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紅の騎士は白き花を癒す
12.まだお返事待ちだけどね。
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見た目からはまるで想像できないが、「意外とキッチリ系」のジオークにとって、キュビスの犯した所業はそれほどのものだったのだ。
ジオークの目は押し殺したように静かなのだが、キュビスは射すくめられたように…、あるいは、獣に狙われた獲物のように、身動きが取れなくなる。
「…そっか…。 それは、責任とって結婚しなきゃだね。 上司の娘さんなんだし。 で、リシェにその辺のことは言えなかったんだ? …ほんと最低。」
腕を組んでソファにもたれたジオークは、もはやキュビスを見もしなかった。
そして、ジオークの中でその話は終わったとばかりに、ふっと息をつく。
「ま、いいよ。 報告だけで、それ以上どうしようって思ってないから」
「え…?」
ジオークの言葉に、キュビスは拍子抜けした。
「何? 奥さんと別れて、リシェとより戻せとか言うと思った? …冗談。」
ジオークは、片頬を歪めるようにして、失笑した。
嘲るような嗤いだった。
キュビスは、この男のそんな表情は、初めて見た。
「あえて言うなら、関知しないで、ってとこ? リシェが子どもを産んで、親子仲良く暮らしてるところに、父親とか名乗り出られても困る…っていうか、迷惑だから」
「どういう、ことだ」
ジオークの展開する話の流れについていけずに、キュビスは問う。
キュビスはてっきり、リシェーナが妊娠しているからハニーフと別れてリシェーナとよりを戻してくれという話なのだと思っていた。
なのに、関知しないでくれ、とは…ジオークは何が言いたいのか。
どんな決着をつけに、ここにやって来たというのか。
訝しむキュビスの耳に、ジオークの硬質な声が届いた。
「おれ、リシェと結婚するよ」
キュビスは、ジオークが言っている内容を理解するのに時間を要した。
「…お前と、リシェーナ、が…?」
呆然とした、自分の声が、耳に届いた。
ジオークは、目を伏せて微笑む。
「うん。 まだお返事待ちだけどね。 すんなり了承されるよりは、見込みあると思ってる」
ジオークの言葉の意味が、キュビスにはわからない。
その場ですぐに結婚の返事をもらえなかったというのに、どうしてそれが結婚の見込みがあるという話になるのだろう。
ジオークは、微笑んでいるのだ。
なぜそんな余裕があるのかも、キュビスにはわからない。
「裏を返せば、ちゃんとおれとの関係について考えてくれてるってことだから。 その場の雰囲気とか、成り行きとかじゃなくってね」
告げられた内容に、キュビスは目を見張る。
つまりそれは、結婚についての可否の見込みではなく、リシェーナのジオークに対する感情の見込みだと、いうことなのか。
それ以上その話を続ける気がジオークにはないようで、自分の主張だけを口にする。
「リシェが産んだ子は、おれの子として育てるから。おれたちに関わらないでほしいんだ」
言いたいことは言い終えたのか、ジオークはすっと立ち上がる。
「じゃ、それだけ」
挨拶も何もせずに――…否、礼儀を尽くす必要もないと思っているのだろう――、ジオークはキュビスに背を向けて、扉に向かって歩き出す。
扉のノブに手をかけたジオークは、キュビスを見もせずに、静かに、低く、落とした。
「…困るなんて言う奴は父親失格。 ま、自分の子どもじゃないって言わなかっただけマシだけど」
皮肉げに言われて、キュビスは羞恥心で顔を赤らめる。
ジオークが振り返らなかったのは、幸運だった。
だが、ジオークは扉を開けながら、キュビスの自尊心をズタズタにする。
「とてもリシェには聞かせられないし、ましてや会わせられないよ。 こんな男の子ども宿してるなんて、可哀想だ」
ジオークの目は押し殺したように静かなのだが、キュビスは射すくめられたように…、あるいは、獣に狙われた獲物のように、身動きが取れなくなる。
「…そっか…。 それは、責任とって結婚しなきゃだね。 上司の娘さんなんだし。 で、リシェにその辺のことは言えなかったんだ? …ほんと最低。」
腕を組んでソファにもたれたジオークは、もはやキュビスを見もしなかった。
そして、ジオークの中でその話は終わったとばかりに、ふっと息をつく。
「ま、いいよ。 報告だけで、それ以上どうしようって思ってないから」
「え…?」
ジオークの言葉に、キュビスは拍子抜けした。
「何? 奥さんと別れて、リシェとより戻せとか言うと思った? …冗談。」
ジオークは、片頬を歪めるようにして、失笑した。
嘲るような嗤いだった。
キュビスは、この男のそんな表情は、初めて見た。
「あえて言うなら、関知しないで、ってとこ? リシェが子どもを産んで、親子仲良く暮らしてるところに、父親とか名乗り出られても困る…っていうか、迷惑だから」
「どういう、ことだ」
ジオークの展開する話の流れについていけずに、キュビスは問う。
キュビスはてっきり、リシェーナが妊娠しているからハニーフと別れてリシェーナとよりを戻してくれという話なのだと思っていた。
なのに、関知しないでくれ、とは…ジオークは何が言いたいのか。
どんな決着をつけに、ここにやって来たというのか。
訝しむキュビスの耳に、ジオークの硬質な声が届いた。
「おれ、リシェと結婚するよ」
キュビスは、ジオークが言っている内容を理解するのに時間を要した。
「…お前と、リシェーナ、が…?」
呆然とした、自分の声が、耳に届いた。
ジオークは、目を伏せて微笑む。
「うん。 まだお返事待ちだけどね。 すんなり了承されるよりは、見込みあると思ってる」
ジオークの言葉の意味が、キュビスにはわからない。
その場ですぐに結婚の返事をもらえなかったというのに、どうしてそれが結婚の見込みがあるという話になるのだろう。
ジオークは、微笑んでいるのだ。
なぜそんな余裕があるのかも、キュビスにはわからない。
「裏を返せば、ちゃんとおれとの関係について考えてくれてるってことだから。 その場の雰囲気とか、成り行きとかじゃなくってね」
告げられた内容に、キュビスは目を見張る。
つまりそれは、結婚についての可否の見込みではなく、リシェーナのジオークに対する感情の見込みだと、いうことなのか。
それ以上その話を続ける気がジオークにはないようで、自分の主張だけを口にする。
「リシェが産んだ子は、おれの子として育てるから。おれたちに関わらないでほしいんだ」
言いたいことは言い終えたのか、ジオークはすっと立ち上がる。
「じゃ、それだけ」
挨拶も何もせずに――…否、礼儀を尽くす必要もないと思っているのだろう――、ジオークはキュビスに背を向けて、扉に向かって歩き出す。
扉のノブに手をかけたジオークは、キュビスを見もせずに、静かに、低く、落とした。
「…困るなんて言う奴は父親失格。 ま、自分の子どもじゃないって言わなかっただけマシだけど」
皮肉げに言われて、キュビスは羞恥心で顔を赤らめる。
ジオークが振り返らなかったのは、幸運だった。
だが、ジオークは扉を開けながら、キュビスの自尊心をズタズタにする。
「とてもリシェには聞かせられないし、ましてや会わせられないよ。 こんな男の子ども宿してるなんて、可哀想だ」
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