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紅の騎士は白き花を癒す
19.…ばあやはさすがに鋭いね。
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「旦那様…お出かけになるのですか?」
階下で待っていたマリーは、制服に身を包んだジオークを目にすると、わずかだが非難の色を滲ませたようだった。
それに気づかないわけではないけれど、ジオークは頷く。
「リシェが大丈夫だって言うから、行ってくるよ」
「大丈夫だと、お思いですか?」
大丈夫なわけがないでしょう、と、暗にマリーは言っているのだ。
けれど、ジオークはやわらかく笑んで見せる。
「駄目そうだったら、なんて言われても動かないよ?」
しばし見つめ合っていたが、折れたのはマリーの方だった。
ふと目を伏せて、肩を竦め、息を吐く。
「…そう、ですね」
「うん、だから、よろしく頼むよ。 ちゃんとお薬飲ませてあげてね」
そう言って、ジオークはマリーの横を通り過ぎる。
マリーがまだ何か言いたげなことには気づいていたが、敢えてジオークは訊かずに、ドアノブへと手をかけた。
そのときだった。
「旦那様」
思い切ったように、マリーが口を開いた。
「…本当に旦那様の子ども、でしたか?」
ああ、やはり、と思いながら、ジオークは何気ないふりを装ってマリーを振り返る。
「どうして?」
マリーに向き合えば、マリーは青灰色の瞳を揺らした。
言おうか言うまいかと迷っている様子だったが、マリーは意を決したようにジオークを真っ直ぐに見つめて、口を開いた。
「御子様がだめになったというのに…。 お嬢様も、旦那様も…どこかほっとしているようにお見受けできます」
「…ばあやはさすがに鋭いね」
「旦那様」
答えを返さないジオークに、マリーは思わず語調を強くしたようだった。
言い逃れは、できないか。
そう、ジオークは諦める。
何より、ジオークにとってはマリーも、ジオークの家族なのだから。
ジオークはふと目を伏せて、諭すようにマリーに語りかけた。
「うん。 でも、リシェを責めないでね。 不慮の事故のようなものだし…妊娠を一番怖がってたのは、リシェだから」
マリーはジオークの言葉に、目を見張った。
きっと、マリーは、リシェーナが思い悩んでいるなど、思いもしなかったのだろう。
「それでも、お腹の子は悪くないからって産む決心したのは…立派だったと思う。 だから、おれも、リシェの支えになりたいって思ったんだよ」
「旦那様…」
それ以上何も言うことができなかったのだろう。
マリーはぎゅっと唇を引き結んだ。
ともすると泣きそうにも見えるマリーにジオークは近づいて、落とすように告げた。
「それにね。 おれも、半分でもリシェの血なら、愛せると思ったんだ」
階下で待っていたマリーは、制服に身を包んだジオークを目にすると、わずかだが非難の色を滲ませたようだった。
それに気づかないわけではないけれど、ジオークは頷く。
「リシェが大丈夫だって言うから、行ってくるよ」
「大丈夫だと、お思いですか?」
大丈夫なわけがないでしょう、と、暗にマリーは言っているのだ。
けれど、ジオークはやわらかく笑んで見せる。
「駄目そうだったら、なんて言われても動かないよ?」
しばし見つめ合っていたが、折れたのはマリーの方だった。
ふと目を伏せて、肩を竦め、息を吐く。
「…そう、ですね」
「うん、だから、よろしく頼むよ。 ちゃんとお薬飲ませてあげてね」
そう言って、ジオークはマリーの横を通り過ぎる。
マリーがまだ何か言いたげなことには気づいていたが、敢えてジオークは訊かずに、ドアノブへと手をかけた。
そのときだった。
「旦那様」
思い切ったように、マリーが口を開いた。
「…本当に旦那様の子ども、でしたか?」
ああ、やはり、と思いながら、ジオークは何気ないふりを装ってマリーを振り返る。
「どうして?」
マリーに向き合えば、マリーは青灰色の瞳を揺らした。
言おうか言うまいかと迷っている様子だったが、マリーは意を決したようにジオークを真っ直ぐに見つめて、口を開いた。
「御子様がだめになったというのに…。 お嬢様も、旦那様も…どこかほっとしているようにお見受けできます」
「…ばあやはさすがに鋭いね」
「旦那様」
答えを返さないジオークに、マリーは思わず語調を強くしたようだった。
言い逃れは、できないか。
そう、ジオークは諦める。
何より、ジオークにとってはマリーも、ジオークの家族なのだから。
ジオークはふと目を伏せて、諭すようにマリーに語りかけた。
「うん。 でも、リシェを責めないでね。 不慮の事故のようなものだし…妊娠を一番怖がってたのは、リシェだから」
マリーはジオークの言葉に、目を見張った。
きっと、マリーは、リシェーナが思い悩んでいるなど、思いもしなかったのだろう。
「それでも、お腹の子は悪くないからって産む決心したのは…立派だったと思う。 だから、おれも、リシェの支えになりたいって思ったんだよ」
「旦那様…」
それ以上何も言うことができなかったのだろう。
マリーはぎゅっと唇を引き結んだ。
ともすると泣きそうにも見えるマリーにジオークは近づいて、落とすように告げた。
「それにね。 おれも、半分でもリシェの血なら、愛せると思ったんだ」
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