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石に花咲く
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ラディスの発言に、シィーファは数瞬、思考を止めて固まった。
言われている意味がわからなかった。
どこで、接吻をすると言ったのだろう、この男は。
もしかすると、シィーファの内心は、表情に出ていたのかもしれない。
「だって…」
囁いたラディスが、シィーファの入口を撫でていた指の角度を変えた。
「ぅ、あ…」
くぷぷ…、とラディスの指が、身体の中に沈む感じに、シィーファは声を上げる。
ラディスの指先は、故意になのか故意にではないのか、つつぅ…とシィーファの内壁に沿って滑るようにしながら奥に進む。
「すごく、やわらかい…。 指一本では、足りないね?」
勝手なことを言いながら、シィーファの太腿の内側に口づけるラディスは、入ってきたときと同様に、内壁を擽るようにしながら出ていく。
一度、シィーファのなかから引き抜かれたラディスの指は、なぜかシィーファの入口の周辺を撫で始めた。
ラディスの指が濡れているのもあるだろうが、シィーファ自身も濡れているので、ぬるぬると滑る感じがする。
「ここ、唇みたいだね…。 私の舌を吸ってくれて…、すごく気持ちよかった」
うっとりとシィーファの脚の間を見つめるラディスに、シィーファは瞬きをした。
なるほど、と納得したとも言える。
男の象徴を咥えこむ口が、上にも下にもあるのだとすれば、唇が上にも下にもあるのも道理だ。
だが、思考は、下の唇を撫で始めたラディスに、遮られる。
「ん…」
「なか、よく解そうね。 果実と同じだ。 とろとろに熟れたら、食べ頃だものね」
ラディスが言い終わるか否かのところで、ラディスは再び、シィーファの身体のなかへと、指を滑らせた。
指が増やされているのはわかるが、身体はラディスの指をするすると呑み込む。
まるで、シィーファの身体がラディスの指を吸い込んでいるようだ、と思った。
ラディスの指が、ゆっくりと、あまりに優しく内壁を擽るので、シィーファは堪えられずに身悶えする。
「ぁ、なか、だめ」
「痛いの?」
「いたく、な、ぁ…」
声を発すると、意味をなさない喘ぎにしかならなさそうに思えて、シィーファは唇を引き結び、声を封じる。
そして、否定の意を込めてふるふると首を横に振った。
シィーファが痛がっていない、ということは、ラディスにも伝わったのだろう。
少し、考えるような間があった後で、ラディスの声が再び降ってくる。
「…痛くないの? なら、何がだめ? …怖い?」
ぎゅっと瞼を閉じたシィーファの目に、ラディスの顔は見えない。
けれど、ラディスの声がどこまでも甘く、優しいことは、わかる。
シィーファをどろどろに甘やかして、融かそうとしているようではないか、と怖くなるほどに。
ああ、そう。
それが、怖いのかもしれない。
そう思い至ったから、シィーファは小さく、頷く。
融けたら、形が保てなくなる。
シィーファが、シィーファでなくなってしまうのだ。
それは、どんなに怖いことだろう。
シィーファが一度、小さく震えると、太腿の内側にぬくもりと、さらさらとやわらかいものが触れるのを感じた。
ゆるゆると瞼を持ち上げ、恐る恐る視線を向けると、ラディスがシィーファの太腿の内側に頬を寄せている。
さらさらとやわらかい感触は、ラディスの髪だったらしい。
「大丈夫。 怖くないよ」
優しく、優しく、ラディスは口にするけれど、シィーファが何を怖がっているか理解もしないで、よく言えたものだ。
だから、少し、意地悪な問いを投げる気になったのだと思う。
「何が、怖くないの…?」
シィーファに問われたラディスは、シィーファの身体の中に指を埋めたまま、太腿に頬を寄せたまま、視線だけを上げた。
さすがに、指でシィーファを刺激し続けるのはどうかと思ったのだろう。
