ディルムッド悲恋譚

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2.嵐の前

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 酔いつぶれた仲間を部屋へと運び終え、再び婚約の宴へと戻るべく足を踏み出したディルムッド・オディナは苦笑した。

 上司の祝いの席で、陽気になるのはいいが、酔いつぶれるとは少々たるんでいる。
 だが、彼らはあの程度の酒量でつぶれるほど酒に弱かっただろうか。


 ふと芽吹いた疑問は、ディルムッドの胸の内に焦燥を呼び込んだ。


 そういえば、彼らは螺子の切れた人形のように、突然眠りに落ちはしなかっただろうか。
 よくよく考えてみれば、ぽつり、ぽつりと間隔をあけて、暇を申し出たり、席を立ったりする客人も多かった気がする。


 まるで、何かにいざなわれるか、魔法にでもかけられたように…。


 ドッと心臓が、大きく跳ねて、駆け出した。
 だというのに、周囲は驚くほどに静かだ。


 フィアナ騎士団の英雄と、エリンの上王コーマックの娘の、婚約の宴が、今まさに催されるとは思えないほど。


 それは、まるで、嵐の前の静けさにも似て。
 先に戻ったアシーンは大丈夫だろうか。
 いや、それよりも、まだあの場に残っているひとびとは無事だろうか。


 妙な胸騒ぎに襲われて、ディルムッドは足を速めた。
 辿り着いた一室で信じられないものを見聞きすることになるとは、夢にも思わずに。

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