79 / 97
紅の獅子は白き花を抱く
ジョーの講義②
しおりを挟む
「何をするの?」
リシェーナが問うと、にっこりと笑ったジョーが、バナナをリシェーナの目と鼻の先にかざした。
ニンジンをぶら下げられた馬とはこんな気分なのかもしれない。
「舌で先の方へと舐め上げてごらん」
ジョーが持ったバナナは、リシェーナの目の前で天井に向かって反り返っている。
バナナを持っていない方の手でジョーが指し示したのは、反り返ったバナナの下側。
リシェーナは、そろり、と舌を出す。 これでいいのだろうか、とジョーの様子を見上げながら、ジョーに示されたところを舌先を使ってつーっと舐め上げた。
「…こう?」
先まで辿り着いて、リシェーナがジョーに問えば、しばらくジョーは鼻を摘まみながら口を押さえるようにしてじっとしている。
じっとしている…というか、打ち震えている、のだろうか。
心なしか、ジョーの顔が紅いような気もする。
「…ジョー?」
間違えたことをしたのだろうか、と不安になってリシェーナが問うと、ジョーはぱっと手を離してその手でリシェーナの頭を撫でた。
「うん、上手だ。 そのまま、先を口に含んで…、歯は立てるんじゃないよ」
言われたとおりに、先を口に含んでみる。
このまま食べたら美味しいと思うのだが、歯は立てるんじゃないと言われたので、我慢する。
そうしている間に、ジョーから次の指示が出た。
「先に舌を当てて、舐めてごらん。 そうしたら、先を吸ってやって…」
先に、舌を当てて、舐める。
それから、先を吸う、を実践しようとしているときだった。
「…何、してるの。 リシェ」
「っ!!!」
少し遠い背後から、呆然としたジオークの声が聞こえて、リシェーナは身体を跳ねさせた。
驚いた拍子に、歯を立てて噛んでしまったバナナがころんと口の中に落ちるので、バナナから口を離しながら咀嚼して口の中のバナナを飲み込む。
口の中に入っていたのが、バナナでよかった、とリシェーナは胸を撫で下ろした。
というのに、振り返って見たジオークの表情は強張っていて、少し怒っているようにも見える。
いずれにせよ、珍しい表情だ。
リシェーナがジオークを見つめていると、隣に座っていたジョーがゆっくりと立ち上がる。
「ジオが来たならジオに教えてもらうのが一番だね。 やっぱり男の気持ちいいところは男にしかわからないから」
「ジョー、ありがとう。 バナナ、持って行く?」
ジオークが立ち尽くしている扉に向かって歩き始めたジョーの手には、皮を半分くらい剥いた上に、リシェーナが舐めた食べかけのバナナがある。
ジョーの家に持って帰ってごみになるのなら、リシェーナが責任を持って食べた方がいいだろうと声を掛けたのだが、足を止めて振り返ったジョーは艶あでやかに笑った。
「これは授業料としていただいていくよ。 またね、お嬢ちゃん」
「ジョー、新しいバナナ」
バナナが欲しいのなら、リシェーナが舐めた、食べかけのバナナではなく、食べていなくて剥いてもいないバナナがある。
リシェーナはバナナを握ってジョーを呼んだのだが、ジョーは振り返らずにひらひらと手を振ってジオークの隣をすり抜けていってしまう。
では、せめてお見送りを、とリシェーナはバナナを持ったままジョーの後を追いかけようとした。
けれど、それは叶わなかった。
ジオークの横を通り抜けようとしたとき、ジオークの腕が伸びてきて、リシェーナの身体を遮ったからだ。 遮るばかりではなく、手にしていたバナナを奪われる。
何を、と思った瞬間、ジオークはちょうど洗濯物を抱えて通りかかったばあやに声をかけた。
「ばあや、ジョーの見送りお願いね。 あと、今日はもう大丈夫だよ。 ありがとね。 おれ明日、休みだから」
ばあやはリシェーナとジオークの体勢というか空気に目を瞬かせたが、【旦那様】であるジオークの言葉に目を瞑り、見なかったことにすることにしたらしい。
にっこりと笑った。
「ええ、では医師のお見送りをしましたら、お夕飯の準備だけして帰りますわね」
ばあやの姿が視界から消えると、ジオークが微笑んだ。
「リシェはちょっとおいで」
リシェーナは思わず、身を強張らせた。
目を細めて微笑むジオークが、なぜだか怒っているように見えるのは、気のせいだろうか。
リシェーナが問うと、にっこりと笑ったジョーが、バナナをリシェーナの目と鼻の先にかざした。
