【R18】紅の獅子は白き花を抱く

環名

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紅の騎士は白き花を癒す

2.理由は、…たぶん、わかってる。

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「早いうちに診てもらったほうがいいから。 何もなければ、それでいいんだし。 だから…ね?」

 諭すように、気遣うように言われて、リシェーナは泣きそうになる。
 リシェーナは、心を落ち着けようとぎゅっと目を瞑った。
 お腹の前で手を組んで、深く呼吸を繰り返す。

 覚悟、しなきゃいけない。
 甘えちゃ、いけない。
 こういうふうに優しいひとだから、こそ。 これ以上。

 本当は、最初からこうすればよかった。
 けれど、できなかったのは、ジオークの傍にいたいと思ってしまった、リシェーナの我儘だ。
 リシェーナは、決心して、目を開いた。
 ジオークを真っ直ぐに見つめることは、できなかったけれど。


「理由は、…たぶん、わかってる」


 自分で意図したよりも、静かな声が出た。
 一呼吸置いて、リシェーナは言った。


「妊娠、かも」


 ジオークが、どんな顔をしているかは、わからない。
 ただ、息を呑む気配だけが伝わった。


 ようやく、わかった。
 なぜ、離婚した女が、月が廻らなければ次の結婚を許されないのか。 それは、お腹の子どもの父親が誰かを、はっきりさせるためだったのだ。
 そして、リシェーナのお腹に子どもがいるとしたら、その父親は、キュビス・カージナル。


 居たたまれなくて、視線を床に落としたままのリシェーナは矢継ぎ早に口にした。
「月が、廻らない、の。 だから」
 早く、リシェーナの思いを口にして、ジオークに、お別れを―…。


 思うリシェーナの肩を、掴む手。
 ビクッとしてリシェーナが顔を上げると、顔を辛そうに歪めたジオークが、いた。


「そんな大切なこと、どうして、もっと早く言ってくれなかったの」


 その表情に、リシェーナの胸は痛む。
 ジオークの表情は、哀しそうな、苦しそうなものになった。

「おれの子じゃないから? おれが、堕ろせ、って言うとでも思った?」
「ちがうっ…」
 リシェーナは思わず声を上げた。


 言えなかった理由は、もっと複雑な気がする。
 けれど、自分でもよくわからないそれを、誰かに説明することもできなくて。 リシェーナはよくわからない自分の心情よりも、考えて結論を出したことを伝えてしまおうと、口を開きかけた。
 だが、それよりも先に、ジオークが訊いてきた。


「リシェは産むつもりなんだね?」


「…うん」
 リシェーナは、目を伏せて、静かに告げる。
 そして、ぱっと顔を上げる。
「だから、ね。 わたしっ…!?」

 考えていたことを、口にすることはできなかった。
 ジオークが、問答無用でリシェーナを抱き上げたからだ。

「あ、あなたっ…!?」
「暴れないで。 落としたら大変だから」
 食事が途中だったのも忘れたのか、ジオークはリシェーナを抱きかかえたままでダイニングを出て、階段を上って行く。
 リシェーナの部屋の扉を器用に開くと、ジオークは優しくリシェーナをベッドに下ろした。
 一体どういうことかとリシェーナが混乱していると、ジオークは真剣な顔をして、言った。

「じゃ、なおさらお医者さん」
「え…?」
 リシェーナが、ぱちくりとしてしまったのも、無理のないことだろう。
「ちゃんと診てもらわなくちゃ、駄目だよ」
 言いながら、ジオークはリシェーナに布団をかける。

「ここにいて。 お医者さん呼んでくるから」
 言うが早いか、ジオークはリシェーナの部屋から出て行ってしまう。
 言いたいことの半分も言えなかったリシェーナは、ベッドの中で呆然としているしかなかったのである。
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