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石に花咲く
33.**
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「ぇ、え、ちょっと待って、まさか」
「え、だって、折角こんなにとろとろになっているのに、乾いたらもったいない。 私のために、こんなになってくれたんでしょう?」
ラディスが、心底意味がわからない、という表情で繰り出してくる攻撃に、シィーファは言葉を失くす。
シィーファがこんなになってしまっているのは、ラディスの「ため」ではなく、ラディスの「せい」だ。
そして、そんな、まさか、ありえるはずない、というのは、どうやらシィーファの希望的観測でしかなかったらしい。
「ぁ、ん」
シィーファは声を上げかけてハッとし、唇を引き結ぶ。
先程までラディスに唇と舌で愛撫されていたシィーファの入口に、ラディスが指を押し当てたのだ。
そのままラディスは、ちゅぷ…とシィーファの体内に指を押し込んでくる。
「こんなにすんなり入るし…。 わかる? いきなり二本、はいった」
そうやって、指を差し込みながらも、余裕があるらしいラディスは、軽い口づけをシィーファの太腿の内側に降らせるのだ。 何度も、何度も。
ラディスの指が、自分のなかで動くたび、太腿の内側に、ラディスの唇が触れるたび、シィーファは震える。
それが、快感のためなのか、恐怖のためなのかは、わからない。
身体は、確かに気持ちいいのだ。
今までにないくらいに、気持ちいい。
けれど、身体だけ、慣らされていくようで、怖くもある。
心のどこかに、恐怖があるというのに、身体は簡単に快楽に流されてしまうことも、シィーファは怖い。
「とろとろで、やわらかい…」
シィーファのなかを、やさしく擽っていたラディスの指だったが、第一関節が埋まるくらいまで引き抜かれ、入口を広げるように開かれる。
丁度、指で蟹のハサミを作るようだと思う。
開いて、閉じて、奥まで入って、また引き抜き…を、ラディスは何度か繰り返す。
そうされて、シィーファは気づいた。
どうやら、シィーファは、入口を広げられるのが好きらしい。
正確には、シィーファの身体が、だが。
広げられる入口から、じわじわと快感が広がって、もっと太いものでいっぱいいっぱいに拡げてほしい、という欲望が生まれてしまう。
自分で思っていたよりも、自分の身体が淫らなことにいささかの衝撃を受けつつも、身体の疼きが止まらない。
「ぅ、ん」
シィーファが震えつつ、快感に翻弄されながらも、懸命に声を殺していると、声が聞こえた。
「…そんな趣味、なかったはずなのになぁ」
「………?」
不思議な呟きだ、と思ったから、シィーファはゆっくりと瞼を持ち上げ、潤んだ視界でラディスを見る。
見て、後悔した。
「声を我慢して、震えているシィーファは、すごく可愛い…。 すごく、興奮する…」
ちろり、と出した舌で、自らの唇を舐めるラディスから、雄の色気が押し寄せてきたからだ。
例えば、色気に香りがあるのだとすれば、香りに窒息させられていたかもしれない、と思うほどの色気だった。
普段の、清らかな紳士面はなんだったのか、どこへ行ったのか――…。
そう考えて、シィーファはハッとした。
そうか、これが、女で言うところの「昼は淑女、夜は娼婦」というやつか。
そんなふうに納得していると、シィーファのなかから、くちゅ…と音を立てて、ラディスの指が引き抜かれる。
「ん…」
小さく、漏らした吐息に、音が混ざってしまった。
これで、【お仕置き】は、終わりなのだろうか。
のろのろと視線を上げたシィーファの身体の前から、ラディスの身体が退く気配はない。
つまり、ラディスに向かって拡げられた、剥き出しの下肢を閉じることは叶わないのだ。
それに…。
ラディスが気持ちのいいことばかりするから、シィーファの身体の奥に生まれた、熱が治まらない。
もしかすると、ラディスも同じ気持ちだったのだろうか。
いつの間にかベルトを外し、下穿きの前を寛げていたらしい。
天を衝くように起ちあがった股間のものを、シィーファの脚の間に擦りつけてきた。
「このまま、いれたい」
「ん、ぅ」
ラディスの熱く猛ったものは、シィーファの脚の間に押しつけられた状態で、ゆっくりと上下に行き来する。
こんな状態で、放置されるのは、確かにシィーファもつらい。
けれど、薄い壁の向こうには、ウーアだっているのだ。
ウーアに、ウーアの大事な大事なご主人様――この場合ラディスのことだ――とナニをしているのか気づかれるのは、非常によくない。
それから、シィーファが非常に恥ずかしい。
でも、あれ?
