【R18】石に花咲く

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石に花咲く

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 ラディスの発言に、シィーファは数瞬、思考を止めて固まった。
 言われている意味がわからなかった。
 どこで、接吻キスをすると言ったのだろう、この男は。
 もしかすると、シィーファの内心は、表情に出ていたのかもしれない。

「だって…」
 囁いたラディスが、シィーファの入口を撫でていた指の角度を変えた。
「ぅ、あ…」
 くぷぷ…、とラディスの指が、身体の中に沈む感じに、シィーファは声を上げる。


 ラディスの指先は、故意になのか故意にではないのか、つつぅ…とシィーファの内壁に沿って滑るようにしながら奥に進む。
「すごく、やわらかい…。 指一本では、足りないね?」
 勝手なことを言いながら、シィーファの太腿の内側に口づけるラディスは、入ってきたときと同様に、内壁を擽るようにしながら出ていく。

 一度、シィーファのなかから引き抜かれたラディスの指は、なぜかシィーファの入口の周辺を撫で始めた。
 ラディスの指が濡れているのもあるだろうが、シィーファ自身も濡れているので、ぬるぬると滑る感じがする。
「ここ、唇みたいだね…。 私の舌を吸ってくれて…、すごく気持ちよかった」
 うっとりとシィーファの脚の間を見つめるラディスに、シィーファは瞬きをした。

 なるほど、と納得したとも言える。
 男の象徴を咥えこむ口が、上にも下にもあるのだとすれば、唇が上にも下にもあるのも道理だ。

 だが、思考は、下の唇を撫で始めたラディスに、遮られる。
「ん…」
「なか、よく解そうね。 果実と同じだ。 とろとろに熟れたら、食べ頃だものね」
 ラディスが言い終わるか否かのところで、ラディスは再び、シィーファの身体のなかへと、指を滑らせた。

 指が増やされているのはわかるが、身体はラディスの指をするすると呑み込む。
 まるで、シィーファの身体がラディスの指を吸い込んでいるようだ、と思った。
 ラディスの指が、ゆっくりと、あまりに優しく内壁を擽るので、シィーファは堪えられずに身悶えする。
「ぁ、なか、だめ」
「痛いの?」
「いたく、な、ぁ…」
 声を発すると、意味をなさない喘ぎにしかならなさそうに思えて、シィーファは唇を引き結び、声を封じる。
 そして、否定の意を込めてふるふると首を横に振った。


 シィーファが痛がっていない、ということは、ラディスにも伝わったのだろう。
 少し、考えるような間があった後で、ラディスの声が再び降ってくる。
「…痛くないの? なら、何がだめ? …怖い?」

 ぎゅっと瞼を閉じたシィーファの目に、ラディスの顔は見えない。
 けれど、ラディスの声がどこまでも甘く、優しいことは、わかる。
 シィーファをどろどろに甘やかして、融かそうとしているようではないか、と怖くなるほどに。

 ああ、そう。
 それが、怖いのかもしれない。
 そう思い至ったから、シィーファは小さく、頷く。

 融けたら、形が保てなくなる。
 シィーファが、シィーファでなくなってしまうのだ。
 それは、どんなに怖いことだろう。

 シィーファが一度、小さく震えると、太腿の内側にぬくもりと、さらさらとやわらかいものが触れるのを感じた。
 ゆるゆると瞼を持ち上げ、恐る恐る視線を向けると、ラディスがシィーファの太腿の内側に頬を寄せている。
 さらさらとやわらかい感触は、ラディスの髪だったらしい。
「大丈夫。 怖くないよ」
 優しく、優しく、ラディスは口にするけれど、シィーファが何を怖がっているか理解もしないで、よく言えたものだ。
 だから、少し、意地悪な問いを投げる気になったのだと思う。
「何が、怖くないの…?」


 シィーファに問われたラディスは、シィーファの身体の中に指を埋めたまま、太腿に頬を寄せたまま、視線だけを上げた。
 さすがに、指でシィーファを刺激し続けるのはどうかと思ったのだろう。
 ラディスの指の動きは、ピタリと止まっている。


 ここで、見当違いの答えを返したら、どうしてくれよう、と思っていた。
 試すような気持ちだったことも、認めよう。
 だというのに、ラディスは、シィーファを真っ直ぐに見つめて、微笑むのだ。


「私は、シィーファにとって、怖い存在ではないよ。 私は、貴女が怖いと思うことなんか、しない。 絶対に、貴女を傷つけないと誓うから」
 言葉を終えると、ラディスは目を伏せて、もう何度目かの口づけを、シィーファの太腿の内側に贈る。


 シィーファは、絶句するしかなかった。
 信じられない思いで、ラディスを見る。


 思考を読むことなど、不可能だと思っていた。
 図星を指したと言っても、偶然にほかならない。
 けれど、なぜかシィーファはそのとき、ラディスが正確に、シィーファの考えていることを読み取ったと感じたのだ。


 偶然など、この世に万と転がっているというのに、人はなぜかその偶然に名前を付けたがる。
 愛だとか、奇跡だとか、運命だとか。


 そして、シィーファもこのときは、その偶然に、別の名前を見た。
 必然という名を。
 どうして、その名だったのかは、わからない。


 驚愕と、困惑――つまりは、混乱のままに、シィーファはラディスを凝視していたのだが、ラディスは瞼を持ち上げて、微笑む。
「怖くないよ。 だから、続けていい、よね?」
 シィーファの返事を待たずに、ラディスはゆるゆると、シィーファのなかで再び指を動かしだした。
 途端、熾火のような小さな快感が、身の内で小さく燻り始める。
 その快感を、なるべく意識しないようにしながら、シィーファはラディスの、瞳を見つめた。
 どうして、見つめているのかもわからない。
 怖いと思うのに、目を逸らせないのだ。


 彼の、夜明けを待つ空のような色の瞳に、吸いこまれそうな錯覚を覚える。
 魔法にかかったように、身体の自由が利かないような気さえする。


 シィーファたち【石女うずまめの一族】の女を、【魔物】だと言った奴らに、言ってやりたい。
 見る者を石にするという魔物は、この男の方ではないか、と。
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