【R18】石に花咲く

環名

文字の大きさ
上 下
34 / 65
石に花咲く

32.**

しおりを挟む
「…この格好、いや…」
 ウーアに聞かれないようにと、潜めた声での訴えは、それでもラディスに届いたらしい。
 床に膝をついたラディスは、顔を上げて、見当違いの問いを返す。
「つらい? なら、私の肩に脚をかければ楽かも」
 言うや否や、ひょい、とシィーファの左脚を右肩にかけさせようとするものだから、シィーファは小声で悲鳴を上げた。
「違う!」

 ラディスは、まだよくわからないような顔で、ジッとシィーファの顔を見つめてくるから、シィーファは観念した。
 両手で顔を覆い、声を絞り出す。
「………恥ずかしいの」


 シィーファとラディスの間に、沈黙が落ちた。
 馬車の揺れる、がたごとという音、馬が地面を蹴る音だけが、耳に届く。

 シィーファは顔を手で覆ったまま、手を外すことができない。
 もっとほかに隠すべきところがあるのはわかっている。
 例えば、ラディスに向かって剥き出しになった下肢とか。


 現在、シィーファは馬車の座席に座っているのだが、衣装の裾の部分を捲られ、たくし上げられている。
 その上で、膝を曲げるよう求められ、踵を座席に上げていた。
 つまり、剥き出しの秘所はラディスに向かって広げられ、ラディスはそこが見やすいようにと床に膝をついている状態だ。
 加えて、つい先ほどだが、座席に乗せていた左脚を、ラディスの右肩に掛けさせられたところだ。
 逆肩車とでも言うとわかりやすいのだろうか。

 まあ、そういうわけで、シィーファの手は未だシィーファの顔面にくっついたままなのである。

 シィーファは今まで、『頭隠して尻隠さず』とは愚か者のすることだ、と思っていたが、例えばどちらかしか隠せない状況になったとき、顔面を隠す自分に驚いている。
 だが、これは恐らく、気づかなければ恥ずかしくないけれど、気づいてしまうと恥ずかしい、という心理に基づいているのだと思う。
 間違えていることに気づかずにいれば恥ずかしくないが、間違えていることを指摘されると恥ずかしいのと同じだ、きっと。
 目を閉じていれば、どこを見られているかには気づかないが、目を開いてしまえば相手がどこを見ているかわかってしまう。
 どちらが恥ずかしいか、ということだ。


 だが、恐らくラディスは、シィーファが何を恥ずかしがっているか、本気でわかっていないのだろう。
「どうして? 私は可愛いと思うし、愛しいのに」

 最初は、心底不思議がっている声。
 次に、微笑みを含んだ、優しくてやわらかい声が、シィーファの耳に届く。

 手で、顔を覆っておいて、よかった。
 きっと、今、シィーファの顔は赤い。


 外見を褒められることなら、何度もあった。
 だから、外見に対する賛美には、鈍感になっている自覚が、シィーファにはある。

 でも、【愛しい】と言ってもらったことなど、初めてかもしれなくて、これが思いの外、効いた。
 用心しなければならない言葉だ、と思っていると、ちゅうっと生ぬるい感触が、シィーファの秘所を覆って、仰け反ってしまう。


「ひぁっ…」
 小さな悲鳴を上げた口を、ラディスの手がぱっと覆った。
 ラディスに視線を向けてしまえば、シィーファを馬車の座席に座らせ、自分は馬車の床に膝をついたラディスがシィーファを見上げている。
 ラディスは、左手の人差し指を自らの唇に当てて、囁いた。
「だから、しー、だよ。 シィーファ」
 声を上げたことを責められたような気分になったので、シィーファは思わず反論していた。
「貴方がっ…急に舐めるからっ…」

 だから声を上げてしまったのであって、悪いのはシィーファではなくラディスだ、と言いたかったのだが、ラディスは何を思ったのだろう。
 嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、残念。 舐めたのではなく、キスしたんだよ」


 舐めたもキスしたも大差あるか! と言ってやろうかとよっぽど思ったものだが、ラディス曰く、今はシィーファに対するお仕置きの時間らしいのだ。
 殊勝な態度でいた方がいいだろう、とシィーファは計算し、打算で動くことにした。
 つまりは、言葉を呑み込んだのである。


