【R18】紅薔薇の棘に口づけ

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その先は、薔薇色の日々

胸に決意の紅薔薇

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 産声が、聞こえる。

「アンネローゼ様、元気な男の子ですよ。 王太子様です」
 痛みと疲労感の中で、その言葉を聞いて、アンネローゼは力が抜けた。
「…よかったぁ…」
 思わず、そんな言葉が漏れた。

 生まれてくる子どもは、男の子でも、女の子でも、いいと思っていた。 それは、嘘ではない。
 けれど、アンネローゼは、自分には男児は産めないのではないかと、ずっと危惧していたのだ。
 エルディースは代々、女系の一族だ。

 曾祖母の代には確実に、一族には女児しか生まれていなかったと、アンネローゼは記憶している。
 その遺伝子をアンネローゼも受け継いでいるのなら、王太子は産めないのではないか、と、ずっと不安だった。

「陛下にお伝えして、元気な男の子です、と」
 ばたばたと、周囲が慌しくなる。

 どこか、その空間と乖離したような、ふわふわとした感覚の中にいたアンネローゼだが、ふと顔を横に向けた瞬間に、何かが視界を掠めたような気がした。
 気になったのは、回廊へと続く、扉。


 開け放されたそこに、静かに佇んでいたのは、ロワイエールだった。


 以前の清冽さだとか静謐さだとかはどこかに行ってしまって、ただの男前になったロワイエールは、この世に存在する男性でしかない。
 けれど、アンネローゼはそんなロワイエールが好きで、ロワイエールの子どもを、産んだのだ。
 アンネローゼと、ロワイエール、それから陛下とハンナしか知らないことだけれど。

 ロワイエールはもしかすると、アンネローゼの陣痛が始まってからずっと、そこにいてくれたのだろうか。 そんなことを考えながらロワイエールをぼんやりと見ていると、ロワイエールが微笑んでくれた。
 遠くからでもわかる。 その目が潤んでいることが。

 ふと、アンネローゼの脳裏に、ロワイエールの言葉が蘇った。
――だから僕は、騎士でよかったんですよ
 その意味を、わかっているつもりではあったが、こうして実感すると、また違うらしい。

 アンネローゼの公式の夫であるフレンティア国王は、執務に追われている。
 アンネローゼが陣痛を起こそうが、出産しようが、陛下には【国王】という絶対の役割があるのだ。
 けれど、ロワイエールは国王ではなく、アンネローゼ付きの【騎士】だから、こうしてアンネローゼの傍にいられた。 いて、くれた。 扉の向こうで、ではあるけれど、傍にいることを、見咎めるものもない。

 以前、陛下は、言っていた。
――ロワには、王になったところでメリットがないからね。
――秤にかけて、天秤が掲げた方を切り捨てる。

 国王という身分や立場より、ロワイエールにとっては、アンネローゼという存在の方が、大きなものだった。
 秤にかけて、天秤が沈んだ方だったのである。
 そう考えると、堪らなくなった。

 見つけてくれて、ありがとう。 望んでくれて、選んでくれて、ありがとう。 大切にしてくれて、愛してくれて、ありがとう。
 そう、ロワイエールに感謝し、アンネローゼは決意を新たにする。
 フレンティア国民を欺き続け、この関係と幸せ、この世に誕生してくれた子どもを護る決意を。


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