【R18】紅の獅子は白き花を抱く

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紅の騎士は白き花を愛でる

22.じゃ、すっきりしたんでおれ帰るねっ…!?

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 目の前の光景の凄まじさに慄く騎士たちを前に、ジオーク・ブラッドベルはぽい、と右手に持っていた木剣を放りだした。
 床に落ちた木剣がカラン、と軽い音を立てたとき、ほっと安堵の息をついた騎士は何人いたことだろう。
 ジオーク・ブラッドベルは、クルリとアガットを振り返った。


「じゃ、すっきりしたんでおれ帰るね」


「じゃ、すっきりしたんでおれ帰るねっ…!? ちょっ…! すっきりしたとか、あからさますぎませんっ…!? ってか少しは後処理手伝ってってください!!!」
 アガットは、床で苦痛に悶えている騎士たちと、それを応急手当てする医師を指さす。
 これが、ジオーク・ブラッドベルの『指導』の結果である。

「えー? やだよ、面倒だもん。 ていうか、実戦形式の演習増やした方がいいよ。骨なさすぎ」
 アガットに背を向けたままで、ジオーク・ブラッドベルは壁に掛けた自分の上着を手に取る。
 さっさと帰ろうとする姿に、アガットが苛っとしたのは言うまでもない。
「それなら少し手加減してください!」
「え? したよ」

 ケロリと答えるジオーク・ブラッドベルに、アガットは堪忍袋の緒がぷっつんした。
「ほざけ!!!」
 それを聞くと、ジオーク・ブラッドベルはのんびりと笑う。
「アガットは面白いなぁ。 でも、おれ嘘は言わないよ? 打撲程度で急所は本気で狙ってないし、致命傷は与えてない。 ね? 手加減してるでしょ?」
 今日初の笑顔に、ジオーク・ブラッドベルが憂さ晴らしですっきりしたことは確かだな、とアガットは思う。

 ああ、このままでは堪忍袋の緒だけでなく、頭の血管もぷっつんしそうだ。
「ブラッドベル殿、少しはっ…!」
「えー、帰るよー。 定時だし」
 言われてアガットが時計を見れば、針は見計らったように四時を指したところだった。

「あんた時計なんて見てる余裕あったんですか!? って、ブラッドベル殿!」
 ギ、と扉の開く音を聞いて、そちらをバッと見たアガットだったが、時既に遅し。
 アガットが時計に気を取られた一瞬の隙に、ジオーク・ブラッドベルは退散したらしい。
 閉まる扉がなんとも虚しい。

「ほんとに、あのひとは…」
「あんなに怖かったんですねぇ…ブラッドベル殿」
「絶対怒らせないようにしよ…」
 同僚たちの囁きを聞きながら、かといって好き勝手させるとつけあがるだけだからな、とアガットは思うのだった。

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