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紅の騎士は白き花を癒す
0.わたしも、いや。
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リシェーナは花暦を見つめた。
父の命日が、近づいている。
リシェーナはすっと顔をジオークに向けて、じっとジオークを見る。
ジオークは、ジオークがリシェーナに出した宿題の採点をしてくれているが、リシェーナの視線に気づいたのだろう。
顔を上げて、ふっと笑った。
「何? おれの顔、何かついてる?」
リシェーナは咄嗟に首を横に振る。
そうすれば、ジオークは首を揺らした。
「そ?」
それでも、リシェーナはジオークを見ずにはいられなかった。
ジオークは父のことを好きだと言ってくれたし、誘えば一緒にお墓参りにも行ってくれそうな気がする。
一緒に行きたい。
でも、ジオークにはお仕事もある。
リシェーナはジオークにそんなに多くのことを望める立場にはない、けれど。
勇気を振り絞って、思い切って、リシェーナは口を開いていた。
「あの、ね」
「何?」
無邪気に問い返してくる、彼。
一度思い切って口に出したというのに、急に、自分が頼もうとしていることが、彼にとって重いことのような気がしてくる。
言おうか、どうか、考えて。
そこでリシェーナは、もうひとつジオークに話すべきか否か悩んでいることがあったのを思い出した。
リシェーナは立ち上がって、リビングの引き出しの中から、封筒を取り出す。
そして、ジオークの元へと持って行った。
「…これ…」
「?」
リシェーナはジオークに封筒を差し出す。
ジオークは疑問符を浮かべていたが、それを受け取ってくれた。
受け取って、ひっくり返して…固まったジオークに、差出人の名前を見たのだろうと、リシェーナは思う。
「…読んでないんだ?」
ジオークの声は、心なし、平坦だ。
いつもの、心地よいメロディのような音ではない。
怒らせた、だろうか、とは思うが、ジオークに隠し事はしたくなくて、リシェーナは頷く。
「うん」
「それで? おれはこれをどうしたらいいの?」
怒るわけでもなく、ジオークはやわらかく問いかけてくる。
その反応に、なぜかリシェーナの胸が痛む。
ジオークに隠し事はしたくなくて、打ち明けた。
そのリシェーナの判断は、間違えていたのだろうか。
これを、ジオークにどうしてほしいのかを、リシェーナは考える。
ジオークの手は、止まったまま、動かない。
「…困る、って、伝えて、ほしい」
「リシェが困るの?」
ジオークはやはり、頭の回転が早い。
間髪入れずに、ぽんと質問を投げる。
困るのは、誰だろう、とリシェーナは考える。
「うん、困る。 それに…奥さんも、きっと、いやと思う」
「そうだね」
微笑したジオークは、リシェーナの頭をよしよし、と撫でる。
ジオークが笑ってくれて、いつものメロディのような声が戻ってくるので、リシェーナはほっとして目を細める。
どうやら、リシェーナの返答は間違えていなかったらしい。
この手が、好き。
優しくて、大きくて、安心できる、手。
この手を持ったひとは、このことをどう思っているのだろう。
「あなたも、いや?」
リシェーナが問うと、ジオークは目を丸くした後で、少しだけ肩を竦める。
「…それは、あんまりいい気はしないかな」
でも、とジオークは続けた。
「リシェはこうして言ってくれるし。 そしたら大丈夫だよ」
今度は、頭ではなく、頬を両手で包むようにされて撫でられる。
それがくすぐったくも嬉しくて、リシェーナは飼い主に可愛がられるペットとはこんな気分なのかもしれないと思う。
「うん。 わたしも、いや」
「?」
ジオークがきょとんとするので、リシェーナは自分の頬を包んだジオークの手に自分の手を重ねて、微笑む。
「あなたが、女のひとからお手紙もらったら、いや」
リシェーナが言うと、ジオークは軽く目を見張る。
そして、はーっと長い溜息をついた。
「あなた?」
どうしてここで、溜息をつくのだろう。
「リシェは綺麗だから、心配だな。 リシェに月が廻ったら、一刻も早く結婚しようね」
リシェーナは思わず、頬を赤らめた。
月が廻る、は所謂、生理が来る、のことだ。 どうして、ジオークがその話をするのかわからない。
「どうして、月が廻る?」
リシェーナの問いに、ジオークは目を丸くする。
「あれ、知らない? うちの国では、離婚後月が廻るまでは、次の結婚ができないんだよ。 個人的には、あんまり意味はないと思ってるんだけど」
さらりとジオークは説明してくれたが、【結婚】、その話が出るたびに、リシェーナは複雑な気持ちになる。
彼は、どんな思いでいて、自分と結婚するのだろう、と。
友人の、妻だった女を、どんな思いで妻にするのだろう、と。
