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じゅういちまいめ *
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肌を辿る唇はもちろんだが、服の上から撫でる手にも肌がざわざわする。
薄いネグリジェごしだから、仕方のないことなのかもしれないが。
気持ちいいのか、くすぐったいのか、その辺は自分でもまだ、判別がつかない。
ただ、ざわざわして落ち着かない気持ちになることだけは確かだ。
大好きな人が、アイシェリアに触れてくれている。 それは、とても幸せなこと。
けれど、同時に恥ずかしくもあって、体温が上がるのは自分でも止められない。
呼吸が浅くなるのも、アイシェリアの意思ではない。
心臓の音が、うるさい。 熱い。
内側から爆発しそうだ、とアイシェリアが涙目になっていると、フレイディアの声が耳元で揺れる。
「脱がせても?」
考えるより先に、こくん、と頷いたのは、きっと熱さに耐えかねたからだ。
でなければ、大好きな人に裸体を晒すのを、躊躇わずにいられるはずがなかった。
「もう一度、キスをあげよう」
フレイディアは、少し身を屈めてアイシェリアの唇に角度を変えながら口づけてくれる。
触れては離れ、離れては触れるキスは、初心者のアイシェリアでも呼吸のタイミングが計りやすい。
そうして、アイシェリアがキスと呼吸とにだけ意識を持って行っているうちに、だろう。
「!」
フレイディアはアイシェリアの胸元のリボンを全て解き終えたらしく、肩から滑らかなシルクのネグリジェが滑り落ちていくのがわかってハッとする。
慌てて胸元を隠そうとしたが、胸元に持っていこうとした手はすでにフレイディアの手に捉えられていた。
フレイディアの視線が、アイシェリアの身体に注がれるのがわかる。
見ないで、とは言えなかった。
それを言ったら、きっとフレイディアは見ないでいてくれるが、それで終わってしまう。
だから、アイシェリアはその言葉が口から飛び出さないようにと唇を噛むのだ。
長い長い、沈黙に感じた。
その沈黙を破ったのは、フレイディアの唇から漏れた吐息。
どうしてだろう。
アイシェリアはそれを感嘆の溜息のように受け取って、そろそろと目を開く。
目の前のフレイディアの視線は、相変わらずアイシェリアの身体に注がれたままだが、その表情は惚けているようでもあった。
「…うっすら淡い色に染まって、林檎の花のようだ」
フレイディアの唇から、吐息と共に悩ましげな声が漏れた。
アイシェリアは素肌の肩口にフレイディアのキスを受けながら、信じがたい思いでその言葉を聞いた。
アイシェリアの胸の内は、震える。
声が震えないように、と願いながら、アイシェリアは問いかけていた。
「…本当に?」
「本当だよ」
フレイディアの吐息で、また、肌がざわめく。
けれど、それ以上に、胸の震えが広がっていって、泣きそうだ、と思った。
「…林檎の花、なんて、初めて言われました」
いつでも、誰にとっても、アイシェリアは【白百合の女王】なのだと思っていた。
けれど、もしかしたら、違ったのだろうか。
林檎の花のようだ、なんて言われたら、期待してしまう。
フレイディアの、長年の想い人である、林檎の花に似たひと――【林檎の花の乙女】が、アイシェリアなのではないか、と。
そうだったらいい。
そうだったらいいから、その問いは口にしないことにする。
「嫌?」
「いいえ、可愛らしくて、好きな花です」
尋ねる声に、そう応じたのは、本心。
マドンナ・リリーなどではなく、アイシェリアは大好きな唯一のひとに好かれる花でありたかった。
「ならば、よかった」
微笑んだフレイディアだったが、アイシェリアの肌を視線で撫でるように――あるいは嬲るように――見るだけで、一向にアイシェリアには触れてこない。
どきどきしすぎて、胸の先が尖ってしまっているし、緊張しすぎて痛いような気もする。
「…いつまで、見ているのです?」
声が少し刺々しくなったのは、羞恥からだった。
自分のあまりの可愛げのなさに少し落ち込むけれど、フレイディアが気にしていないようなのが救いだ。
少し考えるような素振りをしたフレイディアは、どこまでも真面目な顔をしている。
「…勿体ないような気がする。 それから…、触れるのが、少し、怖いな」
どうやら、見ているばかりで触れない理由を真面目に考えていたらしい。
状況も忘れて、アイシェリアは笑ってしまった。
ああ、やっぱりあの頃のフレイディアのままだ、と思ったからだ。
くすくすと笑っていると、笑っている唇を軽く吸われた。
思わず目を丸くするが、どうやらフレイディアはアイシェリアの注意を引きたかったらしい。
「触れるよ?」
