【R18】紅の獅子は白き花を抱く

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紅の騎士は白き花を抱く

22.嫌だったわけじゃないんだ。

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 頬を擽る感じがして、ぱかり、と目を開けると、上体を起こして座ったジオークが優しいのに色っぽい笑顔を浮べてリシェーナの頬を撫でていた。
「おはよ、ダーリン」
「おはよう」
 ジオークが隣にいてくれるのが嬉しくて、リシェーナは微笑んだのだが、そこでハッとする。
 今は、本当に【おはよう】でいいのだろうか?

 なんとなくだが、差し込む光が朝陽の感じではない。
 リシェーナは慌てて身体を起こそうとするが、ジオークがそっとリシェーナの肩を押さえた。
「もっと寝てていいよ? 疲れたでしょ」

 そう、身体を労いたわってもらえば、唐突に昨夜のことを思い出してしまった。
 恥ずかしすぎて逃げ出したいような気持ちになる。

 あんなに、声をあげて。
 あんなに、彼を求めて。

 挙句、懇願して、彼に途中で止めてもらった、なんて…。
 同じ空間にいるのが居たたまれない。

「お、風呂」
 一人になれる場所を探して、思いついた浴室に逃げるべく、夜着を胸元にあてながらベッドを下りようとする。 その瞬間、カクンと膝が折れた。
「ぇ…」

 転ぶ、落ちる、と危機感を抱いた瞬間、ぐいとお腹に腕を回されて、引き寄せられる。
 ジオークがベッドの中からリシェーナに手を伸ばして抱き寄せ、もう一度ベッドに座らせてくれたのだ。 危うく難を逃れたリシェーナに、ジオークがふっと息を漏らした。
「危ない。 気をつけて」
「う、うん。ありがとう…」
 言って、リシェーナは立ち上がろうとしたのだが、おかしい。
 膝に力が入らない。 生まれたての子鹿がこんな感じだっただろうか。
 ジオークも、リシェーナの様子に違和感を覚えたらしかった。

「…? どうしたの?」
 肩越しに覗き込んでくるジオークの顔が、きょとんとしている。
 リシェーナはジオークの顔を見ながら、頬を染めた。
「た、立てない…」
 ジオークは、目を丸くした。

 あれくらいで立てなくなるなんて、とがっかりさせただろうか。
 そう不安になったリシェーナを、ジオークは抱きしめてちゅっと後ろから頬にキスをくれる。
 リシェーナを膝の上にジオークが横抱きにするものだから、リシェーナは慌てて胸元を隠した。
 もう既に見られているし触れられているし、色々しているのだけれど、やはり陽の光の中で凝視されるのは恥ずかしい。
 けれど、リシェーナを見下ろすジオークの表情が申し訳なさそうに見えて、リシェーナの中から恥ずかしい気持ちが薄れた。


「乱暴にしたつもりはなかったんだけど…。 ごめんね、夢中になっちゃった」
 何を、謝られているのかわからなくて、リシェーナはジオークを凝視する。 リシェーナを見下ろすジオークの瞳も表情もどこか思い詰めた様子に見える。
 結ばれた、ジオークの唇がゆっくりと動いた。


「…だから、リシェも嫌だった?」
 ジオークに投げられた問いに、リシェーナはぱちくち、と目を瞬かせてしまった。


 リシェーナは、何を嫌だと言ったのだろう?
 記憶を辿るが、嫌と言った覚えなどなくて、困惑する。

 だが、ジオークの悲愴な様子を見ると、リシェーナが何かを嫌がったと受け止めているのは明らかだ。
 下手に何かを言ったらジオークを更に落ち込ませるだろうか、とリシェーナが悩んでいる内にジオークの話は先に進む。
「ずっと、考えてた。 あのあとすぐ、リシェは眠っちゃったから何が嫌だったんだろうって」
 リシェーナは目をぱちぱちと瞬かせる。
 よくよく観察すると、ジオークの目の縁はうっすらと赤い。

 もしかして、【ずっと】考えていた、というのは、一睡もせずにずっと?
 しかも、ジオークの言葉を考えるなら、もしかしなくても、リシェーナがもう色々と限界で、「も…だめ。 おねがい、だめ」と懇願したのが、リシェーナが何かを嫌がったことになっている?


「嫌だったなら、それ、教えて? もうしないから」
 なんだろう、こんなことを言ってはあれだけれども、ジオークが粗相をしてしまって飼い主の許しを待つライオンに見える。
 伏せまでしてしまいそうなその様子に、リシェーナは慌てた。


「ち、ちがうの。 わたし、初めて、で」


 リシェーナもリシェーナで取り乱していたために、要領を得ない回答になってしまった。
「?」
 疑問符を浮べるジオークはきっと、何が初めてなんだろう? とでも考えているのだろう。
 こんなことを言っていいのだろうか、とリシェーナは逡巡する。 けれど、ジオークがじっと待っているから、降参した。
「…一つの夜で、あんなにするものなの…?」
 憚りながら、逆に問い返せば、ジオークは目を丸くした。


 昨夜――というか、日付が変わってからもだが――、何度、気持ちよくなったかしれない。
 何度、意識を飛ばしたか…。
 もう、本当に、体力的にも眠気的にも限界だったのだ。

 そう告げれば、ジオークはがくりと肩を落とした。
 やっぱりがっかりさせただろうか、とリシェーナがジオークの腕の中でおろおろしていると、ジオークはほっと安堵の息をついた。


「そっか…嫌だったわけじゃないんだ。 よかった」


 くしゃり、と微笑んだジオークに、リシェーナも安堵する。
 けれど、ジオークは今度は別のところを気にしたらしく、リシェーナの瞼にちゅっと口づける。
「でも、やっぱり辛くしたんだね。 ごめんね。 ずっと我慢したし、待ち遠しかったし。 …リシェ、すごくいいし」
 ごめんね、ともう一度神妙な様子で謝るジオークに、リシェーナはぽつりと零す。
「…ジオ、が嫌なわけ、ない…」
「うん?」

 リシェーナの言葉が聞こえなかったのだろうか。
 耳をそばだてるように顔を近づけてきジオークに、リシェーナは、今度ははっきりと伝えた。
「大すきだもの」
「…おれもだよ」
 ジオークは安心し、満足したように微笑んで、リシェーナの唇にキスを落とす。

 触れるだけ、なのだろうか。
 もっと、触れていてほしくて、リシェーナはジオークの首に腕を回す。
 軽くジオークの唇を吸ってみると、ジオークがリシェーナの唇を吸って、微かに舌が触れるのがわかった。 だから、口をそっと開いて舌を差し出す。
 ジオークの舌がリシェーナの舌に触れて、そのまま唇が重なる。
「ん、ぅ」

 ちゅ、ちゅく、と脳内に水音が響くような気がして、頭の中に熱が籠もるような感じがする。
 昨夜、たくさんジオークにしてもらったし、まだ昨夜の名残があるのだろうか。
 脚の間がすぐに潤んでくる。
 もじ、とリシェーナが身をよじったのに気づいたのだろうか。
 ジオークがちゅっとリシェーナの唇を吸って離れた。
 心地よい熱と、蕩けそうに気持ちの良い舌が離れていくのが、寂しい。
 一度、身体が、肌が重なる心地よさと安心感を知ってしまうと、こうして離れていることがひどく不自然なことのように感じられる。

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