そう思うと、たまらなく苦しい。
それは、一体、どうしてなのだろう。
父の命日が、近づいている。
リシェーナはすっと顔をジオークに向けて、じっとジオークを見る。
ジオークは、ジオークがリシェーナに出した宿題の採点をしてくれているが、リシェーナの視線に気づいたのだろう。
顔を上げて、ふっと笑った。
「何? おれの顔、何かついてる?」
リシェーナは咄嗟に首を横に振る。
そうすれば、ジオークは首を揺らした。
「そ?」
それでも、リシェーナはジオークを見ずにはいられなかった。
ジオークは父のことを好きだと言ってくれたし、誘えば一緒にお墓参りにも行ってくれそうな気がする。
一緒に行きたい。
でも、ジオークにはお仕事もある。
リシェーナはジオークにそんなに多くのことを望める立場にはない、けれど。
勇気を振り絞って、思い切って、リシェーナは口を開いていた。
「あの、ね」
「何?」
無邪気に問い返してくる、彼。
一度思い切って口に出したというのに、急に、自分が頼もうとしていることが、彼にとって重いことのような気がしてくる。
言おうか、どうか、考えて。
そこでリシェーナは、もうひとつジオークに話すべきか否か悩んでいることがあったのを思い出した。
リシェーナは立ち上がって、リビングの引き出しの中から、封筒を取り出す。
そして、ジオークの元へと持って行った。
「…これ…」
「?」
リシェーナはジオークに封筒を差し出す。
ジオークは疑問符を浮かべていたが、それを受け取ってくれた。
受け取って、ひっくり返して…固まったジオークに、差出人の名前を見たのだろうと、リシェーナは思う。
「…読んでないんだ?」
ジオークの声は、心なし、平坦だ。
いつもの、心地よいメロディのような音ではない。
怒らせた、だろうか、とは思うが、ジオークに隠し事はしたくなくて、リシェーナは頷く。
「うん」
「それで? おれはこれをどうしたらいいの?」
怒るわけでもなく、ジオークはやわらかく問いかけてくる。
その反応に、なぜかリシェーナの胸が痛む。
ジオークに隠し事はしたくなくて、打ち明けた。
そのリシェーナの判断は、間違えていたのだろうか。
これを、ジオークにどうしてほしいのかを、リシェーナは考える。
ジオークの手は、止まったまま、動かない。
「…困る、って、伝えて、ほしい」
「リシェが困るの?」
ジオークはやはり、頭の回転が早い。
間髪入れずに、ぽんと質問を投げる。
困るのは、誰だろう、とリシェーナは考える。
「うん、困る。 それに…奥さんも、きっと、いやと思う」
「そうだね」
微笑したジオークは、リシェーナの頭をよしよし、と撫でる。
ジオークが笑ってくれて、いつものメロディのような声が戻ってくるので、リシェーナはほっとして目を細める。
どうやら、リシェーナの返答は間違えていなかったらしい。
この手が、好き。
優しくて、大きくて、安心できる、手。
この手を持ったひとは、このことをどう思っているのだろう。
「あなたも、いや?」
リシェーナが問うと、ジオークは目を丸くした後で、少しだけ肩を竦める。
「…それは、あんまりいい気はしないかな」
でも、とジオークは続けた。
「リシェはこうして言ってくれるし。 そしたら大丈夫だよ」
今度は、頭ではなく、頬を両手で包むようにされて撫でられる。
それがくすぐったくも嬉しくて、リシェーナは飼い主に可愛がられるペットとはこんな気分なのかもしれないと思う。
「うん。 わたしも、いや」
「?」
ジオークがきょとんとするので、リシェーナは自分の頬を包んだジオークの手に自分の手を重ねて、微笑む。
「あなたが、女のひとからお手紙もらったら、いや」
リシェーナが言うと、ジオークは軽く目を見張る。
そして、はーっと長い溜息をついた。
「あなた?」
どうしてここで、溜息をつくのだろう。
「リシェは綺麗だから、心配だな。 リシェに月が廻ったら、一刻も早く結婚しようね」
リシェーナは思わず、頬を赤らめた。
月が廻る、は所謂、生理が来る、のことだ。 どうして、ジオークがその話をするのかわからない。
「どうして、月が廻る?」
リシェーナの問いに、ジオークは目を丸くする。
「あれ、知らない? うちの国では、離婚後月が廻るまでは、次の結婚ができないんだよ。 個人的には、あんまり意味はないと思ってるんだけど」
さらりとジオークは説明してくれたが、【結婚】、その話が出るたびに、リシェーナは複雑な気持ちになる。
彼は、どんな思いでいて、自分と結婚するのだろう、と。
友人の、妻だった女を、どんな思いで妻にするのだろう、と。
そう思うと、たまらなく苦しい。
それは、一体、どうしてなのだろう。
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