そうすると、シィーファにとっての問題とは、それくらいだったのだろうか。
うまく回らない頭で考えていると、床に膝をついたままのラディスが、彼の熱くて硬く、濡れた先端を、シィーファの入口に押し当ててきた。
「ん…」
ぶるっ…とシィーファは一度、小さく震える。
確かに、ラディスの言うように、シィーファのそこは唇のようなものなのかもしれない。
押し当てられたラディスの先端を、押し当てられたところがちゅうちゅうと吸っているのがわかる。
口づけのときに、シィーファの唇がラディスの舌先を吸う様に、似ていなくもない。
本当に、シィーファの身体は素直だ。
ラディスの熱くて、硬くて、大きい、シィーファを気持ちよくしてくれるものが欲しくて、奥へと誘おうとしているようにも、思える。
ラディスも、きっと、シィーファの入口が、ラディスのものの先端を吸っていることには気づいているだろう。
少し、腰を押し出せば、すんなりとシィーファの身体はラディスを呑み込んでいくはずなのに、ラディスの腰は動かない。
代わりに、言葉で聞いてきた。
「いれてもいい?」
真っ直ぐに見つめて尋ねてくるラディスに、シィーファは一度、唇を引き結び、視線を逸らす。
「…でも、ウーアさんが…」
本音を言えば、いれていいし、むしろ、いれてほしい。
でも、ここではウーアに気づかれる危険が大きすぎる。
板挟み、と言えばいいのか、葛藤、と言えばいいのか、シィーファが悩みに悩んで答えを返せずにいると、ずずい、とラディスがシィーファに顔を近づけてきた。
シィーファの入口に当てられていた熱くて硬いラディスについては、ラディスはわざと上滑りをさせたのだと思う。
なかに入れられるのではなく、シィーファとラディスの距離が縮まる。
「んっ…」
「シィーファは、したくない?」
びくり、とした。
夜明けを待つような色の瞳に、シィーファが映っているのが、わかる。
ラディスの瞳に映ったシィーファは、今すぐ犯して欲しいとでも言うような、物欲しそうな表情で、ラディスを見上げていたのである。
恥ずかしくて、ラディスの瞳のなかのシィーファは、きゅっと唇を引き結んだけれど、瞳は逸れない。
逸らせなかった。
どうやら、魔性の力――とシィーファが呼んでいるだけだが――に捕まってしまったらしい。
そのシィーファの様子に、ラディスは目を細めて微笑んだ。
「では、私がしたいから…。 【お仕置き】だから、私が強要したということにしてしまうといい」
してしまうといい、なんて、事実とは異なるけれどそれでもいい、と言っているようなものではないか。
けれど、シィーファからは、反論の言葉も出なかったし、暴れる気も起きなかった。
ラディスもそれを見越したらしい。
「しー…。 しー、だよ。 シィーファ」
まるで、子どもに言い聞かせるように、甘く優しくラディスは囁きながら、顔を遠ざける。
ラディスは、「しー…」ともう一度言いながら、ラディスの熱くて硬いものの先端を、シィーファの入口に押し当てた。
そして、ゆっくりと腰を押し出して、ゆっくりとラディスを挿入して来る。
「ぁっ」
ようやく、いれてもらえた、とシィーファはほっとしたのだと思う。
思わず声が漏れてしまって、慌てて唇を引き結び、口を手で覆った。
「んぅ…」
「ん…」
シィーファの押し殺した声に、ラディスの吐息が重なる。
そんな些細なことで、ひとつになっていることを実感して、反応する身体が恨めしい。
ラディスは、ゆさゆさと腰を揺らしていたのだが、何を思ったのか、ぎゅうとシィーファの身体を抱きしめてくる。
「っぅ…」
抱き寄せられるような形になったので、繋がった部分が深くなる。
そのことに、シィーファはふるふると震えたのだが、ラディスの言葉は不満げだった。
「服、邪魔だなぁ…。 何も着てなかったら、もっとぴったり重なれるのにね」
その、言葉に、胸の奥がきゅんとなったが、ラディスを受け入れている場所もきゅんとなったのはおわかりいただけるだろうか。
ラディスが、おもむろにシィーファを抱き寄せて、抱きしめてきたのは、服が邪魔だ、と思ったからなのか。
ぴったり重なれないことが寂しくて、少しでも近くにいたいと抱きしめるなんて、本当に可愛い。