 だというのに、シィーファの計算は何か間違っていたのだろうか。
 ラディスは、目を細めてシィーファの秘所を見つめ、ちろりと舌を出した。
 どちらかと言えば、清らかな空気感のラディスがそうすると、とんでもなく艶やかに見えるらしい。
 そう、シィーファは感心したのだが、どうやら感心している場合でもなさそうなことに、すぐに気づかされることとなる。

「…でも、そうだね。 舐めるのがいいなら、舐めようか」
「え、ぁ、んぅ」
 予備動作がなく、実に自然な、流れるような動きで、秘所に顔を埋められてしまった。
 ほとんど反射で声を漏らしてしまったシィーファだったが、ラディスにまた「しー」と言われそうで、慌てて口を引き結び、左手の甲を口に当てた。
 右手は、ラディスに与えられる甘い刺激に耐えるために、座席に爪を立てる。


 ぴちゃ、ぴちゃ、と猫が水を舐めるような音が、自分の脚の間から聞こえる。
 聞こえるだけではなく、生あたたかくてやわらかくてぬめったものが、何度もシィーファの敏感な部分を行き来するのだ。


「ん…」
 気持ちよくて、ラディスを受け入れる入口が、ひくついているのが、自分でもわかる。
 舌先で、そこを刺激しているラディスも、シィーファの身体が反応していることには気づいているのだろう。
「んんぅう…」
 シィーファの入口を、集中的に舐め回していると思ったら、シィーファがひくつくのに合わせて、ラディスが窄めた舌をぐにゅう…と押し込んできたのだ。


 窄めた舌先を、出し入れされるのが、気持ちよくて、身体の力が抜けそうになる。
 ラディスに触れられるようになってから気づいたことだが、どうやらシィーファは奥も気持ちがいいが、入り口も気持ちがいいらしい。
 入口をこうやって愛撫されるだけで、快感の波に飲み込まれそうになるのだ。
 そして、恐らく、ラディスもそれをわかっている。


 ちゅぷちゅぷと音を立てて、ねじ込んでは引き、ねじ込んでは引き、していた舌を、シィーファの入口に押し込んだままで、内壁を一周するように動かす。
 あ、まずい。 と思ったときには、もう遅かった。


「んっ…っうぅ」
 ねじ込まれたラディスの舌先を、扱くようにシィーファのなかが蠕動する。
 ぎゅうっと瞑った瞼の裏で、光が明滅するような感じ。
 それよりなにより、ラディスを咥えているところから、脳へと凄まじい何かが駆けた。
 びく、びく、と身体が跳ねるのが治まると、一度、身体から力が抜けたようになる。


 ちゅぷ…と舌先が、シィーファの入口から引き抜かれていくのが、わかる。
 だが、ラディスは舌が入り口から離れる寸前で、そこに唇を押し当て、強めにぢゅうっと吸い上げた。
「んぁ…」
 自分のなかから、何かが吸い出されるような感覚に、シィーファは震える。
 ラディスは、シィーファの脚の間から顔を上げると、唇に押し当てていたシィーファの手にそっと触れて、その手を外す。
 少し、伸びをしたかと思えば、シィーファの唇に、ちょんと触れるだけの口づけをしてきた。


「気持ちいいね」


 問い、ではない。 確認、でもない。
 状態の指摘のように感じられて、恥ずかしくなったシィーファは、可愛くない問いを投げることで、ラディスの気を削ごうとしたのだと思う。
「…は、あ…、変わっていると、言われませんか?」
「どうして?」
 思い当たることはなかったのだろう。
 ラディスは不思議そうに問い返してきた。
 だから、シィーファは視線を逸らしつつ、応じる。
「…身分の高い殿方ほど、女の脚の間になど顔を埋めたがらないものだと聞きました。 舐めるの、お好きなのですか?」


 未だに信じられないが、ラディスはどこぞのお国の第五王子だというのだ。
 ひとに、傅かれることには慣れていても、傅いた経験はほとんどないはずだし、それをよしとはしないだろう。
 そういう、固定観念がシィーファの中にはあったのだが、この王子様は、今まさにシィーファの目の前でしているように、膝をつくことに抵抗がない。
 ばかりか、喜んで――とシィーファの目には映るのだが――女の脚の間に顔を埋め、そこに口をつける。


