【R18】石に花咲く

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石に花咲く

27.**

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「んん、ぅ」
 身体を重ねているときに、声を押さえてしまうのは、恐らく彼女の癖なのだろう。
 可愛らしくて、奥ゆかしい癖だ、と思う。
 声を押さえようとするのに、我慢できなくて零れる声の、甘いことと言ったらない。

「ぁ! んん」
 彼女を気持ちよくできているのが嬉しくて、ラディスが腰を押し出して奥を刺激すると、シィーファは一度甲高く声を上げて、また唇を引き結ぶ。


 年上の女性に対してあれなのだが、本当に可愛い。


 思うと同時に、気持ちは唇から零れていた。
「シィーファ、可愛い…」
 ラディスの言葉に、ラディスを包み込んでいる柔らかくて熱いシィーファが、反応するのがわかって、胸がきゅんとする。


 ラディスには、シィーファが初めての女性だ。
 シィーファが、だからラディスは初めて知った行為の気持ちよさの虜になって、手近なシィーファでその欲求を爆発させている、と考えていることは何となくわかっている。

 昨夜は、そんなことを考える余裕もなかった。
 シィーファで女を知れる喜びでいっぱいになり、シィーファとの行為に夢中になっていた自覚もある。


 だから、今日は余計に、言葉に気をつけているつもりだ。
 シィーファに、「気持ちいいね」と訊き、確認はしても、ラディスが「気持ちいい」とは言わないようにしている。

 どれだけ彼女にとって効果があるかはわからないが、ラディスは彼女に身体目当てだと思われないように努力しているつもりだ。
 こうやって、彼女を求めていては、説得力がないかもしれないが。
 それには、ラディスなりの理由があったりするのだ。


「…シィーファ、気持ちいい?」
 ゆっくりと、腰を引いて、押し出せば、シィーファは口元を手で覆って、こくこくと頷いた。

 高潔を装ってはいるが、シィーファの身体が快楽に弱いらしいことは、何となくわかった。
 それを開くのが自分だけであればいい。
 自分だけになるようにと、祈りながら、呪いながら、触れるのだ。
 そして、願わくは、シィーファがこの行為に、ではなく、ラディスに夢中になって、溺れてくれたらいい、と。


「ぁ、だめ、ラディス」
 ふる…、と小さく震えたシィーファが漏らした言葉に、ラディスは気づく。


 恐らく、これも、シィーファの癖だ。
 ラディスが中にいるときに、快感が迫って達しそうになると、シィーファはラディスの名を呼ぶ。
 ラディスを包み込んだシィーファも、きゅうきゅうと反応し始めた。
 だから、ラディスは、少しだけ腰を遣う速度を上げる。


「ぁ、あ、だめっ…、ラディっ…すぅ…」
 声をわずかに震わせ、上擦らせ、シィーファはシーツをぎゅうっと握るようにして爪を立てる。
 びく、びく、と跳ねる彼女の下肢に合わせて、彼女のみちがなかにいるラディスをぎゅうぎゅうと締め付ける。


「ん…」
 ラディスは反射的に目を閉じて、腹のあたりに力を入れた。
 何とか吐精の衝動をやり過ごしたラディスは、ふっと息を吐きながら、瞼を持ち上げてシィーファを見下ろした。
「あぁ…、本当に可愛い…」


 ラディスは本気で、達した後のシィーファが一番可愛いと思っている。


 脱力して、投げだされた四肢は無防備で、ラディスの前でそんな無防備な姿を晒してくれているというのが、信頼の証でもあるようで堪らない。
 上気した頬や、肌。
 しっとりと汗ばんで、髪が額や頬に張り付いている様も、色っぽいと思う。
 そして、何よりもその表情だ。

 シィーファは、今まで情事に耽っていたことが一目でわかるような、とろとろの表情になる。
 蜂蜜のような色の瞳は、ぼんやりと焦点が合わずに、どこか虚空を見つめる。
 それが、快感の余韻に浸っているためだと思うと「ん゛ん゛ッ」となるのだ。 伝わるだろうか。


 シィーファは、顔立ちが綺麗で可愛い。
 恐らく、顔立ちが幼くもあるのだと思う。
 人種の違いもあるのだろうが、シィーファがラディスよりも年上だと初見でわかる人間はほとんどいないだろう。

 話は逸れたが、シィーファは顔立ちが綺麗で可愛くて、普段は男女のあれこれなど知りませんというような顔をしている。
 それが、ラディスの前では崩れて、こんなに色っぽくしっとりとするのだと思うと、本当に堪らない。


 だが、そんなラディスにも、不満がないわけではない。


 ちら、とラディスは、未だシーツの上に、無造作に投げ出されたままになっている、シィーファの両腕を見つめた。
 しなやかで美しい曲線の二の腕から、腕、手のひら、指先、桜貝のような爪…その全てを愛おしいと思う。


 愛おしいと思うのに、彼女の手は、ラディスに触れない。
 それが、ラディスの不満。


 体内に受け入れてもらい、こうして深いところで繋がっているというのに、彼女の腕はラディスに伸ばされない。
 伸ばされたとしても、ただ空を掻く。
 あるいは、シーツに爪を立て、クッションに縋りつく。

 まるで、触れるのを恐れるようではないか。

 そんな疑念を抱いたのは、どのタイミングだっただろう。
 彼女が真実、触れるのを恐れているのだとすれば、それは、どうしてなのだろう。

 思いながら、ラディスはシィーファの上に上体を倒して、覆いかぶさる。
 そして、シィーファの背とシーツの間に腕を差し込んで、彼女の華奢な身体を抱きしめた。

 こんなに、簡単に、触れさせるくせに、どうして、自分からは触れようとしないのか。
 手を伸ばして、縋ってくれないのか。
 そう、思ってしまう。


 例えば、ラディスがいつか、何かの事情で、彼女から手を放さざるを得ないような状況が来たときに、彼女はあっさりとラディスから離れて行ってしまうのではないか。
 仮に、ラディスが手を放さなくとも、少し気を緩めて目を離した隙に、彼女は逃げ出してどこかに身を隠してしまうのではないか。
 そう、ラディスは恐れるのだ。


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