ふるふると小刻みにシィーファは震えたのだが、あらぬ場所もきゅうきゅうと収縮していたらしい。
ラディスが、奥まで挿入したままで、一度動きを止める。
「なか…、すごく、反応してる…」
目を伏せて、シィーファの体内の感触を味わうような様子だ、とシィーファが思っていると、馬車が、止まった。
「え」
シィーファはクッと目を見開く。
なぜ、今、ここで。
正直、そう思った。
これは、まさか。
「…あー…着いちゃった、ね」
困ったように言いながらも、全く名残惜しそうな様子は見せずに、ラディスはシィーファのなかから出ていってしまう。
そして、まずはシィーファの座席に乗せられていた足を下ろさせて、衣装の裾を直して、きちんと座らせる。
次に、起ち上がったままの自身を、手早く下穿きの中に収め、ベルトを締めた。
何事もなかったかのように、ラディスはシィーファの隣に腰かける。
シィーファは、中途半端に放置された身体の疼きから必死に目を逸らした。
逸らした先は、偶然にも、ラディスの股間だったのだが、ラディスはきっと、鋼の意思を持っているのだろう。
下穿きの股間が、とても、窮屈そうなのに、驚くくらいに涼しげな表情だ。
シィーファは、こんなに熱くて、身体が疼いて、さっきまでラディスがはいっていたところに、もう一度ラディスを迎えたくて堪らないというのに。
カチャカチャと、ウーアが外鍵を外す音がする。
その音に紛れて、ラディスがそっとシィーファの髪に顔を埋め、左耳に口づけてきた。
「ねぇ、シィーファ。 このままベッドに行かない?」
シィーファは、思わず身を強張らせた。
怖くて、逃げ出したかったはずなのに、逃げ出した場所に自ら戻ろうとしている。
それも、最も恐れた、行為をするために。
大いなる矛盾だ、と思いつつも、シィーファは身体の疼きに抗えずに、頷いた。
「…行く…」
「え、だって、折角こんなにとろとろになっているのに、乾いたらもったいない。 私のために、こんなになってくれたんでしょう?」
ラディスが、心底意味がわからない、という表情で繰り出してくる攻撃に、シィーファは言葉を失くす。
シィーファがこんなになってしまっているのは、ラディスの「ため」ではなく、ラディスの「せい」だ。
そして、そんな、まさか、ありえるはずない、というのは、どうやらシィーファの希望的観測でしかなかったらしい。
「ぁ、ん」
シィーファは声を上げかけてハッとし、唇を引き結ぶ。
先程までラディスに唇と舌で愛撫されていたシィーファの入口に、ラディスが指を押し当てたのだ。
そのままラディスは、ちゅぷ…とシィーファの体内に指を押し込んでくる。
「こんなにすんなり入るし…。 わかる? いきなり二本、はいった」
そうやって、指を差し込みながらも、余裕があるらしいラディスは、軽い口づけをシィーファの太腿の内側に降らせるのだ。 何度も、何度も。
ラディスの指が、自分のなかで動くたび、太腿の内側に、ラディスの唇が触れるたび、シィーファは震える。
それが、快感のためなのか、恐怖のためなのかは、わからない。
身体は、確かに気持ちいいのだ。
今までにないくらいに、気持ちいい。
けれど、身体だけ、慣らされていくようで、怖くもある。
心のどこかに、恐怖があるというのに、身体は簡単に快楽に流されてしまうことも、シィーファは怖い。
「とろとろで、やわらかい…」
シィーファのなかを、やさしく擽っていたラディスの指だったが、第一関節が埋まるくらいまで引き抜かれ、入口を広げるように開かれる。
丁度、指で蟹のハサミを作るようだと思う。
開いて、閉じて、奥まで入って、また引き抜き…を、ラディスは何度か繰り返す。
そうされて、シィーファは気づいた。
どうやら、シィーファは、入口を広げられるのが好きらしい。
正確には、シィーファの身体が、だが。
広げられる入口から、じわじわと快感が広がって、もっと太いものでいっぱいいっぱいに拡げてほしい、という欲望が生まれてしまう。
自分で思っていたよりも、自分の身体が淫らなことにいささかの衝撃を受けつつも、身体の疼きが止まらない。
「ぅ、ん」
