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その先は、薔薇色の日々
胸に決意の紅薔薇
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産声が、聞こえる。
「アンネローゼ様、元気な男の子ですよ。 王太子様です」
痛みと疲労感の中で、その言葉を聞いて、アンネローゼは力が抜けた。
「…よかったぁ…」
思わず、そんな言葉が漏れた。
生まれてくる子どもは、男の子でも、女の子でも、いいと思っていた。 それは、嘘ではない。
けれど、アンネローゼは、自分には男児は産めないのではないかと、ずっと危惧していたのだ。
エルディースは代々、女系の一族だ。
曾祖母の代には確実に、一族には女児しか生まれていなかったと、アンネローゼは記憶している。
その遺伝子をアンネローゼも受け継いでいるのなら、王太子は産めないのではないか、と、ずっと不安だった。
「陛下にお伝えして、元気な男の子です、と」
ばたばたと、周囲が慌しくなる。
どこか、その空間と乖離したような、ふわふわとした感覚の中にいたアンネローゼだが、ふと顔を横に向けた瞬間に、何かが視界を掠めたような気がした。
気になったのは、回廊へと続く、扉。
開け放されたそこに、静かに佇んでいたのは、ロワイエールだった。
以前の清冽さだとか静謐さだとかはどこかに行ってしまって、ただの男前になったロワイエールは、この世に存在する男性でしかない。
けれど、アンネローゼはそんなロワイエールが好きで、ロワイエールの子どもを、産んだのだ。
アンネローゼと、ロワイエール、それから陛下とハンナしか知らないことだけれど。
ロワイエールはもしかすると、アンネローゼの陣痛が始まってからずっと、そこにいてくれたのだろうか。 そんなことを考えながらロワイエールをぼんやりと見ていると、ロワイエールが微笑んでくれた。
遠くからでもわかる。 その目が潤んでいることが。
ふと、アンネローゼの脳裏に、ロワイエールの言葉が蘇った。
――だから僕は、騎士でよかったんですよ
その意味を、わかっているつもりではあったが、こうして実感すると、また違うらしい。
アンネローゼの公式の夫であるフレンティア国王は、執務に追われている。
アンネローゼが陣痛を起こそうが、出産しようが、陛下には【国王】という絶対の役割があるのだ。
けれど、ロワイエールは国王ではなく、アンネローゼ付きの【騎士】だから、こうしてアンネローゼの傍にいられた。 いて、くれた。 扉の向こうで、ではあるけれど、傍にいることを、見咎めるものもない。
以前、陛下は、言っていた。
――ロワには、王になったところでメリットがないからね。
――秤にかけて、天秤が掲げた方を切り捨てる。
国王という身分や立場より、ロワイエールにとっては、アンネローゼという存在の方が、大きなものだった。
秤にかけて、天秤が沈んだ方だったのである。
そう考えると、堪らなくなった。
見つけてくれて、ありがとう。 望んでくれて、選んでくれて、ありがとう。 大切にしてくれて、愛してくれて、ありがとう。
そう、ロワイエールに感謝し、アンネローゼは決意を新たにする。
フレンティア国民を欺き続け、この関係と幸せ、この世に誕生してくれた子どもを護る決意を。
「アンネローゼ様、元気な男の子ですよ。 王太子様です」
痛みと疲労感の中で、その言葉を聞いて、アンネローゼは力が抜けた。
「…よかったぁ…」
思わず、そんな言葉が漏れた。
生まれてくる子どもは、男の子でも、女の子でも、いいと思っていた。 それは、嘘ではない。
けれど、アンネローゼは、自分には男児は産めないのではないかと、ずっと危惧していたのだ。
エルディースは代々、女系の一族だ。
曾祖母の代には確実に、一族には女児しか生まれていなかったと、アンネローゼは記憶している。
その遺伝子をアンネローゼも受け継いでいるのなら、王太子は産めないのではないか、と、ずっと不安だった。
「陛下にお伝えして、元気な男の子です、と」
ばたばたと、周囲が慌しくなる。
どこか、その空間と乖離したような、ふわふわとした感覚の中にいたアンネローゼだが、ふと顔を横に向けた瞬間に、何かが視界を掠めたような気がした。
気になったのは、回廊へと続く、扉。
開け放されたそこに、静かに佇んでいたのは、ロワイエールだった。
以前の清冽さだとか静謐さだとかはどこかに行ってしまって、ただの男前になったロワイエールは、この世に存在する男性でしかない。
けれど、アンネローゼはそんなロワイエールが好きで、ロワイエールの子どもを、産んだのだ。
アンネローゼと、ロワイエール、それから陛下とハンナしか知らないことだけれど。
ロワイエールはもしかすると、アンネローゼの陣痛が始まってからずっと、そこにいてくれたのだろうか。 そんなことを考えながらロワイエールをぼんやりと見ていると、ロワイエールが微笑んでくれた。
遠くからでもわかる。 その目が潤んでいることが。
ふと、アンネローゼの脳裏に、ロワイエールの言葉が蘇った。
――だから僕は、騎士でよかったんですよ
その意味を、わかっているつもりではあったが、こうして実感すると、また違うらしい。
アンネローゼの公式の夫であるフレンティア国王は、執務に追われている。
アンネローゼが陣痛を起こそうが、出産しようが、陛下には【国王】という絶対の役割があるのだ。
けれど、ロワイエールは国王ではなく、アンネローゼ付きの【騎士】だから、こうしてアンネローゼの傍にいられた。 いて、くれた。 扉の向こうで、ではあるけれど、傍にいることを、見咎めるものもない。
以前、陛下は、言っていた。
――ロワには、王になったところでメリットがないからね。
――秤にかけて、天秤が掲げた方を切り捨てる。
国王という身分や立場より、ロワイエールにとっては、アンネローゼという存在の方が、大きなものだった。
秤にかけて、天秤が沈んだ方だったのである。
そう考えると、堪らなくなった。
見つけてくれて、ありがとう。 望んでくれて、選んでくれて、ありがとう。 大切にしてくれて、愛してくれて、ありがとう。
そう、ロワイエールに感謝し、アンネローゼは決意を新たにする。
フレンティア国民を欺き続け、この関係と幸せ、この世に誕生してくれた子どもを護る決意を。
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