【R18】石に花咲く

環名

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我が、最愛

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 ラディスラウスは、ベッドの縁に腰かけて、昼間の出来事を反芻していた。
 きっと、ラディスラウスの説明の仕方がいけなかったのだろう。
 でなければ、ユリウスは「シーファ姉さまがお兄さまのじゃないなら、僕のになるんじゃないか?」という思考に至らないはずだ。
 全く、頭が痛い。


 ラディスラウスはそっと目を伏せる。
 うすうす気づいていたが、うちの家系の男たちは女性の好みが似通っているらしい。
 思い出したくもないが、叔父がシィーファを選んだのだって、容姿が気に入ったからだろうし、祖父だってシィーファがお気に入りだ。
 加えて、異父弟までとなれば、納得もするが目眩もしてくる。
 

 ラディスラウスは今まで、自分が寛大だと思っていたが、殊シィーファに関しては多少狭量になることを認めざるを得ない。
 ラディスラウスには異母弟妹もたくさんいたし、彼ら彼女らと親しく接していた。


 自分は、いい兄だと思っていた。
 それと同じように、例えば父親になるのであれば、いい父親になるだろうし、父親向きだと思っていたが、これではいい父親には程遠い。
 父親になる予定がなくてよかった、と心から思う。
 でないと、子ども――特に息子とシィーファを取り合うことになりそうだ。
 知らず、右のこめかみの辺りに右手が行ってしまう。


「頭痛がするの?」
 耳に触れた、愛しいひとの柔らかい声に、ラディスラウスはぱっと目を開いた。
「え?」
 お風呂上がりのシィーファが、心配そうな表情でラディスラウスの顔を見下ろしている。


「頭痛がするの? 大丈夫?」
 シィーファはラディスラウスに手を伸べて、ラディスラウスの頭を優しく撫でてくれる。
 シィーファにそんな風に撫でてもらうのが、くすぐったくて嬉しい、なんて、本当に子どもだな、と思いながら、ラディスラウスは微笑む。
「もう治った」
「本当?」


 嘘ではないことを見極めようとでもするかのように、シィーファはその蜂蜜みたいな色の瞳で、ジッとラディスラウスの瞳を見つめるのだ。
 だから、ラディスラウスは、「大丈夫だよ」の気持ちを込めてシィーファに伝える。
「シィーファの顔を見たら治った。 シィーファ、大好きだよ」
 ラディスラウスの言葉にシィーファは軽く目を見張って、けれどすぐに恥ずかしそうに、嬉しそうに微笑んでくれた。
「…わたしだって、ラディスが大好き」


 今度は、ラディスラウスが照れくさくも嬉しくて、誇らしい気分になる番だった。
 だが同時に、別のことも思い出してしまって、それがぽろりと口をついて出てしまう。
「ユーリにも大好きって言っている?」
 シィーファは怪訝そうな顔をしたが、怪訝そうな顔をしただけで、あっさりと答えをくれる。
「可愛いとは言ってる。 あの子、貴方の小さいときそっくりだもの」
「ユーリは私が貴女に会ったときより小さいよ」


 やはりラディスラウスがシィーファと出逢った当初、ラディスラウスはシィーファに可愛いと思われていたらしい。
 理解していたつもりだったが、面と向かって言われると複雑だ。
 だが、シィーファはラディスラウスの胸の内など知らずに続ける。
「だから、ラディスも昔はこんな感じだったのかなぁって想像できて、嬉しい」


 確かに、ユリウスはラディスラウスの幼い頃によく似ている。
 けれど、ユリウスがラディスラウスに似ているから、幼い頃のラディスラウスを想像できるのが、嬉しい、なんて。
 なんということだろう。



「あぁあ…」
 ラディスラウスは両手で顔を覆って項垂れる。


「え? どうしたの? ラディス」
 頭上で、シィーファの戸惑ったような声が聞こえる。


 どうもしない。 どうもしないが、シィーファが愛しすぎて、どうにかなりそうだ。
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