ラディスの指の動きは、ピタリと止まっている。
ここで、見当違いの答えを返したら、どうしてくれよう、と思っていた。
試すような気持ちだったことも、認めよう。
だというのに、ラディスは、シィーファを真っ直ぐに見つめて、微笑むのだ。
「私は、シィーファにとって、怖い存在ではないよ。 私は、貴女が怖いと思うことなんか、しない。 絶対に、貴女を傷つけないと誓うから」
言葉を終えると、ラディスは目を伏せて、もう何度目かの口づけを、シィーファの太腿の内側に贈る。
シィーファは、絶句するしかなかった。
信じられない思いで、ラディスを見る。
思考を読むことなど、不可能だと思っていた。
図星を指したと言っても、偶然にほかならない。
けれど、なぜかシィーファはそのとき、ラディスが正確に、シィーファの考えていることを読み取ったと感じたのだ。
偶然など、この世に万と転がっているというのに、人はなぜかその偶然に名前を付けたがる。
愛だとか、奇跡だとか、運命だとか。
そして、シィーファもこのときは、その偶然に、別の名前を見た。
必然という名を。
どうして、その名だったのかは、わからない。
驚愕と、困惑――つまりは、混乱のままに、シィーファはラディスを凝視していたのだが、ラディスは瞼を持ち上げて、微笑む。
「怖くないよ。 だから、続けていい、よね?」
シィーファの返事を待たずに、ラディスはゆるゆると、シィーファのなかで再び指を動かしだした。
途端、熾火のような小さな快感が、身の内で小さく燻り始める。
その快感を、なるべく意識しないようにしながら、シィーファはラディスの、瞳を見つめた。
どうして、見つめているのかもわからない。
怖いと思うのに、目を逸らせないのだ。
彼の、夜明けを待つ空のような色の瞳に、吸いこまれそうな錯覚を覚える。
魔法にかかったように、身体の自由が利かないような気さえする。
シィーファたち【石女の一族】の女を、【魔物】だと言った奴らに、言ってやりたい。
見る者を石にするという魔物は、この男の方ではないか、と。
言われている意味がわからなかった。
どこで、接吻をすると言ったのだろう、この男は。
もしかすると、シィーファの内心は、表情に出ていたのかもしれない。
「だって…」
囁いたラディスが、シィーファの入口を撫でていた指の角度を変えた。
「ぅ、あ…」
くぷぷ…、とラディスの指が、身体の中に沈む感じに、シィーファは声を上げる。
ラディスの指先は、故意になのか故意にではないのか、つつぅ…とシィーファの内壁に沿って滑るようにしながら奥に進む。
「すごく、やわらかい…。 指一本では、足りないね?」
勝手なことを言いながら、シィーファの太腿の内側に口づけるラディスは、入ってきたときと同様に、内壁を擽るようにしながら出ていく。
一度、シィーファのなかから引き抜かれたラディスの指は、なぜかシィーファの入口の周辺を撫で始めた。
ラディスの指が濡れているのもあるだろうが、シィーファ自身も濡れているので、ぬるぬると滑る感じがする。
「ここ、唇みたいだね…。 私の舌を吸ってくれて…、すごく気持ちよかった」
うっとりとシィーファの脚の間を見つめるラディスに、シィーファは瞬きをした。
なるほど、と納得したとも言える。
男の象徴を咥えこむ口が、上にも下にもあるのだとすれば、唇が上にも下にもあるのも道理だ。
だが、思考は、下の唇を撫で始めたラディスに、遮られる。
「ん…」
「なか、よく解そうね。 果実と同じだ。 とろとろに熟れたら、食べ頃だものね」
ラディスが言い終わるか否かのところで、ラディスは再び、シィーファの身体のなかへと、指を滑らせた。
指が増やされているのはわかるが、身体はラディスの指をするすると呑み込む。
まるで、シィーファの身体がラディスの指を吸い込んでいるようだ、と思った。
ラディスの指が、ゆっくりと、あまりに優しく内壁を擽るので、シィーファは堪えられずに身悶えする。
