【R18】石に花咲く

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石に花咲く

21.

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「口、開いて。 舌でキスしよう、ん」
 シィーファの眼前で、「ん」と言いつつ舌を出したラディスに、シィーファはいとも容易く釣られた。
「ん…」
 ラディスに顔を近づけて、舌を出し、舌を合わせる直前で目を閉じる。
 くちゅ…、と小さな水音がして、舌と舌が擦り合わさる感じに、お腹の奥が疼いてくる。
 気持ちよくて、シィーファがふるっ…と震えると、ラディスはシィーファの舌をちゅううと吸った。

「んんぅ…」
 舌への刺激が、お腹に響いて、無意識のうちに腰が動いてしまう。
 脚の間と、ラディスの太腿が擦れるのが、気持ちいい。
 ラディスの太腿を使って自慰をしているようだ、と思えば、いけないことをしているようで、背徳感に更に脚の間が疼く。


 その、シィーファの腰の動きに気づいたのだろうか。
 シィーファの舌を吸いながら離れたラディスは、にこりと微笑む。
「気持ちいい、ね」
 含みがあるのかないのかわからずに、シィーファが気まずい思いをしていることになど気づかないのか、ラディスはシィーファの寝間着の結びを片方解いた。


 ラディスたちの文化圏で言うところの、ワンピース風の、ゆったりとした寝間着は、丈が長い。
 袖はあるものの、襟ぐりと肩口は大きく開いている。
 肩のところの結びをもう一つ解けば、すとんと落ちて、あっという間に裸体があらわになるだろう。

 ラディスは、シィーファの寝間着の結びを摘まみながら、ちゅっとシィーファの肩に口づける。
 まさか、肩にも口づけられるとは思わなくて、シィーファがビクリとすると、ラディスはパッと顔を上げた。
「あ、ごめん。 早急すぎた?」
 その反応に、シィーファは首を横に振る。
「わたしは、初めてでもないし…。 でも、初めての娘相手には…、奥様になる方には、もっと段階を踏んであげない、と」


 もっともなことを、言ったつもりだった。
 けれど、何かが気に障ったのだろうか。
 気に障ったのだとしたら、何が気に障ったのかわからない。


 ラディスは、シィーファの言葉を遮るように、シィーファの言葉を奪うように、口づけてきた。
「は…」
 ぢゅっと強く吸われた舌が痺れるようだ。
 感覚を確認するために、シィーファが自分の薬指でそっと舌に触れていると、ふと、顔に影が落ちる。

 視線を上げると、ラディスが微笑んでいたのだが、何かがいつもと違うと感じて、腰が引けそうになる。
 ああ、そう、理由はわからないけれど、その微笑みを、怖いと思ったのだ。

 だが、引けそうになった腰は、ラディスに抱かれて、ラディスの方へと引き寄せられてしまう。
「そう、わかった。 では、私は初めての相手にするつもりでするから、シィーファも初めてのつもりで抱かれて?」
 ラディスは微笑みで語ったが、シィーファは一度で理解できなかった。


 初めての相手にするつもりでするから、シィーファも初めてのつもりで抱かれて?


 頭の中で繰り返してみたが、まだ理解できない。
 三度、四度繰り返してみて、ようやく気づいた。
 どうやら、この王子様は、処女と処女を散らす男ごっこがしたいのだろう。

 ラディスのしたいことはわかったが、では、それができるかどうかというと、また話は別だ。
「え、そんな、無理」
 シィーファはふるふると首を横に振ったのだが、ラディスは何に怒っているのか、微笑んだまま、断固として譲らない。
「祖父が言っていたよ。 初めてでなくても、初めてのふりをする女もいるから気をつけろ、と」


 だから、貴女もできるでしょう、と言われたのか。
 それとも、貴女が初めてのふりをして、そういう女に騙されないように教えてくれ、ということなのか。
 シィーファが悩んでいる間に、ラディスは、ちゅっとシィーファの唇を啄んでくる。

