【R18】石に花咲く

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石に花咲く

20.**

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 何があったのか口にせずとも、ウーアやセネウには何があったのか気づかれているのだろう。
 まあ、それは、いつも以上に上機嫌なラディスの様子や、敷布を洗ったり寝具を干したりするシィーファを見ていれば、察しがつこうというものだ。


 忘れてはいたが、身体を重ねた当人との関係より、周囲の人間の視線や、周囲の人間にどう見られているか考える方が気恥ずかしいものだったな…とシィーファは思い出す。


 さて、一緒にお風呂に入る、という、したいことを終えたラディスは、昼間はシィーファが湯を使う間傍にいたが、今夜は先に湯を使った。
 シィーファは、ひとりでのんびりゆっくりと湯に浸かり、上がってきたわけなのだが…、ラディスはまだ寝ていなかったらしい。

「ゆっくりできた?」
 オレンジ色の薄明かりがついた寝台の真ん中から、彼がそう尋ねてくるので、シィーファは寝台に近づいて、寝台に上がる。
「…おかげさまで」


 シィーファはラディスの隣に座り、そのまま横になろうとしたのだが、シィーファの腰に腕を回したラディスに抱き寄せられて、抱きかかえられてしまう。
「シィーファはお風呂が好きだね」
「ん…」
 耳に吐息がかかるくらいの距離で囁かれて、シィーファはびくりとする。

 ラディスは、後ろからシィーファを抱きしめながら、耳の裏というかうなじというかのあたりで、すぅーっと深く息を吸い込んだ。
「いい匂い」


 それを言うなら、ラディスだっていい匂いだ。
 同じ石鹸を使っているのだから。
 でも、恐らくラディスが言いたいのは、そういうことではないのだろう。


 一応、褒められてはいるし、ラディスにそういった意図はないかもしれない。
 だとしたら、過剰に反応するのはよくないだろう。
 そう、一瞬のうちに計算して、シィーファは少しだけ嫌がる素振りを見せる。
「くすぐったいです」

 ふいと顔を背けると、ちゅうっと耳の輪郭を吸われてしまって、シィーファは震えた。
 そして、呑気に自意識過剰かもしれないと思っていた自分を呪う。
 ラディスはどうやら、そういう意図をもって、シィーファに触れているらしい。

「髪が短いと、耳にも、首にもキスしやすいね。 うなじにほくろがあるのも、誘っているみたいだ」
 ちゅ、ちゅ、と耳から首筋を辿って、ラディスの唇がうなじにまで下りていく。
 そして、ラディスが強めにちゅうっと吸ったのは恐らく、ほくろがあると言った位置だろう。

「ん…」
 肌を吸われる、というのもなかなか慣れなくて、シィーファは身悶えする。
 お腹に回されていたラディスの手が、胸の方へと上がっていくのに気づいて、シィーファはわずかラディスを振り返った。
「あの、今夜も、ですか?」


 シィーファの問いに目を丸くしたラディスは、胸へ向かって腹部を上に移動し始めていた手を、そろそろとお腹まで戻した。
「シィーファが嫌ならしないよ」


 ラディスの手は元の位置まで戻っており、まるで、何事もなかったかのように微笑んでいる。
 シィーファの臀部に当たっているものは、気のせいだろうか、と首を傾げたくなるほどだ。


 恐らく、ラディスは、初めて女を知って、行為の快感を知って、行為に夢中になっているのだろう。
 シィーファは、ラディスの正確な年齢を知らないが、年頃の男性としては、普通の反応だと思う。


 ラディスはそうだとして、シィーファはどうなのだろうか。


 シィーファが嫌ならしない、という言葉を受けて、シィーファは考える。
 果たして、シィーファは嫌なのだろうか、と。

 身体を重ねることは、シィーファたちにとっては【仕事】だ。
 多少嫌なことをされたところで、我慢しないわけにはいかない。
 そういった客がいることを加味すれば、ラディスはかなりの【上客】なのだ。


 ラディスの触れ方は、優しくて、丁寧で、なかで気持ちよくなれたことのないシィーファでも気持ちよくなれて、驚いた。
 恋人ごっこはシィーファには甘すぎて、糖分の過剰摂取は身体に悪いのではないかと危惧しつつも、決して嫌ではない。


「…嫌と、いう、わけでは…」
 自分の声が、耳に届いて、シィーファはハッと我に返る。
 今の葉、自分が発した言葉だろうか? いや、他に誰もいないのだからそうとしか考えられないのだが。
 最近、自分の唇が自分のものではないようにぼろぼろと本音を零すので、シィーファは地味に困っている。


「嫌ではない? 嬉しい、シィーファ…」
 後ろから、ラディスにぎゅう、と抱きしめられて、ちゅ、と目尻に口づけられる。


 ラディスの手が、許可を得た、とばかりにお腹を上へと移動し始めるので、シィーファは慌てた。
「ちが、あの、今の、は、っぁん」


 むに、と寝間着の上から、下から持ち上げるように胸を揉まれて、シィーファは身悶えする。
 その瞬間に、体勢を崩してしまって、シィーファはラディスの身体に背中を預けるようにしてずり下がってしまった。


