【R18】紅の獅子は白き花を抱く

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紅の獅子は白き花を抱く

ジョーの講義②

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「何をするの?」
 リシェーナが問うと、にっこりと笑ったジョーが、バナナをリシェーナの目と鼻の先にかざした。
 ニンジンをぶら下げられた馬とはこんな気分なのかもしれない。

「舌で先の方へと舐め上げてごらん」
 ジョーが持ったバナナは、リシェーナの目の前で天井に向かって反り返っている。
 バナナを持っていない方の手でジョーが指し示したのは、反り返ったバナナの下側。
 リシェーナは、そろり、と舌を出す。 これでいいのだろうか、とジョーの様子を見上げながら、ジョーに示されたところを舌先を使ってつーっと舐め上げた。

「…こう?」
 先まで辿り着いて、リシェーナがジョーに問えば、しばらくジョーは鼻を摘まみながら口を押さえるようにしてじっとしている。
 じっとしている…というか、打ち震えている、のだろうか。
 心なしか、ジョーの顔が紅いような気もする。

「…ジョー?」
 間違えたことをしたのだろうか、と不安になってリシェーナが問うと、ジョーはぱっと手を離してその手でリシェーナの頭を撫でた。

「うん、上手だ。 そのまま、先を口に含んで…、歯は立てるんじゃないよ」
 言われたとおりに、先を口に含んでみる。

 このまま食べたら美味しいと思うのだが、歯は立てるんじゃないと言われたので、我慢する。
 そうしている間に、ジョーから次の指示が出た。
「先に舌を当てて、舐めてごらん。 そうしたら、先を吸ってやって…」

 先に、舌を当てて、舐める。
 それから、先を吸う、を実践しようとしているときだった。


「…何、してるの。 リシェ」


「っ!!!」
 少し遠い背後から、呆然としたジオークの声が聞こえて、リシェーナは身体を跳ねさせた。
 驚いた拍子に、歯を立てて噛んでしまったバナナがころんと口の中に落ちるので、バナナから口を離しながら咀嚼して口の中のバナナを飲み込む。
 口の中に入っていたのが、バナナでよかった、とリシェーナは胸を撫で下ろした。

 というのに、振り返って見たジオークの表情は強張っていて、少し怒っているようにも見える。
 いずれにせよ、珍しい表情だ。

 リシェーナがジオークを見つめていると、隣に座っていたジョーがゆっくりと立ち上がる。
「ジオが来たならジオに教えてもらうのが一番だね。 やっぱり男の気持ちいいところは男にしかわからないから」
「ジョー、ありがとう。 バナナ、持って行く?」
 ジオークが立ち尽くしている扉に向かって歩き始めたジョーの手には、皮を半分くらい剥いた上に、リシェーナが舐めた食べかけのバナナがある。

 ジョーの家に持って帰ってごみになるのなら、リシェーナが責任を持って食べた方がいいだろうと声を掛けたのだが、足を止めて振り返ったジョーは艶あでやかに笑った。
「これは授業料としていただいていくよ。 またね、お嬢ちゃん」

「ジョー、新しいバナナ」
 バナナが欲しいのなら、リシェーナが舐めた、食べかけのバナナではなく、食べていなくて剥いてもいないバナナがある。
 リシェーナはバナナを握ってジョーを呼んだのだが、ジョーは振り返らずにひらひらと手を振ってジオークの隣をすり抜けていってしまう。


 では、せめてお見送りを、とリシェーナはバナナを持ったままジョーの後を追いかけようとした。
 けれど、それは叶わなかった。


 ジオークの横を通り抜けようとしたとき、ジオークの腕が伸びてきて、リシェーナの身体を遮ったからだ。 遮るばかりではなく、手にしていたバナナを奪われる。
 何を、と思った瞬間、ジオークはちょうど洗濯物を抱えて通りかかったばあやに声をかけた。


「ばあや、ジョーの見送りお願いね。 あと、今日はもう大丈夫だよ。 ありがとね。 おれ明日、休みだから」
 ばあやはリシェーナとジオークの体勢というか空気に目を瞬かせたが、【旦那様】であるジオークの言葉に目を瞑り、見なかったことにすることにしたらしい。
 にっこりと笑った。

「ええ、では医師せんせいのお見送りをしましたら、お夕飯の準備だけして帰りますわね」
 ばあやの姿が視界から消えると、ジオークが微笑んだ。

「リシェはちょっとおいで」
 リシェーナは思わず、身を強張らせた。
 目を細めて微笑むジオークが、なぜだか怒っているように見えるのは、気のせいだろうか。
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