【R18】白百合の女王

環名

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はちまいめ

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 髪を、優しく梳かれるような感じがする。
 瞼に、優しく降る感触。

 アイシェリアがふっと目を開けば、そこには王子様がいた。
 朝陽に透ける、飴色の髪。 南国の海の碧を思い起こさせる、エメラルドグリーンの瞳。
 微笑んで、アイシェリアの顔を覗き込んでくる王子様の名前を、アイシェリアは知っている。

「おはようございます、フレイディア」
 アイシェリアは、そのひとの名を、呼んだ。

 フレイディア・ハルヴェール。
 アイシェリアの、夫となった男性ひと

 フレイディアは、近衛騎士の制服を身につけてベッドに腰かけ、優しい眼差しをアイシェリアに注いでくれている。
 寝顔を見られていたなんて、恥ずかしい。
 おかしな顔をしていなかっただろうか。
 そんなことを考えて、アイシェリアはもう今更だが、布団で顔を隠そうとした。
 だが、アイシェリアの行動を見越していたかのように、フレイディアはアイシェリアの頬を撫でる。

「おはよう。 …仕事に行ってくるけれど…、今日は、できるだけ早く帰る、から」
 朝、目覚めて、フレイディアが傍にいてくれるのなど、初めてのことだった。
 それが、嬉しい。
 それから、陽の光を浴びたフレイディアは、いつもよりきらきらしていて素敵に見える。

 フレイディアがここにいてくれているということは、昨夜のことは、アイシェリアの夢や願望ではなかったのだろう。
 アイシェリアはフレイディアを好きで、フレイディアもアイシェリアを憎からず思ってくれている。
 それを思えば、ほわ、と胸が温かくなって、自然と笑みが浮かんだ。
「はい、お待ちしています。 御夕飯を一緒に食べましょうね」

 今日から本当の夫婦生活が始まるのだ。
 そんなふうに浮かれるアイシェリアに水を差したのもまた、アイシェリアの夫であるフレイディアだった。

「残念だけれど、夕飯を一緒に食べるつもりはないんだ」
 割と、白黒はっきりとした性格をしている自覚はあるけれど、自分はそれほど短気ではなかったはずなのだ。 
 けれど、昨日からフレイディアの言動にはイラっとしたり、カチンときたりが続いている。
 そして、今日もフレイディアの言葉はアイシェリアを苛立たせた。

 では、どういうつもりなのでしょう?
 問いが、口をついて出そうになったのだが、口が開くことはなかった。
 フレイディアの表情に、アイシェリアの意識が持っていかれていたからだ。
 少し、頬に赤みが差して見えるのは、気のせいか。
 思い詰めているように見えるのは?

 アイシェリアがじっとフレイディアを見つめていると、フレイディアの唇がゆっくりと動いた。
「このベッドで、待っていてほしい。 …心の準備ができないようだったら、客室にでも逃げていて。 そうしたら、今夜はあきらめるから」

 アイシェリアは、じっとフレイディアの言葉に耳を傾けていたが、言われている内容を理解して、じわじわと頬が熱を持つ。
 頬だけではない、全身が。
 フレイディアも、言葉に出して言うのは気まずかったのかもしれない。
 口を引き結んだかと思うと、アイシェリアの頬にそっと唇を寄せて、踵を返す。

「フレイディア」
 そのまま、足早に去っていこうとするフレイディアの背中に、アイシェリアはサッと身を起こしながら声をかけていた。
 足を止めたフレイディアが、振り返る。
 アイシェリアは、精一杯の微笑みを向ける。

「いってらっしゃいませ、お待ちしています」
「…行ってくる」
 微笑んで、軽く頷いてくれたフレイディアはやっぱり素敵だった。


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