シィーファが震えつつ、快感に翻弄されながらも、懸命に声を殺していると、声が聞こえた。
「…そんな趣味、なかったはずなのになぁ」
「………?」
不思議な呟きだ、と思ったから、シィーファはゆっくりと瞼を持ち上げ、潤んだ視界でラディスを見る。
見て、後悔した。
「声を我慢して、震えているシィーファは、すごく可愛い…。 すごく、興奮する…」
ちろり、と出した舌で、自らの唇を舐めるラディスから、雄の色気が押し寄せてきたからだ。
例えば、色気に香りがあるのだとすれば、香りに窒息させられていたかもしれない、と思うほどの色気だった。
普段の、清らかな紳士面はなんだったのか、どこへ行ったのか――…。
そう考えて、シィーファはハッとした。
そうか、これが、女で言うところの「昼は淑女、夜は娼婦」というやつか。
そんなふうに納得していると、シィーファのなかから、くちゅ…と音を立てて、ラディスの指が引き抜かれる。
「ん…」
小さく、漏らした吐息に、音が混ざってしまった。
これで、【お仕置き】は、終わりなのだろうか。
のろのろと視線を上げたシィーファの身体の前から、ラディスの身体が退く気配はない。
つまり、ラディスに向かって拡げられた、剥き出しの下肢を閉じることは叶わないのだ。
それに…。
ラディスが気持ちのいいことばかりするから、シィーファの身体の奥に生まれた、熱が治まらない。
もしかすると、ラディスも同じ気持ちだったのだろうか。
いつの間にかベルトを外し、下穿きの前を寛げていたらしい。
天を衝くように起ちあがった股間のものを、シィーファの脚の間に擦りつけてきた。
「このまま、いれたい」
「ん、ぅ」
ラディスの熱く猛ったものは、シィーファの脚の間に押しつけられた状態で、ゆっくりと上下に行き来する。
こんな状態で、放置されるのは、確かにシィーファもつらい。
けれど、薄い壁の向こうには、ウーアだっているのだ。
ウーアに、ウーアの大事な大事なご主人様――この場合ラディスのことだ――とナニをしているのか気づかれるのは、非常によくない。
それから、シィーファが非常に恥ずかしい。
でも、あれ?
そうすると、シィーファにとっての問題とは、それくらいだったのだろうか。
うまく回らない頭で考えていると、床に膝をついたままのラディスが、彼の熱くて硬く、濡れた先端を、シィーファの入口に押し当ててきた。
「ん…」
ぶるっ…とシィーファは一度、小さく震える。
確かに、ラディスの言うように、シィーファのそこは唇のようなものなのかもしれない。
押し当てられたラディスの先端を、押し当てられたところがちゅうちゅうと吸っているのがわかる。
口づけのときに、シィーファの唇がラディスの舌先を吸う様に、似ていなくもない。
本当に、シィーファの身体は素直だ。
ラディスの熱くて、硬くて、大きい、シィーファを気持ちよくしてくれるものが欲しくて、奥へと誘おうとしているようにも、思える。
ラディスも、きっと、シィーファの入口が、ラディスのものの先端を吸っていることには気づいているだろう。
少し、腰を押し出せば、すんなりとシィーファの身体はラディスを呑み込んでいくはずなのに、ラディスの腰は動かない。
代わりに、言葉で聞いてきた。
「いれてもいい?」
真っ直ぐに見つめて尋ねてくるラディスに、シィーファは一度、唇を引き結び、視線を逸らす。
「…でも、ウーアさんが…」
本音を言えば、いれていいし、むしろ、いれてほしい。
でも、ここではウーアに気づかれる危険が大きすぎる。
板挟み、と言えばいいのか、葛藤、と言えばいいのか、シィーファが悩みに悩んで答えを返せずにいると、ずずい、とラディスがシィーファに顔を近づけてきた。
シィーファの入口に当てられていた熱くて硬いラディスについては、ラディスはわざと上滑りをさせたのだと思う。
なかに入れられるのではなく、シィーファとラディスの距離が縮まる。
「んっ…」
「シィーファは、したくない?」
びくり、とした。
夜明けを待つような色の瞳に、シィーファが映っているのが、わかる。
ラディスの瞳に映ったシィーファは、今すぐ犯して欲しいとでも言うような、物欲しそうな表情で、ラディスを見上げていたのである。
