【R18】石に花咲く

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石に花咲く

32.**

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「…この格好、いや…」
 ウーアに聞かれないようにと、潜めた声での訴えは、それでもラディスに届いたらしい。
 床に膝をついたラディスは、顔を上げて、見当違いの問いを返す。
「つらい? なら、私の肩に脚をかければ楽かも」
 言うや否や、ひょい、とシィーファの左脚を右肩にかけさせようとするものだから、シィーファは小声で悲鳴を上げた。
「違う!」

 ラディスは、まだよくわからないような顔で、ジッとシィーファの顔を見つめてくるから、シィーファは観念した。
 両手で顔を覆い、声を絞り出す。
「………恥ずかしいの」


 シィーファとラディスの間に、沈黙が落ちた。
 馬車の揺れる、がたごとという音、馬が地面を蹴る音だけが、耳に届く。

 シィーファは顔を手で覆ったまま、手を外すことができない。
 もっとほかに隠すべきところがあるのはわかっている。
 例えば、ラディスに向かって剥き出しになった下肢とか。


 現在、シィーファは馬車の座席に座っているのだが、衣装の裾の部分を捲られ、たくし上げられている。
 その上で、膝を曲げるよう求められ、踵を座席に上げていた。
 つまり、剥き出しの秘所はラディスに向かって広げられ、ラディスはそこが見やすいようにと床に膝をついている状態だ。
 加えて、つい先ほどだが、座席に乗せていた左脚を、ラディスの右肩に掛けさせられたところだ。
 逆肩車とでも言うとわかりやすいのだろうか。

 まあ、そういうわけで、シィーファの手は未だシィーファの顔面にくっついたままなのである。

 シィーファは今まで、『頭隠して尻隠さず』とは愚か者のすることだ、と思っていたが、例えばどちらかしか隠せない状況になったとき、顔面を隠す自分に驚いている。
 だが、これは恐らく、気づかなければ恥ずかしくないけれど、気づいてしまうと恥ずかしい、という心理に基づいているのだと思う。
 間違えていることに気づかずにいれば恥ずかしくないが、間違えていることを指摘されると恥ずかしいのと同じだ、きっと。
 目を閉じていれば、どこを見られているかには気づかないが、目を開いてしまえば相手がどこを見ているかわかってしまう。
 どちらが恥ずかしいか、ということだ。


 だが、恐らくラディスは、シィーファが何を恥ずかしがっているか、本気でわかっていないのだろう。
「どうして? 私は可愛いと思うし、愛しいのに」

 最初は、心底不思議がっている声。
 次に、微笑みを含んだ、優しくてやわらかい声が、シィーファの耳に届く。

 手で、顔を覆っておいて、よかった。
 きっと、今、シィーファの顔は赤い。


 外見を褒められることなら、何度もあった。
 だから、外見に対する賛美には、鈍感になっている自覚が、シィーファにはある。

 でも、【愛しい】と言ってもらったことなど、初めてかもしれなくて、これが思いの外、効いた。
 用心しなければならない言葉だ、と思っていると、ちゅうっと生ぬるい感触が、シィーファの秘所を覆って、仰け反ってしまう。


「ひぁっ…」
 小さな悲鳴を上げた口を、ラディスの手がぱっと覆った。
 ラディスに視線を向けてしまえば、シィーファを馬車の座席に座らせ、自分は馬車の床に膝をついたラディスがシィーファを見上げている。
 ラディスは、左手の人差し指を自らの唇に当てて、囁いた。
「だから、しー、だよ。 シィーファ」
 声を上げたことを責められたような気分になったので、シィーファは思わず反論していた。
「貴方がっ…急に舐めるからっ…」

 だから声を上げてしまったのであって、悪いのはシィーファではなくラディスだ、と言いたかったのだが、ラディスは何を思ったのだろう。
 嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、残念。 舐めたのではなく、キスしたんだよ」


