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紅の獅子は白き花を抱く
ジョーの講義①
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「で、お嬢ちゃんは、ジオがお嬢ちゃんに飽きるんじゃないかと心配している、と?」
遊びに来てくれたジョーに相談をしていたのだが、そのように指摘されて、リシェーナはふるふると首を振った。
「飽きる、とは思わない。 けど、彼は、女の人に慣れてる。 だから、わたしが、つまらないかもって…不安」
ジオークは、女性に慣れている。
そんなことは、最初からわかっていたはずなのに、やっぱりもやもやするのはきっと、リシェーナの心が狭いからなのだろう。
きっかけは、先日の国王陛下の誕生祝いだった。
ジオークが、リシェーナも一緒に行こうと誘ってくれたのだ。 ばあやにまた綺麗にしてもらって、騎士の制服を着たジオークとパーティに行ったのだけれど、ジオークはどうやら、パーティの警護も兼ねていたらしい。
ジョーもいてくれたので、ジオークが時たま傍から離れても寂しくはなかったが、ジオークがやはり女性に慣れていることと女性に優しいことを目の当たりにして、複雑な気分だった。
特に、ジョーが、「ああ、近衛騎士団長のお嬢さんか。 熱烈だねぇ」と言った、金髪碧眼の控えめな印象の美少女。 リシェーナの直感でしかないが、あの娘はきっと、ジオークのことを好きになったと思う。
お仕事、なのだ。
だから、ジオークが他の若くて可愛い女性に、にこにこしていても仕方がない、けれど。
リシェーナは、ついていかなければよかったと思った。
見たくなかった。
気づきたくなかった。
こんな醜い自分になんて。
リシェーナが、膝の上の手をぎゅっと握りしめていると、ジョーはふっと息を吐いた。
「馬鹿だねぇ、あの男は」
心底からの、呟きだったと思う。
だから、リシェーナは、ぱっと顔を上げて否定した。
「彼は、馬鹿じゃない」
ジョーは、リシェーナには優しいのに、ジオークには割と辛辣だ。 「馬鹿」とか「駄目」とかすぐに口にする。
リシェーナがむきになって声を上げると、ジョーは苦笑いしたようだった。
その表情に、リシェーナはじっと見入る。
苦笑い、しているのに、視線が柔らかくて優しいのは気のせいだろうか。
「お嬢ちゃんは本当に、ジオには勿体ないよ」
ジョーは、ばあやが準備してくれた果物の盛られた籠に手を伸ばして、バナナを手に取るとその皮をむき始める。
「お嬢ちゃん、バナナは食べても大丈夫かい?」
「え、うん」
不思議な問いだ、と思った。
今の質問はまるで、ほかの何かを食べてはいけないことを知っている者のする問いだ。 リシェーナの、フレンティア語の理解が間違えていなければ、の話だが。
リシェーナは、幼い頃から林檎を食べてはいけないと言われて育った。
まるで、ジョーはそのことを知っているかのような…。
疑問を口にしようとしたのだが、言葉を発することは出来なかった。 ジョーが、リシェーナの唇に剥いたバナナの先をくっつけてきたからだ。
これは、食べさせてくれようとしているのだろうか。
だから、聞いた。
「…食べる?」
「これ、ジオの身体の一部に似ていないかい?」
ジオークの身体の一部、と言われて、ぽんと浮かんだのはそびえ立つジオークの熱杭だ。
もう一度、ジッとバナナを観察したリシェーナは、わずかに首を揺らす。
「彼のは、もっと太い。 しっかりしてる。 先、細くない」
ということは、連想は出来ても似てはいない。
真面目に答え、真面目に考察していたリシェーナに、ジョーはその顔を引きつらせた。
「その返しが来るとは思わなかったな…。 聞かなかったことにしよう」
では、どんな答えを返してほしかったのだろう。
リシェーナは、ちらとバナナを見、ジョーを見た。
「バナナが何? 食べない?」
問う、リシェーナの唇に、ジョーはバナナの先端をつん、と当てた。
「ジオのこれを、お嬢ちゃんがこの可愛いお口でしてあげると、ジオは喜ぶと思うよ」
ジオークが、喜ぶ。
その言葉は、リシェーナにとってはこの上なく、魅力的なものだった。
リシェーナは、ジオークが好きだ。
ジオークに喜んでもらえるのが嬉しいし、とりわけ、ジオークの喜んでいる顔が好きだ。
