【R18】紅の獅子は白き花を抱く

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紅の騎士は白き花を抱く

0.おれが行く。

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 リンゴーン。
「あ」
 不意に、呼び鈴が鳴って、リシェーナは顔を上げた。

 今日は、ジオークがお休みの日なので、ばあやはお休みだ。
 リシェーナはキッチンで、ばあやに教えてもらった彼の好物だというクッキーを焼いていた。 来客の予定は聞いていないが、確認をしに行かないと、とリシェーナが慌てていると、ジオークの顔がのぞく。
「いいよ。 おれが行く」
「え、でも」

 せっかくお休みなんだから、ゆっくりしていてほしい、と思う。
 リシェーナが近づいてくるジオークを見上げると、ジオークは身を屈めてリシェーナの頬に口づけた。
「大丈夫。 いい子で待ってて」

 実に自然にその動作をやってのけ、ジオークはすいっと玄関に向かう。
 リシェーナは、頬を押さえて固まった。

 ドキドキが、治まらない。
 触れられたところが、熱を帯びるような気がする。

 キュビスとジオークを比べるのもあれだと思うのだが、こういうところで感じずにはおれない。
 ジオークは、触りたがりでかまいたがりだ、と。

 そして、リシェーナもそういうふうにされるのが、嫌いでない。 むしろ、好きだ。
 触ってもらうのも、構ってもらうのも、嬉しい。

 リシェーナはほとんど無意識で目を伏せる。

 キュビスは、彼のように甘く接してくれることはなかった。
 それは、ただ単に趣向や性格などの問題なのか。
 ジオークが、女性慣れしているということなのか。

 そう思うと、胸がもやもやする。
 本当に彼が好きなのだと、リシェーナが実感するのはこういうときだ。

 それから、やはり彼は基本的には、気遣いさんで優しい。
 もう、身体もすっかりよくなったし、気持ちの整理もできたというのに、彼はまだリシェーナの身体のことを気にしているのだ。 リシェーナの部屋がある二階まで、ばあやが食事を運ぶのも心配だったらしく、一週間ほどは半日で早退で帰ってくる日が続いていた。 リシェーナがベッドから出られるようになってからは、今度はリシェーナの階段の上り下りが心配だという理由で一時的にリシェーナの部屋を一階の客間に移されていたくらいだ。 

 久しぶりにお風呂に入る許可を得た日だって、お風呂場で何かあったら大変だとずっと傍についていられてすごく恥ずかしかった。 幸い、裸は見ないようにと配慮してくれていたのだけれど、それはそれで切ないものがあったりなかったりという自分の心の動きにも戸惑った。

 という余計な話はここまでにしておいて、今、ジオークが席を立ってくれたのだって、きっとリシェーナを急がせたくないためだ。
 ジオークは最近よく、「急がなくていいよ」「慌てなくていいよ」「ゆっくり歩こう」とリシェーナに言ってくれる。 リシェーナが、いつもリシェーナが歩く以上の速度で歩いたり、走ったりするのが身体に負担ではないかと心配なのだろう。

 過保護だとは思う。
 けれど、リシェーナにはそれが嬉しくて、頬が緩む。


 自分が、大好きな彼の大切な存在であることが、嬉しい。


 いい香りが漂い始めて、リシェーナはほっとする。
 もうすぐ、焼きあがるだろうか。
 彼の好物だというクッキーを、彼が喜んでくれたら、嬉しい。

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