【R18】紅の獅子は白き花を抱く

環名

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紅の騎士は白き花を癒す

5.…後悔、してるの?

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「違う。 わたしは、あなたに、たくさん、たくさん、頼ってる…」

 感情の昂ぶりによって、声が震えたのに、ジオークは気づいたのだろう。
「…ごめんね。 興奮しないで」
 宥めるように、ジオークはリシェーナの頭を撫でてくれる。
 すぐに、リシェーナのお腹の子を案じて言ってくれているのは、わかった。

「おれは、リシェが身を売るところなんて見たくないよ?」
 身を、売る。
 その言葉の意味は、わかった。

 確かに、女性がそれなりの収入を期待するとしたら、そういったことでしか稼げないのかもしれない。
 だから、彼は厳しいことを、言っている?

 リシェーナがジオークを見ると、ジオークはリシェーナに笑みかけた。
「リシェがここにいてくれたら、おれはリシェの心配、しないで済む」
 それが、決定的だった。

 ジオークは、リシェーナのために、言ってくれている。
 それに気づけば、何が正しいことなのか…いや、正しいことなんてないのかもしれない。
 何が一番良いことなのか、わからなくなってしまう。
 ジオークの傍にいても、いなくても、ジオークの負担になるのなら、自分はどうすべきなのだろう。
 そう思いながら、リシェーナは口ごもる。


「でも、あなたに、これ以上、迷惑…。 わたし、甘えたら、駄目」
 そこまで言って、リシェーナはふるふると、頭を振った。


「いいえ…。 最初から、甘えるべきでは、なかった」
「それは、カージナルのこと?」
 間髪いれずに、ジオークは聞いてきた。

 それを聞いて、リシェーナは諦めたような気分になる。
 どうして多くを語らなくても、このひとにはわかってしまうのだろう。

「…あんな結婚、するべきではなかった」
 だからリシェーナはポロリ、と語るつもりではなかったことを、零してしまう。
「もっとほかに、生きて行く方法は、あったはずなのに」
 その言葉にじっと耳を傾けていたジオークは、ゆったりと口を開いた。


「…仕方ないよ。せんせいを失って、まともな判断はできなくなってたんだから。 そこにあいつがつけこんだだけ」
 その言葉に、救われたような気分になるのは、やはり甘えなのだろうか。


 リシェーナは目を閉じかけて、ハッとした。
「どうして、知ってるの…?」
 先程何気ない話の流れでジオークが少し語ったことに、リシェーナがキュビスと結婚するに至った経緯のようなものも含まれていた。
 どうしてそれを知っていたのか、とリシェーナは問い詰めたのだけれど、ジオークははぐらかすように笑んだ。
「迷惑なんかじゃ、ないからさ。 だから、ここにいてよ。 ね?」


 思わず頷きそうになったリシェーナだったが、あと一歩のところでそれに抗い、思いとどまった。
 その申し出を受けるには、現実的な問題が横たわっていたから。


「でも、け…結婚、って」
「そういう形にしといたほうが、色々楽じゃない?」


 楽じゃない? とあまりに軽く問うジオークに、胸が疼く。


 やはり、それが、結婚の理由。
 そう思うと、気分が落ち込んで、リシェーナが目を伏せると、ジオークはリシェーナの顔を覗き込んだ。

「それとも、リシェはおれと結婚するの、いや?」
「そういう、ことでは、なくて。 同情の結婚は、いつか壊れる」
 耳ざといジオークは、それでリシェーナの気持ちを察してしまうのだから、不思議だ。
「それは、カージナルとの結婚のこと? …後悔、してるの?」


 キュビスと結婚したことについての後悔なのか、離婚したことについての後悔なのか。
 どちらについての後悔を聞かれたのか…もしくはそのどちらもだったのか、それはわからない。
 けれど、後悔について言うのなら、答えはひとつだ。


「してるのかも、しれない。 …あのひとも、含めて」
「カージナルはしてないよ」
 意外にも、ジオークはきっぱりと言い切った。
 どうしてあのひとのことをそこまでわかるのか、と思ってリシェーナがジオークを見て、リシェーナは息を呑んだ。


「っていうか、してるとか言いやがったら殺すし」

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