 舐めたもキスしたも大差あるか! と言ってやろうかとよっぽど思ったものだが、ラディス曰く、今はシィーファに対するお仕置きの時間らしいのだ。
 殊勝な態度でいた方がいいだろう、とシィーファは計算し、打算で動くことにした。
 つまりは、言葉を呑み込んだのである。


 だというのに、シィーファの計算は何か間違っていたのだろうか。
 ラディスは、目を細めてシィーファの秘所を見つめ、ちろりと舌を出した。
 どちらかと言えば、清らかな空気感のラディスがそうすると、とんでもなく艶やかに見えるらしい。
 そう、シィーファは感心したのだが、どうやら感心している場合でもなさそうなことに、すぐに気づかされることとなる。

「…でも、そうだね。 舐めるのがいいなら、舐めようか」
「え、ぁ、んぅ」
 予備動作がなく、実に自然な、流れるような動きで、秘所に顔を埋められてしまった。
 ほとんど反射で声を漏らしてしまったシィーファだったが、ラディスにまた「しー」と言われそうで、慌てて口を引き結び、左手の甲を口に当てた。
 右手は、ラディスに与えられる甘い刺激に耐えるために、座席に爪を立てる。


 ぴちゃ、ぴちゃ、と猫が水を舐めるような音が、自分の脚の間から聞こえる。
 聞こえるだけではなく、生あたたかくてやわらかくてぬめったものが、何度もシィーファの敏感な部分を行き来するのだ。


「ん…」
 気持ちよくて、ラディスを受け入れる入口が、ひくついているのが、自分でもわかる。
 舌先で、そこを刺激しているラディスも、シィーファの身体が反応していることには気づいているのだろう。
「んんぅう…」
 シィーファの入口を、集中的に舐め回していると思ったら、シィーファがひくつくのに合わせて、ラディスが窄めた舌をぐにゅう…と押し込んできたのだ。


 窄めた舌先を、出し入れされるのが、気持ちよくて、身体の力が抜けそうになる。
 ラディスに触れられるようになってから気づいたことだが、どうやらシィーファは奥も気持ちがいいが、入り口も気持ちがいいらしい。
 入口をこうやって愛撫されるだけで、快感の波に飲み込まれそうになるのだ。
 そして、恐らく、ラディスもそれをわかっている。


 ちゅぷちゅぷと音を立てて、ねじ込んでは引き、ねじ込んでは引き、していた舌を、シィーファの入口に押し込んだままで、内壁を一周するように動かす。
 あ、まずい。 と思ったときには、もう遅かった。


「んっ…っうぅ」
 ねじ込まれたラディスの舌先を、扱くようにシィーファのなかが蠕動する。
 ぎゅうっと瞑った瞼の裏で、光が明滅するような感じ。
 それよりなにより、ラディスを咥えているところから、脳へと凄まじい何かが駆けた。
 びく、びく、と身体が跳ねるのが治まると、一度、身体から力が抜けたようになる。


 ちゅぷ…と舌先が、シィーファの入口から引き抜かれていくのが、わかる。
 だが、ラディスは舌が入り口から離れる寸前で、そこに唇を押し当て、強めにぢゅうっと吸い上げた。
「んぁ…」
 自分のなかから、何かが吸い出されるような感覚に、シィーファは震える。
 ラディスは、シィーファの脚の間から顔を上げると、唇に押し当てていたシィーファの手にそっと触れて、その手を外す。
 少し、伸びをしたかと思えば、シィーファの唇に、ちょんと触れるだけの口づけをしてきた。


「気持ちいいね」


 問い、ではない。 確認、でもない。
 状態の指摘のように感じられて、恥ずかしくなったシィーファは、可愛くない問いを投げることで、ラディスの気を削ごうとしたのだと思う。
「…は、あ…、変わっていると、言われませんか?」
「どうして?」
 思い当たることはなかったのだろう。
 ラディスは不思議そうに問い返してきた。
 だから、シィーファは視線を逸らしつつ、応じる。
「…身分の高い殿方ほど、女の脚の間になど顔を埋めたがらないものだと聞きました。 舐めるの、お好きなのですか?」


