ディルムッド悲恋譚

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11.死の淵で思う

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「ディルムッド…、もう少しだ。 頑張れ」


 震える、オスカの声が聞こえた気がして、笑った。
 もう、自分がもたないだろうことは、自分が一番よくわかっている。


 どうしてこんなことになったのか、とぼんやりと考え、思い出した。
 あの魔女が、何の気まぐれか、フィアナ騎士団の皆を館に招いて狩猟宴を催したのだ。


 夜に猟犬のただならぬ吠え声を聞き、翌朝狩りに向かうことにした。
 魔女には引き留められ、赤槍ゲイ・ジャルグ大怒モラルタを持って行くよう言われたが、自分は聞く耳を持たずに、黄槍ゲイ・ボー小怒ベガルタを手に狩猟へと出かけたのだ。


 そこで、耳と尾のない猪に似た、魔獣と出くわした。


 …あれは、やはり、弟だったのだろうか。
 そんな考えが、頭の隅をよぎる。


 自分には、母と執事の間にできた不義の弟がいたが、彼は死後、魔法で魔猪として甦ったということだった。
 だからこそ、自分は「猪狩りはしない」という禁忌ゲッシュを自らに課したのだ。


 けれど、自分は目の前に現れた魔獣に、槍と剣を向けた。
 敬愛するフィン・マックールと、彼の孫であり、自分にとっては親友であるオスカがいたのだ。
 戦わないわけにはいかない。


 自分が投げた黄槍ゲイ・ボーは、魔獣の剛毛に弾かれ、小怒モラルタで一撃をくらわすも、刀身が砕け散ることになった。
 自分は魔獣の牙で致命傷を負わされたが、小怒モラルタの柄を魔獣の頭蓋骨に打ち込んで、何とか奴を倒すことができた。


 片親とはいえ、血を分けた弟を、この手で殺めた報いがこれなのか。
 それとも、自らに課した禁忌ゲッシュを破った代償がこれなのか、わからない。


 だが、自分の大切なひとたちを、守ることはできたのだ。


 自分は、何も後悔していない。
 むしろ、大切なひとたちのために終えられる人生とは、騎士冥利に尽きるだろう。


 だから、オスカ。
 自分のために泣かなくていい。
 そう、心から思う。


 彼は、自分のために、祖父であるフィン・マックールに、「ディルムッド・オディナを癒しの水で救っていただきたい。 もし、聞き入れられないのであれば、おじい様、僕は貴方との決闘も辞さない」と強い口調で訴えていたのだ。
 そのことは、有難いと思う、けれど。


 もし、自分が、ひとつ、君に願うとしたら。
 どうか、彼の方を恨まないでほしい。
 そのことだけだ。

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