の動きが、僅かにだが速まった気がする。
 どうしよう、また、来る。 来てしまう。
 それをジオークに告げようとしたのだが、間に合わなかった。

「っん、んんぅ~~っ…」
 達してしまって、お腹がびくびくと跳ねる。
 ジオークを受け容れているところが、ジオークに吸いつくように動いている。

 キスをしたまま達してしまったので、呼吸が上手く出来ずに、しばし酸欠の状態だったのかもしれない。
 ゆっくりと唇が離れたのに気づいたときには、身体の中に感じていたジオークもいなくなっていて、ジオークの太腿の上に完全に座り込んでいた。


「…いっちゃった…」
「ん、おれも」
 ジオークはリシェーナの頬に軽くキスをしてくれる。


 ジオークの上に乗ったままではジオークが辛いだろうと、リシェーナが何とかジオークの上から下りると、ジオークは【男のたしなみ】だという避妊具スキンの処理を始めた。


 そこで、リシェーナは思い出す。
 何をすると、ジオークが喜ぶと、ジョーが言っていたか。


「お口でしてない!」


 リシェーナが思わず声を上げると、ジオークは一瞬固まった。
 そして、困ったような笑顔を見せる。
「…うん、それは、また、いつか、ね」

 ジオークが【今度】ではなく、【いつか】と言ったのが気になるが、させてもらえて、ジオークが喜んでくれるのならば、いい。
 リシェーナは薄手のブランケットをたぐり寄せながらジオークに寄り添う。 処理をする様子を見つめていると、ジオークは笑った。


「あんまり見られると、照れるよ」
 照れるよ、と言う声も顔も可愛くて優しかったので、リシェーナはジオークに甘えるようにもたれた。
「うん、照れてるあなたも好き」


 処理を終えたジオークは、リシェーナに向き直ってリシェーナの唇にキスをくれる。
 ジオークは、終わったらさっさと眠る、ということもなくリシェーナを甘やかしていちゃいちゃしてくれる。
 こういうところも好きで、リシェーナがぎゅっとジオークに抱きつくと、ジオークはリシェーナの髪を撫でてくれる。


「…あんなこと、してさ。 浮気しないでよ?」
 その感触にリシェーナはうっとりと目を閉じていたのだが、いつもより幾分トーンの低い声が届いて、目を開けた。
 何だかすごく、心外な内容が含まれていた気がする。

 あんなこと、の意味はわからなかったが、浮気しないで、とリシェーナにジオークが言い聞かせている。
 ということは、ジオークはリシェーナが浮気をすると思っているのか。

「しない。 わたし、ジオークの方が心配」
 少しむっとしていたリシェーナは、自身の内心を吐露してしまった。


 そう。
 むしろ、心配なのはジオークだ。


 だって、リシェーナはほとんどこの家から出かけない。
 出かけたとしても、いつもばあやかジオークが一緒だ。
 だが、ジオークはリシェーナの知らないところでお仕事をしている。
 リシェーナの知らないところで、リシェーナの知らない誰かと出会う確率なら、圧倒的にジオークの方が高い。
 だから、リシェーナは、ジオークに願った。


「…浮気、…してもいいけど、一生、わたしに気づかせないで」


 例えば、この先、ジオークがリシェーナよりも好きだと思う存在が、大切だと思う存在ができないとも限らない。
 例えばできたとしても、そのことを、リシェーナには気づかせないでいてほしい。
 リシェーナのことも大切にして、ずっとジオークの奥さんでいさせてほしい。
 そうすれば、リシェーナはずっと、ジオークの一番はリシェーナだと思っていられる。

 リシェーナがわずか俯いていると、ぺち、とジオークの手がリシェーナの頬に当てられた。
 当てられた、と表現できるくらいで、全然痛くなかった。
 けれど、ジオークがどうしてそんな行動に出たのかわからずに、リシェーナはジオークを見つめる。
 そして、目を見張った。
 ジオークは、少し怒ったような、傷ついたような顔をしていたのだ。

「するわけないじゃん。 信用してよ」
「…うん、ごめんなさい」
 ぎゅっとジオークに抱きつけば、ジオークはリシェーナの髪を撫でてくれる。

 信じたい。 信じている。
 けれど、約束は破られるものだということも、世の中に絶対はないことも、リシェーナは知っている。
 キュビスがリシェーナを離縁して、ジオークに預けられたことはリシェーナにとっては幸運だった。


 けれど、そうされたことを、リシェーナは学習していたらしい。


 信じながらも、諦めようとする。
 それは、自分を守るためにだ。
 なんて矛盾だろう。


 そう思いながらも、リシェーナは今夜も、ジオークの腕の中で眠る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました

加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...