 未だに信じられないが、ラディスはどこぞのお国の第五王子だというのだ。
 ひとに、傅かれることには慣れていても、傅いた経験はほとんどないはずだし、それをよしとはしないだろう。
 そういう、固定観念がシィーファの中にはあったのだが、この王子様は、今まさにシィーファの目の前でしているように、膝をつくことに抵抗がない。
 ばかりか、喜んで――とシィーファの目には映るのだが――女の脚の間に顔を埋め、そこに口をつける。


 完全に余計な話ではあるが、シィーファの前の主人は、絶対にそういうことはしなかった。
 シィーファだって、男のものを舐めろと言われれば舐めるが、舐めたいと思うかというと、思わない。
 だから、ラディスについては、本当に、よくそんなところに口をつけるものだ、というのが正直な感想だ。
 嫌悪感はないのか。 知的好奇心が勝るのか…。 いずれにせよ、謎でしかない。

 返答には、少し間があった。
 ラディスにとって、それは即答できる答えではなかったらしい。
 まあ、好きかどうかなんて訊かれたこともないだろうから、彼なりの答えを探していたのだと思う。


 ラディスは、顎に手を当てると、ひとつ頷いた。
「そうだね、好き、かも。 シィーファのここは、とても甘くていい匂いがするし、蜜みたいに甘い。 それから、ここを可愛がるととても可愛くなる」
 信じられないような――もとい、シィーファにとっては理解できないようなことをずらずらと並べ立てたラディスは、そっとシィーファの入口に触れた。
「シィーファのここって、きっと、無花果イチジクみたいなんじゃないかな」

 きっと、ラディスは何の気なしに口にしたのだろう。
 けれど、ラディスがぽろりと零したその言葉に、シィーファは息が止まるような錯覚を覚える。


 急に心臓が、存在を主張して鼓動を大きくし始めた。


 それでも、シィーファの耳は、ラディスの言葉を拾う。
「こんなに甘くていい匂いがするんだ。 中で花が咲いているとしか思えない。 この、甘い蜜だって、熟れて零れるものだと考えれば納得だよね」

 シィーファには、到底納得できない理屈だけれど、納得しているらしいラディスは顔を上げて、微笑む。
 だが、すぐに微笑みを消して、呆けたような表情になった。


「…どうしたの? シィーファ、顔、真っ赤」
 ひたり、と伸ばされたラディスの手に、頬を包まれて、どきりとする。

 ラディスは、体温が高い。
 そのラディスの手も、常にシィーファより、温かい。
 なのに、そのラディスの手を、ひんやりと感じるということは、シィーファの頬が、熱を持っているのだろう。


 身体が、どうしてそんな反応を示すのかわからなくて、シィーファは混乱し、ラディスの視線から逃れるように、視線を落とす。
「…貴方が、恥ずかしいことを言うから」
 口から零れたのは、言い訳だ。

 だが、ラディスはその言い訳を物ともしなかったらしい。
 相手にされなかった、と言った方がいいだろうか。


 ラディスは、シィーファの両手をそれぞれの手にそっと取って重ねるようにする。
 そして、両の指先に、軽く唇を押し当てた。
「私は恥ずかしくないよ、本当のことだもの」
 目を伏せて、微笑みながら口にするラディスに、シィーファはぼんやりと、言葉を間違えたかもしれない、と思った。


 でも、だって、無花果みたい、なんて。
 あの、いい香りで、甘くて、美味しい、無花果。
 実の中で、小さな白い花をたくさん、たくさん咲かせている、まるで魔法のような果実みたい、なんて。
 あんなに素敵なもののようだなんて。
 嬉しくて、恥ずかしくて、どうしていいんだか、わからなくなる。

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