ディルムッド悲恋譚

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10.幕間

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 予想し、覚悟した通り、自分は「上司の婚約者に懸想し、その婚約者を奪って逃げた男」となった。


 それは、自分にとっての真実ではない。
 だが、自分が望んだことではある。


 この魔女を遠ざけることで、自分の大切なものたちを守れるのだとしたら、それに勝ることはないと判断した。
 例え、自分が、自分の大切なものたちの傍にいられなくなっても。
 遠い地で、変わらず、健やかに過ごしてくれれば、それ以上のものはない。
 そう、思っていた。


 だが、自分が守りたかったものたちは、自分たちへの追手となった。


 自分の行いが招いた結果を、まざまざと眼前に突きつけられ、揺らぎもした。
 まさか、仲間と剣を交えることとなろうとは。


 唯一の救いは、彼らに自分と本気で対立する気がなかった――…命のやり取りをする気がなかったことだ。
 交わした視線から、交えた剣から、すぐさまそのことは感じ取れた。
 上司の命で差し向けられた追手として、必要最低限それらしく見えるように振舞おうとしているようだった。



 言葉を交わさなくてもわかる。
 彼らの目は、「ディルムッド、逃げろ。 地の果てまで逃げろ。 そして、生きろ」と言ってくれていた。



 そうして、長い逃亡生活を経て、自分は養父である妖精王オェングスのはからいもあり、敬愛するフィン・マックールの許しを得、和解することができた。
 恐らく皆、そのように理解していただろう。
 自分以外は。



 自分が敬愛する、フィアナ騎士団の英雄フィン・マックールは、公平で物惜しみもせず、ひとを笑って許せるような方だ。
 それに、間違いはない。



 けれど自分は、彼の方に月の影のような一面があることも理解していた。



 皆の手前、表面上は自分を許した彼の方だが、ふとした視線に感じるのだ。
 許せるはずがない。
 憎い。
 彼の方の視線は、そう語っている。



 だから、というわけではない。
 だからというわけではないが、恐らく自分は、魔女の脅迫に屈したあの日から、ずっと罪悪感に苛まれて生きてきたのだ。


 やむを得ない、そのときは最善と思った選択だが、そこに葛藤がなかったわけではない。
 いつしか自分は、自分でも意識しない奥底の部分で罰を望むようになっていたのだと思う。



 そして、あの日は来たのだ。

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