「ぁ、なか、だめ」
「痛いの?」
「いたく、な、ぁ…」
声を発すると、意味をなさない喘ぎにしかならなさそうに思えて、シィーファは唇を引き結び、声を封じる。
そして、否定の意を込めてふるふると首を横に振った。
シィーファが痛がっていない、ということは、ラディスにも伝わったのだろう。
少し、考えるような間があった後で、ラディスの声が再び降ってくる。
「…痛くないの? なら、何がだめ? …怖い?」
ぎゅっと瞼を閉じたシィーファの目に、ラディスの顔は見えない。
けれど、ラディスの声がどこまでも甘く、優しいことは、わかる。
シィーファをどろどろに甘やかして、融かそうとしているようではないか、と怖くなるほどに。
ああ、そう。
それが、怖いのかもしれない。
そう思い至ったから、シィーファは小さく、頷く。
融けたら、形が保てなくなる。
シィーファが、シィーファでなくなってしまうのだ。
それは、どんなに怖いことだろう。
シィーファが一度、小さく震えると、太腿の内側にぬくもりと、さらさらとやわらかいものが触れるのを感じた。
ゆるゆると瞼を持ち上げ、恐る恐る視線を向けると、ラディスがシィーファの太腿の内側に頬を寄せている。
さらさらとやわらかい感触は、ラディスの髪だったらしい。
「大丈夫。 怖くないよ」
優しく、優しく、ラディスは口にするけれど、シィーファが何を怖がっているか理解もしないで、よく言えたものだ。
だから、少し、意地悪な問いを投げる気になったのだと思う。
「何が、怖くないの…?」
シィーファに問われたラディスは、シィーファの身体の中に指を埋めたまま、太腿に頬を寄せたまま、視線だけを上げた。
さすがに、指でシィーファを刺激し続けるのはどうかと思ったのだろう。
ラディスの指の動きは、ピタリと止まっている。
ここで、見当違いの答えを返したら、どうしてくれよう、と思っていた。
試すような気持ちだったことも、認めよう。
だというのに、ラディスは、シィーファを真っ直ぐに見つめて、微笑むのだ。
「私は、シィーファにとって、怖い存在ではないよ。 私は、貴女が怖いと思うことなんか、しない。 絶対に、貴女を傷つけないと誓うから」
言葉を終えると、ラディスは目を伏せて、もう何度目かの口づけを、シィーファの太腿の内側に贈る。
シィーファは、絶句するしかなかった。
信じられない思いで、ラディスを見る。
思考を読むことなど、不可能だと思っていた。
図星を指したと言っても、偶然にほかならない。
けれど、なぜかシィーファはそのとき、ラディスが正確に、シィーファの考えていることを読み取ったと感じたのだ。
偶然など、この世に万と転がっているというのに、人はなぜかその偶然に名前を付けたがる。
愛だとか、奇跡だとか、運命だとか。
そして、シィーファもこのときは、その偶然に、別の名前を見た。
必然という名を。
どうして、その名だったのかは、わからない。
驚愕と、困惑――つまりは、混乱のままに、シィーファはラディスを凝視していたのだが、ラディスは瞼を持ち上げて、微笑む。
「怖くないよ。 だから、続けていい、よね?」
シィーファの返事を待たずに、ラディスはゆるゆると、シィーファのなかで再び指を動かしだした。
途端、熾火のような小さな快感が、身の内で小さく燻り始める。
その快感を、なるべく意識しないようにしながら、シィーファはラディスの、瞳を見つめた。
どうして、見つめているのかもわからない。
怖いと思うのに、目を逸らせないのだ。
彼の、夜明けを待つ空のような色の瞳に、吸いこまれそうな錯覚を覚える。
魔法にかかったように、身体の自由が利かないような気さえする。
シィーファたち【石女の一族】の女を、【魔物】だと言った奴らに、言ってやりたい。
見る者を石にするという魔物は、この男の方ではないか、と。
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