問いかけである以上、答えなければならないことを、アイシェリアは知っている。
だから、頷いた。
薄いネグリジェごしだから、仕方のないことなのかもしれないが。
気持ちいいのか、くすぐったいのか、その辺は自分でもまだ、判別がつかない。
ただ、ざわざわして落ち着かない気持ちになることだけは確かだ。
大好きな人が、アイシェリアに触れてくれている。 それは、とても幸せなこと。
けれど、同時に恥ずかしくもあって、体温が上がるのは自分でも止められない。
呼吸が浅くなるのも、アイシェリアの意思ではない。
心臓の音が、うるさい。 熱い。
内側から爆発しそうだ、とアイシェリアが涙目になっていると、フレイディアの声が耳元で揺れる。
「脱がせても?」
考えるより先に、こくん、と頷いたのは、きっと熱さに耐えかねたからだ。
でなければ、大好きな人に裸体を晒すのを、躊躇わずにいられるはずがなかった。
「もう一度、キスをあげよう」
フレイディアは、少し身を屈めてアイシェリアの唇に角度を変えながら口づけてくれる。
触れては離れ、離れては触れるキスは、初心者のアイシェリアでも呼吸のタイミングが計りやすい。
そうして、アイシェリアがキスと呼吸とにだけ意識を持って行っているうちに、だろう。
「!」
フレイディアはアイシェリアの胸元のリボンを全て解き終えたらしく、肩から滑らかなシルクのネグリジェが滑り落ちていくのがわかってハッとする。
慌てて胸元を隠そうとしたが、胸元に持っていこうとした手はすでにフレイディアの手に捉えられていた。
フレイディアの視線が、アイシェリアの身体に注がれるのがわかる。
見ないで、とは言えなかった。
それを言ったら、きっとフレイディアは見ないでいてくれるが、それで終わってしまう。
だから、アイシェリアはその言葉が口から飛び出さないようにと唇を噛むのだ。
長い長い、沈黙に感じた。
その沈黙を破ったのは、フレイディアの唇から漏れた吐息。
どうしてだろう。
アイシェリアはそれを感嘆の溜息のように受け取って、そろそろと目を開く。
目の前のフレイディアの視線は、相変わらずアイシェリアの身体に注がれたままだが、その表情は惚けているようでもあった。
「…うっすら淡い色に染まって、林檎の花のようだ」
フレイディアの唇から、吐息と共に悩ましげな声が漏れた。
アイシェリアは素肌の肩口にフレイディアのキスを受けながら、信じがたい思いでその言葉を聞いた。
アイシェリアの胸の内は、震える。
声が震えないように、と願いながら、アイシェリアは問いかけていた。
「…本当に?」
「本当だよ」
フレイディアの吐息で、また、肌がざわめく。
けれど、それ以上に、胸の震えが広がっていって、泣きそうだ、と思った。
「…林檎の花、なんて、初めて言われました」
いつでも、誰にとっても、アイシェリアは【白百合の女王】なのだと思っていた。
けれど、もしかしたら、違ったのだろうか。
林檎の花のようだ、なんて言われたら、期待してしまう。
フレイディアの、長年の想い人である、林檎の花に似たひと――【林檎の花の乙女】が、アイシェリアなのではないか、と。
そうだったらいい。
そうだったらいいから、その問いは口にしないことにする。
「嫌?」
「いいえ、可愛らしくて、好きな花です」
尋ねる声に、そう応じたのは、本心。
マドンナ・リリーなどではなく、アイシェリアは大好きな唯一のひとに好かれる花でありたかった。
「ならば、よかった」
微笑んだフレイディアだったが、アイシェリアの肌を視線で撫でるように――あるいは嬲るように――見るだけで、一向にアイシェリアには触れてこない。
どきどきしすぎて、胸の先が尖ってしまっているし、緊張しすぎて痛いような気もする。
「…いつまで、見ているのです?」
声が少し刺々しくなったのは、羞恥からだった。
自分のあまりの可愛げのなさに少し落ち込むけれど、フレイディアが気にしていないようなのが救いだ。
少し考えるような素振りをしたフレイディアは、どこまでも真面目な顔をしている。
「…勿体ないような気がする。 それから…、触れるのが、少し、怖いな」
どうやら、見ているばかりで触れない理由を真面目に考えていたらしい。
状況も忘れて、アイシェリアは笑ってしまった。
ああ、やっぱりあの頃のフレイディアのままだ、と思ったからだ。
くすくすと笑っていると、笑っている唇を軽く吸われた。
思わず目を丸くするが、どうやらフレイディアはアイシェリアの注意を引きたかったらしい。
「触れるよ?」
問いかけである以上、答えなければならないことを、アイシェリアは知っている。
だから、頷いた。
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