恥ずかしくて、ラディスの瞳のなかのシィーファは、きゅっと唇を引き結んだけれど、瞳は逸れない。
逸らせなかった。
どうやら、魔性の力――とシィーファが呼んでいるだけだが――に捕まってしまったらしい。
そのシィーファの様子に、ラディスは目を細めて微笑んだ。
「では、私がしたいから…。 【お仕置き】だから、私が強要したということにしてしまうといい」
してしまうといい、なんて、事実とは異なるけれどそれでもいい、と言っているようなものではないか。
けれど、シィーファからは、反論の言葉も出なかったし、暴れる気も起きなかった。
ラディスもそれを見越したらしい。
「しー…。 しー、だよ。 シィーファ」
まるで、子どもに言い聞かせるように、甘く優しくラディスは囁きながら、顔を遠ざける。
ラディスは、「しー…」ともう一度言いながら、ラディスの熱くて硬いものの先端を、シィーファの入口に押し当てた。
そして、ゆっくりと腰を押し出して、ゆっくりとラディスを挿入して来る。
「ぁっ」
ようやく、いれてもらえた、とシィーファはほっとしたのだと思う。
思わず声が漏れてしまって、慌てて唇を引き結び、口を手で覆った。
「んぅ…」
「ん…」
シィーファの押し殺した声に、ラディスの吐息が重なる。
そんな些細なことで、ひとつになっていることを実感して、反応する身体が恨めしい。
ラディスは、ゆさゆさと腰を揺らしていたのだが、何を思ったのか、ぎゅうとシィーファの身体を抱きしめてくる。
「っぅ…」
抱き寄せられるような形になったので、繋がった部分が深くなる。
そのことに、シィーファはふるふると震えたのだが、ラディスの言葉は不満げだった。
「服、邪魔だなぁ…。 何も着てなかったら、もっとぴったり重なれるのにね」
その、言葉に、胸の奥がきゅんとなったが、ラディスを受け入れている場所もきゅんとなったのはおわかりいただけるだろうか。
ラディスが、おもむろにシィーファを抱き寄せて、抱きしめてきたのは、服が邪魔だ、と思ったからなのか。
ぴったり重なれないことが寂しくて、少しでも近くにいたいと抱きしめるなんて、本当に可愛い。
ふるふると小刻みにシィーファは震えたのだが、あらぬ場所もきゅうきゅうと収縮していたらしい。
ラディスが、奥まで挿入したままで、一度動きを止める。
「なか…、すごく、反応してる…」
目を伏せて、シィーファの体内の感触を味わうような様子だ、とシィーファが思っていると、馬車が、止まった。
「え」
シィーファはクッと目を見開く。
なぜ、今、ここで。
正直、そう思った。
これは、まさか。
「…あー…着いちゃった、ね」
困ったように言いながらも、全く名残惜しそうな様子は見せずに、ラディスはシィーファのなかから出ていってしまう。
そして、まずはシィーファの座席に乗せられていた足を下ろさせて、衣装の裾を直して、きちんと座らせる。
次に、起ち上がったままの自身を、手早く下穿きの中に収め、ベルトを締めた。
何事もなかったかのように、ラディスはシィーファの隣に腰かける。
シィーファは、中途半端に放置された身体の疼きから必死に目を逸らした。
逸らした先は、偶然にも、ラディスの股間だったのだが、ラディスはきっと、鋼の意思を持っているのだろう。
下穿きの股間が、とても、窮屈そうなのに、驚くくらいに涼しげな表情だ。
シィーファは、こんなに熱くて、身体が疼いて、さっきまでラディスがはいっていたところに、もう一度ラディスを迎えたくて堪らないというのに。
カチャカチャと、ウーアが外鍵を外す音がする。
その音に紛れて、ラディスがそっとシィーファの髪に顔を埋め、左耳に口づけてきた。
「ねぇ、シィーファ。 このままベッドに行かない?」
シィーファは、思わず身を強張らせた。
怖くて、逃げ出したかったはずなのに、逃げ出した場所に自ら戻ろうとしている。
それも、最も恐れた、行為をするために。
大いなる矛盾だ、と思いつつも、シィーファは身体の疼きに抗えずに、頷いた。
「…行く…」
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