 完全に余計な話ではあるが、シィーファの前の主人は、絶対にそういうことはしなかった。
 シィーファだって、男のものを舐めろと言われれば舐めるが、舐めたいと思うかというと、思わない。
 だから、ラディスについては、本当に、よくそんなところに口をつけるものだ、というのが正直な感想だ。
 嫌悪感はないのか。 知的好奇心が勝るのか…。 いずれにせよ、謎でしかない。

 返答には、少し間があった。
 ラディスにとって、それは即答できる答えではなかったらしい。
 まあ、好きかどうかなんて訊かれたこともないだろうから、彼なりの答えを探していたのだと思う。


 ラディスは、顎に手を当てると、ひとつ頷いた。
「そうだね、好き、かも。 シィーファのここは、とても甘くていい匂いがするし、蜜みたいに甘い。 それから、ここを可愛がるととても可愛くなる」
 信じられないような――もとい、シィーファにとっては理解できないようなことをずらずらと並べ立てたラディスは、そっとシィーファの入口に触れた。
「シィーファのここって、きっと、無花果イチジクみたいなんじゃないかな」

 きっと、ラディスは何の気なしに口にしたのだろう。
 けれど、ラディスがぽろりと零したその言葉に、シィーファは息が止まるような錯覚を覚える。


 急に心臓が、存在を主張して鼓動を大きくし始めた。


 それでも、シィーファの耳は、ラディスの言葉を拾う。
「こんなに甘くていい匂いがするんだ。 中で花が咲いているとしか思えない。 この、甘い蜜だって、熟れて零れるものだと考えれば納得だよね」

 シィーファには、到底納得できない理屈だけれど、納得しているらしいラディスは顔を上げて、微笑む。
 だが、すぐに微笑みを消して、呆けたような表情になった。


「…どうしたの? シィーファ、顔、真っ赤」
 ひたり、と伸ばされたラディスの手に、頬を包まれて、どきりとする。

 ラディスは、体温が高い。
 そのラディスの手も、常にシィーファより、温かい。
 なのに、そのラディスの手を、ひんやりと感じるということは、シィーファの頬が、熱を持っているのだろう。


 身体が、どうしてそんな反応を示すのかわからなくて、シィーファは混乱し、ラディスの視線から逃れるように、視線を落とす。
「…貴方が、恥ずかしいことを言うから」
 口から零れたのは、言い訳だ。

 だが、ラディスはその言い訳を物ともしなかったらしい。
 相手にされなかった、と言った方がいいだろうか。


 ラディスは、シィーファの両手をそれぞれの手にそっと取って重ねるようにする。
 そして、両の指先に、軽く唇を押し当てた。
「私は恥ずかしくないよ、本当のことだもの」
 目を伏せて、微笑みながら口にするラディスに、シィーファはぼんやりと、言葉を間違えたかもしれない、と思った。


 でも、だって、無花果みたい、なんて。
 あの、いい香りで、甘くて、美味しい、無花果。
 実の中で、小さな白い花をたくさん、たくさん咲かせている、まるで魔法のような果実みたい、なんて。
 あんなに素敵なもののようだなんて。
 嬉しくて、恥ずかしくて、どうしていいんだか、わからなくなる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼
恋愛
恋愛を封印し、花屋の店主として一心不乱に仕事に打ち込んでいた咲都。そんなある日、ひとりの男性(社長)が花を買いにくる──。出会いは偶然。だけど咲都を気に入った彼はなにかにつけて咲都と接点を持とうとしてくる。 「お昼ごはんを一緒に食べてくれるだけでいいんだよ。なにも難しいことなんてないだろう?」 「でも……」 「もしつき合ってくれたら、今回の仕事を長期プランに変更してあげるよ」 「はい?」 「とりあえず一年契約でどう?」 穏やかでやさしそうな雰囲気なのに意外に策士。最初は身分差にとまどっていた咲都だが、気づいたらすっかり彼のペースに巻き込まれていた。 ☆第14回恋愛小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...