ニンジンをぶら下げられた馬とはこんな気分なのかもしれない。
「舌で先の方へと舐め上げてごらん」
ジョーが持ったバナナは、リシェーナの目の前で天井に向かって反り返っている。
バナナを持っていない方の手でジョーが指し示したのは、反り返ったバナナの下側。
リシェーナは、そろり、と舌を出す。 これでいいのだろうか、とジョーの様子を見上げながら、ジョーに示されたところを舌先を使ってつーっと舐め上げた。
「…こう?」
先まで辿り着いて、リシェーナがジョーに問えば、しばらくジョーは鼻を摘まみながら口を押さえるようにしてじっとしている。
じっとしている…というか、打ち震えている、のだろうか。
心なしか、ジョーの顔が紅いような気もする。
「…ジョー?」
間違えたことをしたのだろうか、と不安になってリシェーナが問うと、ジョーはぱっと手を離してその手でリシェーナの頭を撫でた。
「うん、上手だ。 そのまま、先を口に含んで…、歯は立てるんじゃないよ」
言われたとおりに、先を口に含んでみる。
このまま食べたら美味しいと思うのだが、歯は立てるんじゃないと言われたので、我慢する。
そうしている間に、ジョーから次の指示が出た。
「先に舌を当てて、舐めてごらん。 そうしたら、先を吸ってやって…」
先に、舌を当てて、舐める。
それから、先を吸う、を実践しようとしているときだった。
「…何、してるの。 リシェ」
「っ!!!」
少し遠い背後から、呆然としたジオークの声が聞こえて、リシェーナは身体を跳ねさせた。
驚いた拍子に、歯を立てて噛んでしまったバナナがころんと口の中に落ちるので、バナナから口を離しながら咀嚼して口の中のバナナを飲み込む。
口の中に入っていたのが、バナナでよかった、とリシェーナは胸を撫で下ろした。
というのに、振り返って見たジオークの表情は強張っていて、少し怒っているようにも見える。
いずれにせよ、珍しい表情だ。
リシェーナがジオークを見つめていると、隣に座っていたジョーがゆっくりと立ち上がる。
「ジオが来たならジオに教えてもらうのが一番だね。 やっぱり男の気持ちいいところは男にしかわからないから」
「ジョー、ありがとう。 バナナ、持って行く?」
ジオークが立ち尽くしている扉に向かって歩き始めたジョーの手には、皮を半分くらい剥いた上に、リシェーナが舐めた食べかけのバナナがある。
ジョーの家に持って帰ってごみになるのなら、リシェーナが責任を持って食べた方がいいだろうと声を掛けたのだが、足を止めて振り返ったジョーは艶あでやかに笑った。
「これは授業料としていただいていくよ。 またね、お嬢ちゃん」
「ジョー、新しいバナナ」
バナナが欲しいのなら、リシェーナが舐めた、食べかけのバナナではなく、食べていなくて剥いてもいないバナナがある。
リシェーナはバナナを握ってジョーを呼んだのだが、ジョーは振り返らずにひらひらと手を振ってジオークの隣をすり抜けていってしまう。
では、せめてお見送りを、とリシェーナはバナナを持ったままジョーの後を追いかけようとした。
けれど、それは叶わなかった。
ジオークの横を通り抜けようとしたとき、ジオークの腕が伸びてきて、リシェーナの身体を遮ったからだ。 遮るばかりではなく、手にしていたバナナを奪われる。
何を、と思った瞬間、ジオークはちょうど洗濯物を抱えて通りかかったばあやに声をかけた。
「ばあや、ジョーの見送りお願いね。 あと、今日はもう大丈夫だよ。 ありがとね。 おれ明日、休みだから」
ばあやはリシェーナとジオークの体勢というか空気に目を瞬かせたが、【旦那様】であるジオークの言葉に目を瞑り、見なかったことにすることにしたらしい。
にっこりと笑った。
「ええ、では医師のお見送りをしましたら、お夕飯の準備だけして帰りますわね」
ばあやの姿が視界から消えると、ジオークが微笑んだ。
「リシェはちょっとおいで」
リシェーナは思わず、身を強張らせた。
目を細めて微笑むジオークが、なぜだか怒っているように見えるのは、気のせいだろうか。
10
お気に入りに追加
418
あなたにおすすめの小説
不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました
加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる