【R18】紅の獅子は白き花を抱く

環名

文字の大きさ
上 下
64 / 97
紅の騎士は白き花を抱く

14.おやすみ、ダーリン。

しおりを挟む
 こんなに緊張したこと、今までなかったかもしれない。

 リシェーナは、大きなベッドに座ってじっと待っていた。
 今まで、ジオークが寝室として使っていて、これからリシェーナとジオークの寝室となる部屋は、ジオークの匂いがする。
 ジオークの匂いを嗅ぐと、ほっとすると同時に、どきどきするのだ。
 心臓がうるさいし、胸が痛くて苦しい。

 帰宅したリシェーナとジオークは、まずは着替えをしたのだが、驚くべき事にリシェーナの部屋はもぬけのからになっていた。 代わりに、ジオークの部屋の隣の部屋へとリシェーナの荷物は全て移されていた。
 そういうわけで、リシェーナはばあやが実は本当に魔法使いなのではないかと疑っている。

 その後は、ばあやが作ってくれた、びっくりするくらいのご馳走をジオークとばあやと三人で食べた。
 食べ終えると、ばあやは「片づけと明日の朝、摘まめるものの準備をしたらお暇しますわ。 お二人はもうおやすみになって」と言ってくれて、今に至る。


 お風呂は、リシェーナが先に使わせてもらった。
 今は、ジオークが入浴中だ。


 こういうとき、どうやって待っているのが、正解なのだろう。
 お風呂も、いつもより念入りに入って、洗い、磨いたつもりだが、変なところはないだろうか。

 リシェーナは自分の身体を見下ろした。
 こんなふうに、色々と気にしたことも、今まではなかった。

 そんなことを思っていると、不意に扉の開く音がする。
 ドキリとしたリシェーナが顔を上げると、シャツに袖を通して前は開けたまま、ズボンを身につけていた。
 さすが、騎士。 シャツの間から覗くジオークの身体は、筋肉がしっかりと浮いていて、目のやり場に困ってしまう。


 リシェーナが視線を泳がせて挙動不審になっていたのだが、ふとそのリシェーナの上に、影が落ちる。
「待たせちゃったね」
 リシェーナが視線を上げると、リシェーナの目の前に立ったジオークが身を屈めて、リシェーナの唇にキスを落とすのはほぼ同時だった。

 ちゅ、ちゅ、と小さくて可愛い音を立てて、ジオークは角度を変えてリシェーナにキスをする。
 軽い、触れるだけのキスが繰り返される。

 好きだよ、大切だよ、と言われているようで、胸の奥がぽっと温かくなるけれど、もっと、長く触れ合いたい。 
 そっと、ジオークの首に腕を回して、リシェーナから唇を押し当てる。


 唇を吸ったり、食んだり、舌を出したりできるほど大胆にはなれなかった。
 けれど、ジオークはリシェーナの行動から、リシェーナがしてほしいことを察してくれたのだろう。
 一度、唇が離れて見つめ合ったときに、ジオークがそっと唇を開いて首を傾けるのが見えたから、リシェーナも唇を開く。
 わずか覗かせた舌と、ジオークの舌が触れた。
 それだけで、びりりっと全身に震えが走って、リシェーナの鼻から声が漏れる。
「ん…」


 どうして、触れ合う唇ですら、舌ですら、優しいのだろう。
 他人の呼吸を、ほしいと思ったのなど、初めてだった。
 もっと、もっと、触れてほしい。
 もっと、もっと、与えてほしい。


 触れられて、与えられて、ぼんやりして、身体に震えが来るけれど、離れたくなくて、ぎゅっとジオークにしがみつく。
 ジオークは、リシェーナに口づけたままで、リシェーナの背に腕を回す。
 その腕に込められた力が、上方に動くような感じがして、リシェーナはそっと立ち上がったけれど、膝に震えがきた。
「っ」
 膝から力が抜けそうになるリシェーナを、唇を離したジオークが支え、抱き上げてくれる。


 必死にジオークに縋り付いていると、ばさっと掛布を捲るような音がして、ベッドの上にそっと下ろされた。 横たわるリシェーナに寄り添うように横たわったジオークの影が、リシェーナに落ちてくるので、リシェーナは目を伏せる。
 けれど、今度与えられたのは、さっきの甘くて深くて、くらくらしてしまうくらいに心地のいいキスではなくて、子どもをあやすようなキスだった。


「おやすみ、ダーリン。 いい夢を」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました

加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...