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石に咲いた花は
しあわせのかたち①
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正直、婚姻を申し込んだ時以来、子どもについて、シィーファと話したことはない。
シィーファの一族の女性が、【石女】と言って、子どもを望めない、ということは、祖父から聞いて知っていたし、シィーファもラディスが知っているものと理解している風だったから。
シィーファは気にしているようだったけれど、ラディスは、別に、子どもを欲しいと思ったことはない。
幼い弟妹はたくさんいたし、一通りの子育ても触れ合いもしたような気分になっていたので、改めて欲する意味は、公爵家のため、以外に思い浮かばなかったのかもしれない。
いつだったかシィーファは、一族の女が【石女】であることについて【遺伝的要因】だと言っていたが、実はラディスは祖父に、【不妊治療】なるものをシィーファにと勧められたこともある。
けれど、ラディスは、それを丁重に断ったし、シィーファにも伝えなかった。
例えば、シィーファは、子を産める身体になったとしても、子を望まないのではないか、と考えたからだ。
それには、根拠がないわけではない。
幼い、無知なラディスは、シィーファに子どもだからこその、無邪気で残酷な質問をしたことがある。
それもこれも、シィーファのことを、叔父の婚約者、だと思い込んでいたからなのだけれど。
あのときのラディスは、シィーファに、「ジェイドは赤ちゃん、男の子と女の子、どっちがいいの?」と訊いたのだ。
今となっては、よくも訊いたものだと後悔しているのだが、同時に、よく訊いてくれたと褒めたくもなるのだから、不思議なものだ。
ラディスの、無邪気で残酷な質問に、シィーファはきちんと、答えを返してくれたのだから。
彼女は、「赤ちゃんはうちに来ない方がいいと思う」と言ったのだ。
今だから、わかる。
彼女はきっと、例えば奇跡的に、子を産める身体になったとしても、子を望まない。
彼女が恐れているのはきっと、「子を産めないこと」よりも、「産まれてきた子が苦しむこと」なのだ。
ラディスの想像だけれど、子を産めない一族が、それでも絶えないのは、何らかの方法で血が引き継がれていくからだ。
女性が子を産めないのだとすれば、男性がどこかの女性に子を産ませることで、子を産めない遺伝子が女児に引き継がれることになる。
恐らく、男にはなく、女にのみある臓器の遺伝子が、男を通じて女にのみ受け継がれるのだ。
その仕組みを理解しているシィーファが、イチかバチかの可能性にかけるような真似はしないだろう。
彼女は、優しい女性だから。
自分と同じような思いをする誰かを増やしたいとは思わないはずだ。
かといって、彼女はきっと、彼女がそういった遺伝的要素を持っていなければ、子どもを持ちたいと思う部類の人間なのだろうということも察せる。
ラディスも、彼女が大好きだから。
彼女が苦しんだり悲しんだりする姿は見たくないし、彼女を苦しませたり、悲しませたりはしたくない。
母上の懐妊の話は、しばらくシィーファには内緒にしておこう。
そう思っていたというのに…。
「お義母様、赤ちゃんできたんですって」
お風呂上りに、ベッドの中でシィーファの長い髪をタオルで乾かしていると、シィーファが笑顔で言ってきた。
「そう、シィーファも聞いたんだ」
ラディスは、じっとシィーファのことを観察した。
シィーファは笑顔だし、無理をしている様子もない。
「貴方に、弟か妹ができるのね」
「うーん。 兄弟姉妹はたくさんいるから…。 でも、母上とウーアの子どもっていうのは嬉しいね」
弟か妹ができるのが嬉しいかと言われれば微妙だが、生まれたら生まれたで可愛いし、可愛がれると思う。
けれど、今日の様子だと、ウーアは母と籍を入れるつもりはなさそうだし、母も恐らく、ウーアと籍を入れるつもりはない。
爵位の行方をややこしくしないために。
にこにことしているシィーファが可愛らしくて、綺麗で、ラディスの唇は、花に誘われる蝶のように、シィーファの唇に吸い寄せられていた。
「ん…」
シィーファ鼻の奥から、甘い音が漏れて、股間に来る。
シィーファの唇を吸いながら、股間が張り詰めるのを感じて、ラディスは苦笑した。
本当に、自分はシィーファが相手だと、容易い。
ラディスは、シィーファの口の中に舌を差し込み、シィーファの舌に舌を絡める。
シィーファも、何となく見当はついているはずだ。
軽い、落ち着けるような、啄むようなキスで終えるときは、それ以上何もしない日だということを。
逆に、ラディスの仕掛けた深いキスにシィーファが応じてくれる日は、「してもいい」日。
応じない日は、「遠慮したい」日。
それを理解して、ラディスはシィーファに、確認するのだ。
こつん、と額を合わせて、問う。
