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事の顛末
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「シィーファ姉さま、これあげる」
朝食の席で、シィーファの隣に陣取った異父弟は、シィーファに果物の乗ったお皿を差し出した。
今日のデザートは果物の盛り合わせだ。
ユリウスは、シィーファの好物が果物だと知っているので、シィーファに喜んでもらいたいのだろう。
シィーファは微笑んで、ユリウスが差し出したお皿を受け取った。
「あら、ありがとう。 じゃあ、シィーファ姉様のをユーリにあげる」
「ありがとう」
シィーファのデザート皿を差し出されて、ユリウスは嬉しそうに受け取った。
同じものが載ったお皿を交換ってどういうことだ、と常のラディスラウスなら思考が動くのだが、シィーファがそれをしていると思うと、可愛いとしか思えない。
母や使用人たちが、生温い目でシィーファとユリウスのやり取りを見守っている。
幼いときの自分も、周囲からこんな風に見られていたのだろうか、と考えると居たたまれないので、思考の隅に追いやる。
そんな微妙な空気感の中で、ユリウスは前触れもなく衝撃の問いをシィーファに投げた。
「ねぇ、ぼくがおべんきょうがんばったら、シィーファ姉さまはぼくのになる?」
一瞬、室内が静寂に包まれたが、それを破ったのはラディスラウスとユリウスの母――エルモニカだった。
げほっと盛大にむせたのだ。
「…??? え、何??? 何を言っているのかしら、ユーリ???」
何度か大きく咳き込んだ後で、ナプキンで口元を押さえた母がユリウスに尋ねるも、ユリウスは一切合切無視だ。
ジッとシィーファの答えを待っている。
シィーファは少しの間の後で、口を開いた。
「シィーファ姉様はラディス兄様が大好きだから、ユーリのにはならないけど、ユーリがお勉強を頑張ったら褒めてあげる」
シィーファの返答が、ユリウスの望むものでなかったことくらい、ラディスラウスにもわかる。
「…ぼくのにならない…」
視線を落として小さくユリウスは呟いた。
見る見るうちにしょぼくれていく様は、風船が萎んでいく様に似ていて不憫に思わないこともない。
だが、叶わないこともあるのだと学ぶいい機会だ。
そのように考えるあたり、やはりラディスラウスはシィーファが絡むと心が狭くなるのだろう。
シィーファはしょぼくれたユリウスに何か声をかけねばと思ったようだ。
「ユーリのにならないシィーファ姉様は嫌い?」
視線を落としたユリウスの顔を覗き込みながら、そんな風に訊いた。
ユリウスはしばらく悩んだようだが、シィーファを窺うように視線を上げる。
「…ぼくのにならなくても好き」
ユリウスの返答に、シィーファは微笑んだ。
「よかった。 ユーリとお話できなくなったり、一緒に遊べなくなったりしたら寂しいもの」
どうしてシィーファはこんなに優しいんだろう。
ラディスラウスはそのようにシィーファの発言を受け取り、シィーファを見つめていたのだが、ユリウスは違ったらしい。
「シィーファ姉さま、さびしいなら、いっしょにねる?」
驚くような発言をした。
五歳児の思考は全く謎だ。
それだけで終わらせられればよかったのだが、口をついてラディスラウスの心の声が零れていた。
「シィーファ姉様は私と寝るからユーリとは寝ないよ」
使用人たちは生温い視線をラディスラウスに向けたし、母は呆れて物が言えないという顔をした。
「…お兄さま、さびしいの? …かわいそう」
異父弟には思い切り憐れまれたが、それでもいい。
シィーファが、ラディスラウスに微笑んでくれている、それだけで。
朝食の席で、シィーファの隣に陣取った異父弟は、シィーファに果物の乗ったお皿を差し出した。
今日のデザートは果物の盛り合わせだ。
ユリウスは、シィーファの好物が果物だと知っているので、シィーファに喜んでもらいたいのだろう。
シィーファは微笑んで、ユリウスが差し出したお皿を受け取った。
「あら、ありがとう。 じゃあ、シィーファ姉様のをユーリにあげる」
「ありがとう」
シィーファのデザート皿を差し出されて、ユリウスは嬉しそうに受け取った。
同じものが載ったお皿を交換ってどういうことだ、と常のラディスラウスなら思考が動くのだが、シィーファがそれをしていると思うと、可愛いとしか思えない。
母や使用人たちが、生温い目でシィーファとユリウスのやり取りを見守っている。
幼いときの自分も、周囲からこんな風に見られていたのだろうか、と考えると居たたまれないので、思考の隅に追いやる。
そんな微妙な空気感の中で、ユリウスは前触れもなく衝撃の問いをシィーファに投げた。
「ねぇ、ぼくがおべんきょうがんばったら、シィーファ姉さまはぼくのになる?」
一瞬、室内が静寂に包まれたが、それを破ったのはラディスラウスとユリウスの母――エルモニカだった。
げほっと盛大にむせたのだ。
「…??? え、何??? 何を言っているのかしら、ユーリ???」
何度か大きく咳き込んだ後で、ナプキンで口元を押さえた母がユリウスに尋ねるも、ユリウスは一切合切無視だ。
ジッとシィーファの答えを待っている。
シィーファは少しの間の後で、口を開いた。
「シィーファ姉様はラディス兄様が大好きだから、ユーリのにはならないけど、ユーリがお勉強を頑張ったら褒めてあげる」
シィーファの返答が、ユリウスの望むものでなかったことくらい、ラディスラウスにもわかる。
「…ぼくのにならない…」
視線を落として小さくユリウスは呟いた。
見る見るうちにしょぼくれていく様は、風船が萎んでいく様に似ていて不憫に思わないこともない。
だが、叶わないこともあるのだと学ぶいい機会だ。
そのように考えるあたり、やはりラディスラウスはシィーファが絡むと心が狭くなるのだろう。
シィーファはしょぼくれたユリウスに何か声をかけねばと思ったようだ。
「ユーリのにならないシィーファ姉様は嫌い?」
視線を落としたユリウスの顔を覗き込みながら、そんな風に訊いた。
ユリウスはしばらく悩んだようだが、シィーファを窺うように視線を上げる。
「…ぼくのにならなくても好き」
ユリウスの返答に、シィーファは微笑んだ。
「よかった。 ユーリとお話できなくなったり、一緒に遊べなくなったりしたら寂しいもの」
どうしてシィーファはこんなに優しいんだろう。
ラディスラウスはそのようにシィーファの発言を受け取り、シィーファを見つめていたのだが、ユリウスは違ったらしい。
「シィーファ姉さま、さびしいなら、いっしょにねる?」
驚くような発言をした。
五歳児の思考は全く謎だ。
それだけで終わらせられればよかったのだが、口をついてラディスラウスの心の声が零れていた。
「シィーファ姉様は私と寝るからユーリとは寝ないよ」
使用人たちは生温い視線をラディスラウスに向けたし、母は呆れて物が言えないという顔をした。
「…お兄さま、さびしいの? …かわいそう」
異父弟には思い切り憐れまれたが、それでもいい。
シィーファが、ラディスラウスに微笑んでくれている、それだけで。
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