【R18】紅薔薇の棘に口づけ

環名

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紅薔薇の棘

三輪

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 アンネローゼが身の内から湧き上がる衝動を何とかやり過ごしていると、腕組みをしたフレンティア国王が物憂げに嘆息した。
「私はもっと、淑やかで色っぽい美人が好きなんだよねぇ…」
「淑やかではなく、色っぽくもない美人で悪ぅございましたねぇ…」
 笑みを浮かべてはいるものの、ひくひくと口の端が引きつるのを止められない。

 アンネローゼを指して、淑やかで色っぽい美人が好きだと言うということは、アンネローゼはそれにはあてはまらないと言っているに他ならない。
 確かに、アンネローゼは「顔立ちのはっきりとした」「明るく」「活発な」美人だと褒められるが、「淑やかで」「色っぽい」と言われたことはないけれど!
 このヤロウ…と膝の上で重ねた手をぎゅっと握って耐えていると、笑みが滲んだ声が耳に届いた。


「ふふ、それでこそ、エルディースの【毒林檎姫】だ」


 ふと顔を上げれば、胡散臭くない笑みを浮かべたフレンティア国王がいて、アンネローゼは目を瞬かせる。 胡散臭くない笑い方もできるではないかと、アンネローゼは思った。
 今の笑顔なら、素直にこの男を【好青年】だと認められる。
 だが、フレンティア国王は、アンネローゼのことを【毒林檎姫】と言ったのか?


「あら、わたくし、【紅薔薇姫】だけでなく、【毒林檎姫】とも呼ばれておりますの?」


 確かに、アンネローゼは【林檎姫】と呼ばれることもあった。
 林檎はエルディースの名産であり、アンネローゼの髪の色はロイヤルガラにも似ている。 けれど、どうして【林檎姫】の前に【毒】がつくのか。


「美しい薔薇には棘がある。 美味なる林檎にも中毒性がある。 どちらも同じだね。 君が魅力的で、多少癖のある人物だということだ」


 多少癖のある人物、と言われたが、それは貴様にだけは言われたくない。
 だが、このフレンティア国王が、ロージィちゃんを求めた理由は、それでわかったような気になった。


「ですから、妹をご所望でしたの?」


 淑やかで色っぽいと言われると、ロージィちゃんのイメージとは多少異なる。
 だが、「淑やか」を「大人しい」と置き換え、「色っぽい」を童顔巨乳で「えろい」と置き換えれば、うちのロージィちゃんの右に出る者はいないだろう。


「ロージリー姫は慎ましやかな方だと評判だからね。 私の仕事にあれこれと口を出さずに、ある程度国益に繋がる相手ということでは、理想的だとは思わない?」
 フレンティア国王は、微笑んだ。


 このフレンティア国王は色々な笑い方をする。
 今の笑みは、胡散臭くはなかったが、細められた目の奥底が冷静だった。

 笑っていても目が全く笑っていない人間ならば飽きるほど見てきた。 エルディースの女王陛下や、女帝、アンネローゼの姉である、マリアンネもそうだ。
 だが、今のフレンティア国王の笑い方は、ある意味特殊で、それ故薄気味が悪い。
 社交辞令の笑みでも、愛想笑いでもない。 上手く表現できないが、アンネローゼは、フレンティア国王のように笑う人間は、初めて見た。

 何とか言葉にするのであれば、多少の感情を載せつつも、全く異なることを冷静に見、考え、分析している。 感情が多少でも載ることで、相手に別のことを考えていることを意識させない。
 その点で、愛想笑いや貼り付けた笑みとは異なる。
 そのように機能する人間が、いるということが驚きだった。


 この国王は、きっと、腹芸がとんでもなく得意な部類の人間だ。
 そう、直感した。


 アンネローゼは、頭の出来は悪くないと自負しているし、社交的・外向的でもある。 だが、自分の感情を隠すことや偽ることが苦手だ。
 感情や思い、考えが、容易に表情や態度、言葉に出てしまう。 その点で、外交向きとは言えない。
 きっと、フレンティア国王は、アンネローゼの真逆に位置する人間。

「一国の王としては理想的ですわね。ですが、夫としては最悪だと思いますわ」
 微笑みは恐らく、挑発的なものだっただろう。
 言葉の端が、とげとげしくなった自覚もある。 だというのに、ここでフレンティア国王は、楽しそうに笑うのだ。
「ふふ、流石としか言い様がないね、【エルディースの女帝】は。 君が王妃では、私は苦労しそうだ。 身近にエルディースの密偵スパイがいるようなものだものね」

 アンネローゼのことを、【エルディースの密偵】と言い、苦労しそうだと口にしながらも、楽しそうに笑うその神経も正直、アンネローゼには理解できない。
 こんな夫と、上手くやっていく自信は、残念ながら直情型を自負するアンネローゼには、ない。
 だから、飛び切りの笑顔を意識して、告げる。

「では、わたくしとの結婚、破談にしてもよろしくてよ?」
「とんでもない。 君みたいな面白い女性ひとが私の妃なら、毎日退屈はしないで済みそうだ」
 にっこりと胡散臭く笑ったフレンティア国王が、そんなことを言った。

 ああ、この男、【賢王】でも【叡王】でも、ましてや【黒王】でもない。
 いや、その全てでもあるのだろうか。
 一言で言い表すのならば、【食えない奴】、そう、思った。
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