「…していい?」
そうすると、シィーファはラディスに甘えるようにすり寄ってくれる。
「する…」
シィーファの一族の女性が、【石女】と言って、子どもを望めない、ということは、祖父から聞いて知っていたし、シィーファもラディスが知っているものと理解している風だったから。
シィーファは気にしているようだったけれど、ラディスは、別に、子どもを欲しいと思ったことはない。
幼い弟妹はたくさんいたし、一通りの子育ても触れ合いもしたような気分になっていたので、改めて欲する意味は、公爵家のため、以外に思い浮かばなかったのかもしれない。
いつだったかシィーファは、一族の女が【石女】であることについて【遺伝的要因】だと言っていたが、実はラディスは祖父に、【不妊治療】なるものをシィーファにと勧められたこともある。
けれど、ラディスは、それを丁重に断ったし、シィーファにも伝えなかった。
例えば、シィーファは、子を産める身体になったとしても、子を望まないのではないか、と考えたからだ。
それには、根拠がないわけではない。
幼い、無知なラディスは、シィーファに子どもだからこその、無邪気で残酷な質問をしたことがある。
それもこれも、シィーファのことを、叔父の婚約者、だと思い込んでいたからなのだけれど。
あのときのラディスは、シィーファに、「ジェイドは赤ちゃん、男の子と女の子、どっちがいいの?」と訊いたのだ。
今となっては、よくも訊いたものだと後悔しているのだが、同時に、よく訊いてくれたと褒めたくもなるのだから、不思議なものだ。
ラディスの、無邪気で残酷な質問に、シィーファはきちんと、答えを返してくれたのだから。
彼女は、「赤ちゃんはうちに来ない方がいいと思う」と言ったのだ。
今だから、わかる。
彼女はきっと、例えば奇跡的に、子を産める身体になったとしても、子を望まない。
彼女が恐れているのはきっと、「子を産めないこと」よりも、「産まれてきた子が苦しむこと」なのだ。
ラディスの想像だけれど、子を産めない一族が、それでも絶えないのは、何らかの方法で血が引き継がれていくからだ。
女性が子を産めないのだとすれば、男性がどこかの女性に子を産ませることで、子を産めない遺伝子が女児に引き継がれることになる。
恐らく、男にはなく、女にのみある臓器の遺伝子が、男を通じて女にのみ受け継がれるのだ。
その仕組みを理解しているシィーファが、イチかバチかの可能性にかけるような真似はしないだろう。
彼女は、優しい女性だから。
自分と同じような思いをする誰かを増やしたいとは思わないはずだ。
かといって、彼女はきっと、彼女がそういった遺伝的要素を持っていなければ、子どもを持ちたいと思う部類の人間なのだろうということも察せる。
ラディスも、彼女が大好きだから。
彼女が苦しんだり悲しんだりする姿は見たくないし、彼女を苦しませたり、悲しませたりはしたくない。
母上の懐妊の話は、しばらくシィーファには内緒にしておこう。
そう思っていたというのに…。
「お義母様、赤ちゃんできたんですって」
お風呂上りに、ベッドの中でシィーファの長い髪をタオルで乾かしていると、シィーファが笑顔で言ってきた。
「そう、シィーファも聞いたんだ」
ラディスは、じっとシィーファのことを観察した。
シィーファは笑顔だし、無理をしている様子もない。
「貴方に、弟か妹ができるのね」
「うーん。 兄弟姉妹はたくさんいるから…。 でも、母上とウーアの子どもっていうのは嬉しいね」
弟か妹ができるのが嬉しいかと言われれば微妙だが、生まれたら生まれたで可愛いし、可愛がれると思う。
けれど、今日の様子だと、ウーアは母と籍を入れるつもりはなさそうだし、母も恐らく、ウーアと籍を入れるつもりはない。
爵位の行方をややこしくしないために。
にこにことしているシィーファが可愛らしくて、綺麗で、ラディスの唇は、花に誘われる蝶のように、シィーファの唇に吸い寄せられていた。
「ん…」
シィーファ鼻の奥から、甘い音が漏れて、股間に来る。
シィーファの唇を吸いながら、股間が張り詰めるのを感じて、ラディスは苦笑した。
本当に、自分はシィーファが相手だと、容易い。
ラディスは、シィーファの口の中に舌を差し込み、シィーファの舌に舌を絡める。
シィーファも、何となく見当はついているはずだ。
軽い、落ち着けるような、啄むようなキスで終えるときは、それ以上何もしない日だということを。
逆に、ラディスの仕掛けた深いキスにシィーファが応じてくれる日は、「してもいい」日。
応じない日は、「遠慮したい」日。
それを理解して、ラディスはシィーファに、確認するのだ。
こつん、と額を合わせて、問う。
「…していい?」
そうすると、シィーファはラディスに甘えるようにすり寄ってくれる。
「する…」
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