ジオークに喜んでもらえることなら、出来る限りのことはしたいと思っている。
遊びに来てくれたジョーに相談をしていたのだが、そのように指摘されて、リシェーナはふるふると首を振った。
「飽きる、とは思わない。 けど、彼は、女の人に慣れてる。 だから、わたしが、つまらないかもって…不安」
ジオークは、女性に慣れている。
そんなことは、最初からわかっていたはずなのに、やっぱりもやもやするのはきっと、リシェーナの心が狭いからなのだろう。
きっかけは、先日の国王陛下の誕生祝いだった。
ジオークが、リシェーナも一緒に行こうと誘ってくれたのだ。 ばあやにまた綺麗にしてもらって、騎士の制服を着たジオークとパーティに行ったのだけれど、ジオークはどうやら、パーティの警護も兼ねていたらしい。
ジョーもいてくれたので、ジオークが時たま傍から離れても寂しくはなかったが、ジオークがやはり女性に慣れていることと女性に優しいことを目の当たりにして、複雑な気分だった。
特に、ジョーが、「ああ、近衛騎士団長のお嬢さんか。 熱烈だねぇ」と言った、金髪碧眼の控えめな印象の美少女。 リシェーナの直感でしかないが、あの娘はきっと、ジオークのことを好きになったと思う。
お仕事、なのだ。
だから、ジオークが他の若くて可愛い女性に、にこにこしていても仕方がない、けれど。
リシェーナは、ついていかなければよかったと思った。
見たくなかった。
気づきたくなかった。
こんな醜い自分になんて。
リシェーナが、膝の上の手をぎゅっと握りしめていると、ジョーはふっと息を吐いた。
「馬鹿だねぇ、あの男は」
心底からの、呟きだったと思う。
だから、リシェーナは、ぱっと顔を上げて否定した。
「彼は、馬鹿じゃない」
ジョーは、リシェーナには優しいのに、ジオークには割と辛辣だ。 「馬鹿」とか「駄目」とかすぐに口にする。
リシェーナがむきになって声を上げると、ジョーは苦笑いしたようだった。
その表情に、リシェーナはじっと見入る。
苦笑い、しているのに、視線が柔らかくて優しいのは気のせいだろうか。
「お嬢ちゃんは本当に、ジオには勿体ないよ」
ジョーは、ばあやが準備してくれた果物の盛られた籠に手を伸ばして、バナナを手に取るとその皮をむき始める。
「お嬢ちゃん、バナナは食べても大丈夫かい?」
「え、うん」
不思議な問いだ、と思った。
今の質問はまるで、ほかの何かを食べてはいけないことを知っている者のする問いだ。 リシェーナの、フレンティア語の理解が間違えていなければ、の話だが。
リシェーナは、幼い頃から林檎を食べてはいけないと言われて育った。
まるで、ジョーはそのことを知っているかのような…。
疑問を口にしようとしたのだが、言葉を発することは出来なかった。 ジョーが、リシェーナの唇に剥いたバナナの先をくっつけてきたからだ。
これは、食べさせてくれようとしているのだろうか。
だから、聞いた。
「…食べる?」
「これ、ジオの身体の一部に似ていないかい?」
ジオークの身体の一部、と言われて、ぽんと浮かんだのはそびえ立つジオークの熱杭だ。
もう一度、ジッとバナナを観察したリシェーナは、わずかに首を揺らす。
「彼のは、もっと太い。 しっかりしてる。 先、細くない」
ということは、連想は出来ても似てはいない。
真面目に答え、真面目に考察していたリシェーナに、ジョーはその顔を引きつらせた。
「その返しが来るとは思わなかったな…。 聞かなかったことにしよう」
では、どんな答えを返してほしかったのだろう。
リシェーナは、ちらとバナナを見、ジョーを見た。
「バナナが何? 食べない?」
問う、リシェーナの唇に、ジョーはバナナの先端をつん、と当てた。
「ジオのこれを、お嬢ちゃんがこの可愛いお口でしてあげると、ジオは喜ぶと思うよ」
ジオークが、喜ぶ。
その言葉は、リシェーナにとってはこの上なく、魅力的なものだった。
リシェーナは、ジオークが好きだ。
ジオークに喜んでもらえるのが嬉しいし、とりわけ、ジオークの喜んでいる顔が好きだ。
ジオークに喜んでもらえることなら、出来る限りのことはしたいと思っている。
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