「違う? やっぱり、私とはしたくない?」
 緩く首を揺らしたラディスが、シィーファの瞳を覗き込んでくる。


 一晩で、手が早くなって、と思わないわけではないが、優しく胸を撫でられて、ちゅ、ちゅ、と耳や首筋に口づけを繰り返されると、堪らなくなってしまう。
 耳も、首筋も、気持ちいい。
 やわやわと、寝間着の上から揉みしだかれる胸も気持ちいいけれど、お腹の奥が、疼いてくるのだ。
 それに、口づけもしてほしい。


 もしかすると、物欲しそうな顔をしていたのだろうか。
 そうしてほしいと言ったわけではないのに、ラディスはシィーファの唇を、ちゅうと吸ってくれた。
 でも、後ろから覗き込まれて、触れるだけの可愛い口づけでは足りなくて、シィーファはラディスの上から退こうとする。
 向かい合えば、もっと深い口づけをしてもらえると思ったからだ。


 だが、ここで誤算だったのは、ラディスが優しいだけでなく、本当の紳士で、理性がよく利く性質だったことだ。
 ラディスの言っていた、「シィーファが嫌ならしない」というのは、出まかせや強がりではなかったらしい。
 あっさりとシィーファの身体を解放してくれてしまったのだ。
 恐らく、シィーファがラディスの上から退いたのを、「シィーファが嫌がっている」と受け取ったのだろう。

 ということは、シィーファが欲しがらなければ真実、ラディスはシィーファに手を出しては来ない。
 肉食系と見せかけて草食系なんて、質が悪すぎやしないだろうか。
 普段なら、真面目でいい子じゃないか、と思うところに心の中でケチをつけながら、シィーファはラディスに向き直り、膝立ちになって、その首に腕を回した。
「違わない」

 そういえば、昨夜も同じようなやり取りをしたような気がしないでもない。
 そんなことを考えつつ、言葉が終わるか終わらないかのところで、シィーファはラディスの唇を、かぷりと塞ぐ。
 もちろん、ラディスが口づけされることを予測して、口を開いてくれたから、できたことだけれど。

 ラディスの口内に舌を滑り込ませれば、ラディスはシィーファの舌に舌を擦り合わせてきて、舌からぞくぞくとした快感がお腹に響く。
 ばかりでなく、ラディスの手がそれぞれ、シィーファの胸の膨らみを包み込んで、シィーファはびくりとした。
「んっ…!」


 ラディスは、覚えもいいが、勘もいい。
 シィーファの尖り切った胸の先なんて、薄い寝間着越しにすぐ見つかったのだろう。
 胸の膨らみをやわやわと揉みしだくようにしながら、指の先で胸の尖りをくにくにと刺激され、シィーファは喉の奥から喘ぎを漏らす。
「ん、ん~~…」

 だが、その喘ぎはラディスの口の中に吸い込まれた。
 それだけでなく、ラディスに舌を吸われつつ、唇で舌を扱かれてしまう。
 舌から走った快感に、膝から力が抜けて、シィーファはへなへなとラディスの太腿の上に座り込んでしまった。


「ぁっ…」
 ラディスの太腿の上に座り込んだら座り込んだで、脚の間がラディスの太腿に刺激されて、シィーファは小さく声を上げる。


 身体が、敏感になっているのに、物足りないような感じがする。
 いつの間に、こんなに欲張りに、貪欲になってしまったのだろう。
 シィーファたちは、仕事で閨の相手をするが、決して淫乱というわけではなかったのに。

 自分の変化に戸惑い、恥ずかしくなって俯きかけたシィーファの眉間に、ラディスは唇を押し当てた。
 本当に、押し当てるだけの口づけだったから、ラディスはシィーファの気を引きたかっただけなのだろう。
 まんまと釣られて、シィーファが視線を上げると、ラディスは微笑んで首を揺らしていた。
「シィーファ、続けていいの?」


 その微笑みがきれいで、五本の指をばらばらに動かして揉まれる胸が、気持ちよくて。
 指と指の間に挟まれた胸の尖りへの刺激を、やめてほしくなくて、シィーファは胸を揉むラディスの手に自分の手を重ねた。
「ん…、もっと…」
 ラディスは、目を見張ったかと思うと、頬をほのかに染めて目を伏せる。
「…シィーファは、急に大胆になるから、困る」
「え…、困る、ものなの…?」
 シィーファも驚いて、首を傾げた。

 女が淫らだと、男は悦ぶものではないのか。
 少なくとも、仕事をする上では、少し淫らに振舞うくらいがいいと言われていたのに、違うのだろうか。
 それとも、昨日まで童貞だったラディスだから、そう思うのか…。
 シィーファがぐるぐると考えていると、シィーファの胸の膨らみに触れていたラディスの手が動いて、指の谷間で、胸の尖りが刺激される。


「ぁん」
 思わず、ラディスの手に重ねた手に、力を入れてしまったのだが、爪を立てたり引っかいたりはしていないだろう。
 ラディスは、すかさず、シィーファの唇を啄んで、目と鼻の先で微笑んだ。
「嘘。 私の前でだけ大胆なら、私は嬉しい」
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