 ラディスは、是が非でもごっこ遊びを始めるつもりらしい。
 だから、シィーファは、あまり思い出したくもない初体験のことを思い出しながら、ラディスを受け入れることにしたのである。



*:.。..。.:*●*:.。..。.:*○*:.。..。.:*●*:.。..。.:*○*:.。..。.:*●*:.。..。.:*○



 一族の、ほかの女たちは、シィーファのことを幸運だったというが、シィーファは自分が幸運だったのかどうか、はかりあぐねている。

 シィーファは、初めての見世みせで、身請けされることが決まった。
 シィーファを気に入ったのは、とある国のお貴族様――公爵家の若君だという話だっただろうか。
 シィーファは、その場で身請けされることが決まったが、貴族の子弟に女や性について教える教育係として買われたのではなかった。


 若君の、玩具として、買われたのだ。


 あとから聞いた話だけれど、この若君は、女癖が悪く、女遊びが激しかったらしい。
 どこぞの女を孕まされても困る、と危惧した公爵が、若君に女をあてがうことを思いついたらしい。
 身元がはっきりしていて、絶対に孕むことのない、女を。

 シィーファは、公爵様の敷地内、離れに囲われることになった。
 身請けされていくシィーファを、里の者は皆、お貴族様の愛人になるのだ、と思って見ていたことだろう。
 シィーファも、そう思っていたが、的外れなことだった。
 シィーファは愛人ですらなく、その若君の、性欲処理の道具だったのである。

 里では、一族の、遠縁の男から性教育を受けた。
 だが、触れたり触れられたり、といった様子で、目的は技巧の取得と、女の身体の開発だったのだと思う。
 シィーファたちは、一族にとっては【商品】なのだから、その商品価値を失くすようなことは、なされなかった。


 シィーファの処女は、若君に散らされたのだが、初体験は、それはひどいものだった。
 恐らく、若君が今まで遊んでいた相手とは、年上の人妻や未亡人、玄人の娼婦などだったのだろう。
 身体が、完全に開かれている女たちだ。

 だが、シィーファは開発されていたとはいえ、未通の乙女。
 ろくに前戯もされずに、誰も受け入れたことのない身体をこじ開けられ、押し開かれるのは苦痛でしかなかった。

 若君にとって、シィーファは所詮性欲処理の道具。
 触れたいときに触れたいところにだけ触れて、あとは突っ込み、精を放てば、終わり。
 それだけの存在だったのである。


 更に悪いことには、若君は、シィーファとの行為で、嗜虐趣味に目覚めたらしかった。
 シィーファのせいではない、と思いたいのだが、苦痛によって体内の収縮が強くなることに、若君は気づいたらしい。
 シィーファは行為の最中に、叩かれたり噛まれたりすることが増えた。
 それでもシィーファは、自分は若君の【もの】なのだからと、じっと耐えていた。


 若君には、妹君がいたようで、離れから出られないシィーファのところに遊びに来てくれる、妹君にも救われていたのだと思う。
 だが、若君の嗜虐趣味は、どんどんひどくなっていき、終いには首を絞められるまでになった。


 思い出してもゾッとするのだが、シィーファはそのとき、呼吸が止まっていたらしい。
 妹君が気づいて、助けを呼んでくれなければ、シィーファは恐らく、今、この世にはいなかっただろう。

 若君の行方についても、シィーファは知らない。
 彼はどうやら、シィーファを殺してしまったのだと思い込み、行方を眩ましたらしいのだ。
 公爵様は、跡取りであるはずの若君を勘当すると言い、シィーファに対する援助を申し出てくれた。


 シィーファの冷静な部分が、手切れ金と、慰謝料、口止め料だろうか、と考えた。


 公爵様は、若君がシィーファに何をしていたのかご存じだったのだろう。
 シィーファを憐れんで、同情してくださったのだ。
 もう、ほかの誰にも、道具のように扱われずに済むように。
 意に沿わぬ相手に、いいようにされずとも済むように、シィーファを援助してくださっている。


 幸か不幸か、シィーファは、男というものを、彼以外にらなかった。
 昨夜、ラディスに抱かれるまでは。

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